恋々 | ナノ


6 嫉妬




 結果だけ述べよう。分かっていたことだが、全く歯が立たなかった。
 ガイ先生はもちろんのこと、リーさんも動きがとても早いし、1打1打が重い。私がいつも修行をつけてもらうのは柔拳ばかりだったので、剛拳の使い手のリーさんの動きに慣れていなかった、というのもある。また、テンテンさんはいろいろな武器を使ってきて、対応が大変だった。次から次へと出てくる多種多様な武器たちに目が回りそうだった。ネジ兄さんのことは・・・もう述べるまでもないだろう。ただ、いつもより苛立っていて、厳しかったことだけ言っておく。
 私の薄っぺらい自信はあっという間に脆く崩れ去ったが、いい体験になったし、なんだかんだ楽しかったので良しとする。

 の、だが、このあとネジ兄さんと一緒に帰るというイベントを用意されたせいで、私は一気に気が重くなる。
 発端はテンテンさんの一言である。もう少し自主練をしてから帰ると言うネジ兄さんに、私を家まで送ることを提案したのだ。いや、あれは提案というより、命令に近かったように思う。笑顔の圧力がすごかったから。
 そのため、現在ネジ兄さんと帰路についているのだが・・・。
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「(ネジ兄さん、めっちゃ不機嫌なんだけど!)」
 いや、確かに常日頃から機嫌がいいとは言えないような人物なのだが、それにしたってひどい。おそらく、鍛錬に乱入された上、個人練習まで妨害されたことに腹を立てているのだろう。それについては私も申し訳ないと思っているので、下手に刺激しないよう、おとなしく無言で後ろをついて歩く。
 少し前を歩くネジ兄さんの背中は大きい。だが、同年代の男の子と比べて特別体が大きいわけでもないので、そう思うのは私が小さいからなのだろう。
 ネジ兄さんと私には年齢に差がある。実力に差がある。ネジ兄さんは頭がいいし、常に冷静。私とは全然違う。それがとてももどかしい。その差がある限り、ネジ兄さんは私のことを子供としか見てくれない。テンテンさんの顔が蘇る。・・・もし、私が彼女のようにネジ兄さんと変わらない年であったなら。背中を預けてもらえる強さがあったのなら。もし・・・。
 「(・・・今日のネジ兄さんの表情、私たちといる時と全然違ったな)」
 同班のメンバーといるときはリラックスしているのだろう。不機嫌ながらもいつもより表情が柔らかかったし、コロコロと顔がかわった。・・・仲が良くて羨ましい。
 「・・・・・・はあ」
 思わずため息が溢れる。
 「・・・なんですか、さっきから」
 「え」
 急にネジ兄さんが立ち止まってこちらを振り返る。うわあ、眉間の皺がやばい。なんでか知らないけれど、今日一番の不機嫌さだ。
 「ずっと黙っているかと思えばため息をついたりして。・・・俺といるのが嫌なら、そういえばいいじゃないですか」
 「え、ネジ兄さん・・・?なんでそんな話に・・・」
 「リーやテンテンの方が良かったんでしょう?今日はとても楽しそうでしたし」
 「そりゃあもちろん楽しかったですけど」
 「俺なんかよりも二人に送ってもらいたかったと思ってるんでしょう」
 「な、なんでそうなるんですか!」
 「だって、今日の貴女はいつも俺といる時と全然違ったじゃないですか!楽しそうでのびのびとしていて・・・俺の前では、そんな顔見せないくせに」
 「・・・っ、それは私のセリフです!今日のネジ兄さん、私といるときと全然違ってて、仲も良さそうだったし、私、テンテンさんのこと羨ましいって思ってたんですよ・・・!」
 「?なんでそこでテンテンの名前が・・・」
 「そんなの、嫉妬してるからに決まってるじゃないですか!」
 「・・・・・・・・・しっと・・・?」
 「・・・・・・あっ」
 ああああああああああっ!!よりによってすごく中途半端な形で告白(っぽいもの)しちゃった・・・!私の馬鹿――――っ!!
 後悔しても後の祭り。言ってしまったものはもう取り消せない。告白はもっと私がネジ兄さんに女として見てもらえるようになってからと、もっとちゃんとした形でと思っていたのに、全て台無しである。見よ、目の前のネジ兄さんの呆気にとられた顔を・・・!
 「・・・・・・」
 「・・・嫉妬、したんですか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
 もうネジ兄さんの顔が見ていられません。
 私は首を限界まで曲げて下を向き、さらにぎゅっと目を瞑る。無意味な防御である。
 「・・・・・・ふむ」
 「(ふむってなにが!?)」
 「・・・俺は、貴女に嫌われていると思ってました」
 「・・・嫌いならば態々ちょっかいをかけに行ったりしませんよ」
 「それもそうですね」
 「・・・・・・」
 「・・・少しは好かれているようで安心しました」
 手を引かれて思わず前を見る。
 「・・・・・・えっ」
 「さあ、帰りますよ」
 なんで私はネジ兄さんと仲良くお手てつないで帰っているんだろう。なんでネジ兄さんの機嫌が回復しているんだろう。聞きたいことはいろいろあるが、今は横に置いておく。最優先の問題が浮上したからだ。
 あれ、これ、もしかして、告白だと思われてない・・・?
 それどころか、年下の従兄弟の可愛いヤキモチとしか思われていないような・・・。・・・・・・・・え、えーーー・・・。









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