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「…これ、どうすんの?」
「答え聞かなくても分かるんだけど…」
「てか、これでかすぎじゃね?」

10月31日。
今日は世に言うハロウィンだ。
街中を歩けばオレンジ色の装飾、お化けや魔女がモチーフとなっているキャラクターが出迎えてくれる。
さすがに、子供たちが家々を回ってお菓子を貰いに行くという風習は日本にはないが、ハロウィンというイベントに乗っかったお菓子メーカーとかはいろんな催しをしているらしい。
だが、さすがに二十歳を超えた大学生である俺たちにとってそれは無縁のもの。
であったはずだった。
三郎から「授業終わり次第うちに来い。決定事項。拒否権なし」というメールが一斉送信で送られてくるまでは。
当たり前のように一斉送信先の名前は見覚えのあるものばかりだった。

三郎の部屋に着いた俺たちがまず目にしたものは、キッチンテーブルの上に置いてあった今までに見たこともないようなどでかいカボチャだった。
それを目撃した時点で、今日の俺たちの予定は決定した。

「俺が、目と鼻と口の印つけといたから、ハチお前が彫れ」
「なんで俺だよ!」
「え、でもハチが一番器用じゃない?」
「そういう問題なの、雷蔵」
「つーか、なんでそんな三郎偉そうなの」

一度こうなったらもう後には引けない。
ちらりと三郎を見るといつもよりも少し楽しそうに細められた目と目が合った。
そういえば、三郎はこういうイベントが好きだったなと思い返す。
よし、やるか!

「じゃあ俺が顔は彫ってやるから、誰か中身くりぬけよ」
「あ、じゃあ俺それやりたい!」

勘右衛門が手を挙げてそう主張した。
しかし、直径30センチはあろうかというでかいカボチャ。
しかもカボチャは思っているよりも堅い。
結局、勘右衛門の次に兵助、そのあとに雷蔵と交代しながらなんとかすべてくりぬいた。
その間手が痛い、なんか気持ち悪い、でかすぎだろ、等々文句が飛び交ったが三郎は聞かぬふりを貫き通した。
分かってたけど、こいつ何も手伝わない気だな。

そうやって中身の抜けたカボチャの横には、ボウルに入ったオレンジ色の塊。

「この中身どうすんの?」
「んー…適当に料理に使っちゃえば?」
「そう言えば、ホワイトシチューのルーがあるから今日はシチューも一緒に作ろっか。カボチャ入りで」
「シチューだったら適当に突っ込んじゃえばいいもんな」

問題は解決したとばかりに、早速雷蔵ががちゃがちゃと鍋やら何やらを取り出し始める。
その横で兵助が戸棚をあけてルーを探す。
そして冷蔵庫を開けて、材料になりそうなものを物色する勘右衛門。

「お前ら、ここ俺の部屋だって知ってる?」
「まさに、勝手知ったる他人の家ってやつだな」

カボチャを前に俺と三郎はその光景を見つめていたが、よくよく考えてみればそれは今までにも当然のように行われる光景だったので放っておくことにした。

「さ、仕上げるぞ三郎。これ、どれで彫ればいいわけ?包丁とかじゃ無理だろ」
「あー、そこまで考えてなかったな」

人に命令しといて言われて初めて気付いたのか、このやろう。
とぼけるように、ぽんと手を叩いた三郎を呆れたように見て思う。

「お前な、ここまでやるんだったら準備しとけよ」
「や、なんとなくできるだろうとは思ってたんだがな」

うーん、と少し考える仕草をした三郎はいきなりあ!と叫んでクローゼットの中を探りだした。
なぜクローゼットなのか、と思ったがそれはすぐに分かった。
三郎が手にしていたもの、それは。

「うわ、なんだそれ懐かしい!」
「だろ?まさかこれが再び役に立つ時がくるとはな」
「なんでまだ持ってんだよ、彫刻刀」

小学生の時に使った彫刻刀。
先が丸いもの、三角のもの、平らなものと5本セットになっているやつだ。
確かに、その平らな彫刻刀だと綺麗に彫れるだろうと思う。

「いやー、捨てる機会を逃してたっていうか?ほら、裁縫道具セットとかも捨てにくいだろ?」
「あー、まぁ確かに?」

先が平らな彫刻刀を取り出し、三郎が前もってカボチャに書いてあった顔の目の部分に刃を立てる。
思ったよりも力を入れずに刃はうまく刺さった。

「お、なんかうまくできそう」
「さすが俺だな」
「お前、この顔書いただけじゃねぇか」

三郎は俺の手元を見たまま視線を外さない。
そんなに完成が楽しみなのだろうかと思ったが、きっと三郎はジャックオーランタンの完成が楽しみなのではなく、今このメンバーで時間を共有していること。
ただそれが楽しいのではないかと思いなおした。

「三郎、お前可愛いとこあるな」
「は?きもいこと言ってないで手を動かせ、手を」
「はいはい」

しばらく無言が続いた。
キッチンの向こう側から、カチャカチャと食器の音やトントンと包丁の音が聞こえてくるのがなんとも落ち着く。
時折、聞きなれた声で馬鹿みたいな会話や笑い声が聞こえてくるだけでそこに安心感が広がる。
三郎が楽しそうにしている理由が俺にも分かる。

「よっしゃ、完成!」
「よくやった、ハチ!」

完成という言葉を聞きつけて、キッチンにいた三人が戻ってきた。
そしておぉ、という歓声を上げて完成したジャックオーランタンを見つめる。
少し不気味で、けれどどこか愛嬌のある顔をしているそれは、俺たち五人にぐるりと囲まれて少し居心地悪そうに見えた。
後でまたこのジャックをとり囲んで、出来上がったうまいシチューをみんなで食べよう。


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Happy Halloween!!

09.10.31


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