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とうに日は落ちて、暗くなった部屋の中。
温かな布団に入り、うとうととまどろんでいた意識の中で、カサリと衣擦れの音が響いた。
隣で眠っているハチが寝返りでもうったのだろうかと思ったが、既に眠気が勝っているために目を開けて確認することはやめた。
もう意識が沈むという瞬間に、頬に暖かい体温がそっと触れた。
「兵助…」
名前を呼ばれる。
基本的に普段は大声で話すことの多いハチの、少し控えめな囁くような声を聞けるのは俺だけの特権だ。
落ちかけていた意識が浮上する。
目を開けて、ハチの名前を呼ぼうとしたその瞬間に今度は唇に熱を感じた。
かさついた感触がそっと触れて離れ、そしてまた触れる。
目を開くことはやめにして、上から降ってくる口づけに答えるようにしてハチのパサついた髪に指を通した。
「ん、…っぅ」
俺の反応を受け取ったハチは、口づけを深いものにかえた。
自然とハチの頭に回した腕に力が入る。
「は、…ちっ、んぅ…!」
ちゅっと音を立てて、ハチの唇が離れていく。
「…ん、急に、何?」
はぁ、と息を調えるように吐き出すと、今度は瞼の上に落とされる唇。
「……もういいや」
「なんだそれ」
暗いはずの部屋の中で、くすりと笑ったハチの顔が見えた。
「だから、もう大丈夫なんだっての」
「ふーん」
何だか腑に落ちなかったが、ハチに抱きしめられて、ハチの体温に包まれると案外何でもよくなってきて、また眠気が俺に襲い掛かってきた。
もぞもぞと、収まりのいい場所を探してそこに落ち着く。
それを見計らったかのように、ハチは先程と同じような静かな声で、そっとおやすみと言った。
「ん、おやすみ」
それだけ言って、俺の意識は夜の闇に融けた。
明日の朝、一番にハチにおはようと告げようと思いながら。
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つなびぃで上げたやつに加筆修正。
091029