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当たり前のように過ぎていく毎日の中で、
俺たちは一体どれだけの軌跡を残して行けるのだろう。
いつか終わりがくると分かっていても、
どうしても手放したくないものがここにはある。


「良い天気だよなー」

雲ひとつない青空を仰ぎみて、ハチはそう言った。
少しだけ感じる秋独特の乾燥し始めた風が、お世辞にもきれいとはいえないその髪を揺らす。
青空が似合う男だと、そう思った。

「まだ日中のうちは夏日が続くって今朝のニュースで言ってた」
「そっか。こんだけ良い天気が続くとなんでもなくても気分よくなるよな」
「それでか。今日はいつもに増して機嫌いいもんな」
「え、そうか?」

問いかけに頷いて、フェンスにもたれたまま俺も空を見上げた。
本当に見事な青空が広がっている。
確かに、ハチの言う通り、なんでもないこんな当たり前な今日が少し特別な日になったような気がした。

「こんな日に学校に缶詰なんてなんかもったいないよな」
そう言って、俺の隣に座り込んだハチは視線をこちらに寄こしてきた。
それは同意を求めているということか。
だが今はただの昼休み。
あと5分もすれば、予鈴が鳴る。

「…さすがに新学期早々サボるのもどうかと思うけど」
「けど?」
「ちょっと賛成」
「だよな!」

ニッと白い歯を見せて笑うハチにつられて俺もくすりと笑う。
先生たちには悪いけど、今日はもう授業に参加する気にはなれそうにない。
言い訳はきっと三郎と雷蔵がしてくれるだろう。
そう考えていると、ハチは制服のポケットに入れていた携帯を取り出し、メール画面を起動した。
隣から画面を覗き込むようにして見てみると、そこに呼び出された名前を見てあぁ、やっぱり同じこと考えるもんだなと思う。

『適当によろしく頼んだ!』
それだけ書かれた文章は、今頃教室で雷蔵と一緒にいるであろう三郎に送信された。
三郎のことだから、きっと別のクラスの俺の担任にもどうにか手回ししてくれるはずだ。
パタンという音を立てて携帯が閉じられる。
それを横目で確認し、ハチに寄りかかるように体重をかけてみた。

「お、なんだ。珍しいな」
「んー気分?」
なんだそれ、とハチが笑うと自分にもその振動が伝わってくる。
それだけのことで、少し笑えた。

日差しはまだまだ暑いし、時間を考えるとまだもう少し暑くなるのかもしれない。
それでも、隣にある温度は暑苦しくなくむしろ心地よい温かさで存在している。
そのことにただただ安心する。
ここが自分の居場所なのだと、隣にいるハチもそう思ってくれているだろうか。
どうか、この緩やかに過ぎていく毎日が夢でありませんように。
そう思いながら、そっと目を閉じた。


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090911



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