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*大学生設定


家に帰るのはいつぶりだろうか。
家までの道のりを歩きながらふと考える。
最近は研究が立て込んでいて、ほとんど研究室で寝泊りするという生活を送っていた。
兵助とも随分顔を合わせていない。
同じ部屋に住んでいるのに、何日も会えないなんて。
時間を見つけて何度か電話をしたが、兵助にも都合がある。
あまり長い時間話す機会もなかった。
兵助のことを思うと歩む速度が速くなる自分自身に苦笑して、一直線に部屋へ向かった。

「おかえり」
帰って早々、兵助はベッドの上で両手を広げてそう言った。
特に笑っているわけではなく、機嫌が悪いというわけでもなさそうだったので、一瞬どういう反応をしていいものか戸惑う。
それが伝わったのか、兵助は「ん」と言って、一度ぽすぽすとベッドを叩いてまた先程と同じように両腕を広げた。
あぁ、甘えろとそういう意味だと気付いた俺は、手にしていた荷物を適当に放り投げてベッドへと近づいた。
少し勢いを付けて兵助の腕の中に飛び込んでみる。
思ったよりも勢いがつきすぎていたようで、兵助は俺を乗せたまま、後ろへ倒れこんだ。
はぁ、と一息ため息をつくと、無言でそっと頭を撫でられた。
兵助がつぶれないように、少し体重を移動させる。
それからただいま、と今更ながらに返事をした。

その状態のまま、二人で会えなかった時間の話をした。
三郎がまた雷蔵を怒らせたとか、勘右衛門が木下先生と旅行に行ってそのお土産をもらったとか、買い置きしていたシャンプーが切れたから今度はいつもと違うシャンプーにしてみようだとか。
そんなありふれた日常の話でしかなかったけれど、その日常からほんの少しの間離れていた俺には少し新鮮に感じられるものだった。
何よりも兵助が傍にいる日常が。
また明日からその日常が戻ってくるのだと思うとなんだか気が抜けたような気がしてほっとした。

「なぁ、兵助」
「んー、何だよ」

広いとは言えないベッドの上、男二人というのは少々狭いものがある。
すぐ近くにあった兵助の脇腹目指して手を伸ばす。
そのままくすぐってみた。
案の定、不意を突かれた兵助はもろにその攻撃を受けて笑い転げている。
息も絶え絶えにやめろ、とかばか、という言葉を発しているが、そのままくすぐり続ける。
激しく抵抗するので、安物のベッドはぎしぎしと悲鳴を上げた。
どん、と兵助が蹴りあげた足の先に俺の腹。
別にそこまでの衝撃は受けなかったが、観念して兵助の上に乗っかった。
今度はさっきみたいに体重を移動させることなく、そのまま体重を兵助にかけるようにして。
息を切らした兵助が重い、と一言つぶやいたのが耳元で聞こえた。
何だかそれがおもしろくてくつくつと笑う。

「笑うな、ばかはち。せっかく俺が疲れて帰ってきたお前を甘やかしてやろうと思ったのに」
「充分だ。元気出た」
「俺は元気なくなった」

不機嫌そうにそう答える兵助に、感謝の意味を込めてこめかみに唇を寄せる。
そして、少し上体を起こして顔を覗き込んだ。

「騙されないからな」
大きな目に涙をためてそんなことを言われても、とそう思ったがそれを口に出すとますます兵助の機嫌が悪くなりそうだったのでやめた。

こつん、と額同士を合わせる。
鼻と鼻がくっつくその距離ではもう兵助以外見えない。
それは兵助も同じだろう。
ふっと兵助が息をつめたのが分かった。

「兵助、好きだよ」
ありがとう、と改めてそういう意味を込めたキスを今度は唇へ送る。
ちゅっ、と音を立てて離した先にあった兵助の唇は緩く弧を描いている。

「仕方ないから騙されてやる」
顔を赤くした兵助は俺の腕の中で柔らかく笑った。


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10.01.15


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