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「なんで喧嘩したの」

治療を続けたまま、しかしその声は明らかに怒気が含まれているのが分かる。
数馬は怒らせたら恐い。
いつもは優しく笑っていることが多いから、そんな風には思われないんだろうけど、分かる人には分かる。
それに、怪我について恐ろしく敏感なのは、保健委員会だからという理由だけではない気もする。
黙ったままの俺の隣で、左門が反論した。

「だって!あいつら作兵衛のこと馬鹿にしたんだ」
「だからって上級生に向かって喧嘩売ることないでしょう。三之助も!なんで止めなかったの」
「三之助だって思いっきりキレてたぞ」

自分に怒りの矛先が向けられた。
確かに左門の言うとおり俺も止めるどころか喧嘩に参戦してしまったものだからなんとも反論できない。
でも、確実に悪いのはあいつらだ。
俺たちは悪くない。

「作の悪口を言われた。それで俺たちが黙っていられると思うか、数馬」
目を見て言い放つ。
だってそれが事実だ。

あからさまにため息をついた数馬は、で、勝ったの負けたの、と聞いた。

「もちろん勝った」
「上級生って言っても対して腕の立つ人たちじゃねぇし」
「そんなぼろぼろな姿で言われても説得力ないよ」

もう怒りは消えたのか、困ったように笑った数馬は俺の包帯を巻き終えてぽん、と軽く叩いた。
「はい、治療は終わり。でも作ちゃんが迎えに来るまではここにいてよね。こんな怪我で二人して迷子に何てなられたらたまったもんじゃない」
左門は迷子だけど、俺は迷子じゃないぞ、と反論しかけてやめた。
どうせ言っても、誰も信じてくれないんだ。

「作兵衛はどこに?」
「確か今は委員会中だよ。生物委員会の壊れた虫籠を修繕するって言ってたから。孫兵と一緒なんじゃないかな」
「そういえば、今日の朝、毒虫脱走事件があったな。あれか」
他愛ない会話をしながら、数馬の入れてくれたお茶を飲む。
切れた唇が少し痛くて、あぁ喧嘩したんだったと今更ながらに実感した。

大人しく作兵衛が来るのを待っていると、ドタバタと数人分の足跡がした。
と思うと同時に、障子が勢いよく開け放たれた。
「数馬!!!」
逆光になっているため分かりにくかったが、確実にさっきまで話題に上がっていた作兵衛と孫兵、それから藤内だ。
しかも明らかに作兵衛は焦っている。
他人が見たら怒っているように見えるのかもしれないが、あの声音と態度は明らかに焦っている。

「な、何?作ちゃんがそんな焦ってるなんんて珍し…」
「こいつら咬まれた!」
数馬が言い終わらないうちに、作兵衛は両側に連れていた孫兵と藤内を俺と左門を押しのけて数馬の前に座らせた。
焦っている作兵衛に聞くよりも、落ち着いている孫兵たちに聞いたほうが早いと思ったのか、数馬は何があったの、と孫兵に尋ねた。

「委員会で、また毒虫が脱走してその毒虫に咬まれたんだ。私と藤内が。藤内はたまたま近くを歩いていただけだったんだが」
「え!?」
「毒虫といっても毒性は極めて低いぞ。応急処置も施した。大丈夫だと言ったんだが作兵衛が聞かなくてな」
「だって毒虫だぞ!?もしちゃんと応急処置ができてなくて死んだりしたらどうするんだよ!!」
「だから、毒性は低いから死ぬことはないんだって、作。落ち着けよ」

咬まれた本人たちよりも、作兵衛の方が必死なのはどうしたものか。
だけど、大丈夫だと言いながらも孫兵や藤内がここまでついてきたことを考えると、結局はみんな作兵衛に弱いんだということを実感する。
会話を聞いている限り、二人とも全然大丈夫そうなのに。
左門や数馬と顔を見合わせ、あぁ作兵衛らしいな、と笑った。


**********

3年生はみんな仲いいんだよ、的な(笑)
多分この後、三之助と左門が怪我してるのに気付いた作兵衛がまた焦って大騒ぎするはず。
自分の知らないところで、友達が怪我してるのも嫌な作。
そんな作兵衛が大好きな3年生。
それでいいよ←





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