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最近、滝夜叉丸に元気がない。
あの子に元気がないなんて、あの先輩がらみ以外に考えられない。

一体滝になにやらかしてくれたんだ、あの暴君。

滝夜叉丸が暴君として名の知られている3年の七松小平太と付き合い出したのは、高校1年の4月。
私たちが入学してすぐのことだった。
中高一貫校のこの男子校は、学園長の有り難くもない思い付きから成り立っていると言っても過言ではないほどのおかしな校則が存在する。
中高の合わせて6学年の委員会活動はその中のひとつで、そもそも滝夜叉丸があの暴君と出会ったきっかけはその委員会活動なのである。

「滝、そんな顔してどこ行くつもり?」
「何を言っているんだ、喜八郎。私はいつもどおりだろう?委員会があるんだ。私が行かなければ委員会にならない」
「そんな泣きそうな顔して?」

言った瞬間、滝夜叉丸の顔が歪んだ。
自分でも今どんな顔をしているのかが分かったのだろう。
それでも教室を出て行こうとするので、とっさに手首を掴み強く名前を呼んだ。

滝夜叉丸は私に弱い。
現に今、強く拘束しているわけではないのに振りほどこうとはしない。
そして滝夜叉丸は弱みを人に見せることを嫌う。
全て一人で抱え込み、自爆するタイプなのだ。
けれど私はそれを黙ってみていることができない。
私が滝夜叉丸を好きだから。
友情なのか愛情か、はたまたそれ以上の何かなのか。
悶々と考えているうちに七松先輩に掻っ攫われていた。
気に入らない。
それに滝夜叉丸は中学時代から七松先輩に対して柔らかい表情を見せていた。
今思えば滝夜叉丸は中学の頃から彼が好きだったのだろう。
更に気に入らない。

「それでどうするつもり?その顔で委員会に行くの」

有無を言わせない口調で問いかける。
ずっと黙って下を向いていた顔を勢いよく上げたかと思うと、その目にはうっすらと涙の膜がはっていた。
黙って見つめていると、ようやく口をきいた。

「…七松先輩が、ミサンガをつけていた」

一瞬、全く理解することができなかった。
七松先輩がミサンガをつけていたからどうだというのだ。
いまどきミサンガなんて、どこにでも売っているし、アクセサリー感覚でつけている人だってそう珍しくはない。
そう思ったのが顔に出たのか、滝夜叉丸は自分を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出して、説明を付け足した。

「そのミサンガは、隣の女子高の生徒からもらったものなんだ。全国大会が近いからと、勝てるおまじないだと言って」
「ようは、滝はその子に嫉妬してるわけだね」
「違っ、」
「違わないでしょ。まぁ、滝がいながらそれを受け取る七松先輩も七松先輩だけど」

やはり、あの暴君絡みだったのだ。
聞く前から分かっていたものの、やはり直接滝夜叉丸の口から聞くとあまりおもしろくはない。

「それで、滝はどうしたいわけ?滝もミサンガ渡す?」
「…そんなことできるわけがないだろう。先輩は私がこんなこと思っていることすら気付いていないのだから」

滝夜叉丸は分かっていない。
気付いていないように見せかけて、気付いているのがあの先輩なのだ。
どうせ、滝夜叉丸に嫉妬してほしかったのだろう。
滝夜叉丸は、あまり七松先輩に対してわがままを言わないから。
きっとそれが引っ掛かっているのだろう。
そんなところが私の気に入らないところではあるのだが。

ため息をひとつはいて、滝夜叉丸の手をひっぱり教室を出た。
向かうは3年2組の教室だ。
授業が終わってそんなに時間は経っていない。
きっとまだ教室にいるだろう。
はじめは大人しくついてきていた滝夜叉丸だが、向かう方向に何かを察したのか途中で歩みをとめた。

「私は、行かないぞ」
「さっきまで委員会に行くと言っていたのはどこのだれ」
「それとこれとは話が別だ」
「別?確かに別かもしれないけど、委員会よりももっと大事なことがあるんじゃないの?」

行動に移すことが苦手な滝夜叉丸だから、多少強引にでも連れていかなければいつまでたってもうじうじと悩み続けるのだろう。
それが分かっているからこうして私がいやいやながらもあの暴君のところへつれていこうとしているのだ。


「あれ、滝?」

突如、後ろから声がかけられた。
振り向かなくても分かる。
話題の中心人物である七松小平太だ。
滝夜叉丸が隣で固まったのが分かる。
私はゆっくりと振り向き、にっこりと笑って言った。

「先輩、今度滝を泣かしたら、いくら先輩と言えども容赦はしませんから」


**********

綾部視点のこへ滝。
そしてどこにもオチがない…

綾部は滝が好き。
でもそれは多分、恋愛感情としてっていうよりは、滝は自分のものっていう意識のほうが強い。
綾部にとって、自分に正面からぶつかってきた初めての人が滝だったから。
こへに滝が取られたと思ってるから内心面白くはないけど、でも滝が泣いたり落ち込んだりするのはもっと嫌。
滝はなかなか自分から行動に移せないタイプ。
で、ぐるぐる自分の中で消化できずに爆発する。
こへには綺麗な自分を見せたいから、弱い自分や醜い自分を隠すように接してる。
でもこへは滝に、もっと感情をぶつけてほしいって思ってる。
今回、ミサンガを受け取ったのも滝に嫉妬してもらったり、わがまま言ってほしかっただけだから。
だからきっと、すぐにミサンガは捨てちゃう。
…女の子からしたらひどい男だなw
でもきっとこへは女の子にもてる。
こへ滝ってなんかお互いに好きなのに、どこか一方的にすれ違ったりしてそうなイメージ。
でもきっと他人から見たらもどかしいだけのカップル(笑)


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