※モブ臨表現有り

※妥協、しようか続編










「いっ…た……」



不快だなと思った。
リンチするならリンチだけにしてほしい。
伸ばされた何本かの手は俺から服をむしり取って笑う。屋内だったのは不幸中の幸いかなと息を吐けば何を思ったか男の一人に殴られた。

裏社会の入り口とも言える、所謂違法賭博場みたいなこの店は馴染みと呼ぶほどのものでもなく、自分としては珍しいのかもしれないのだがただなんとなく顔を出しにきただけだ。
そこでたまたま居合わせた柄の悪い男をちょっと如何様してゲームで負かしてやったら、蟲の居所が悪くなった男とその仲間たちに襲われている。というのが今までの経緯。殺されることはないと思うが、どうだろう。
賭博場の喧騒はそんな隅のほうで起こっているイベントなど見事に掻き消してしまっているから、変に人だかりもできない。ただ通りすがりの人間が引きつったように苦く笑ったり、無関心だったり、楽しげににやついたり、いろんな表情を見せるからそれは楽しい。

手にかけるように持ち歩いていたコートは手の届かないほど遠くに転がっている。
それを眺めて、見ず知らずの男たちに身体を弄ばれている俺は、息をしているだけ。
ただ、それだけで。


「ん、」


刺激に身体が跳ねた。
なんだよ、ただのリンチじゃ終わらないっての?
ムカつくし不愉快だけど、別に心身共に感情にするほどの痛みじゃない。

最近の若者は女じゃなくても抱けるのかな
なんて、バカなことを思うのは、辛そうに俺を抱く男の顔が浮かんだから。
唐突に。強引に。

相変わらずの関係は続いているけど、これ以上の変化は何一つ望んでない。妥協案は所詮妥協案でしかないということは別に誰が悪いわけでもなくて。
だから今更(恋愛的な意味で)愛し合うことも、この関係をおしまいにすることも、なんにも望んじゃいない。
何にもなってほしくない。これ以上、何も起こらないでいい。

俺はシズちゃんが嫌いなまま。
シズちゃんも俺が嫌いなまま。
妥協した原因であるあの奇妙な気持ちの答えもわからないまま、俺は。
ずっと、そうやって、いつか終わりになればいい。最初から何もなかったように。綺麗になくなってしまえば





身体を這う手が気持ち悪い。何か罵声を投げ付けられているみたいだけどよく聞こえなかった。
歯で噛まれたりしゃぶりつかれたりした突起は固く尖っている。弄ばれる性器も腹が立つくらい反応していて、四つんばいにさせられたら今度は遠慮なしに後孔に指を突っ込まれた。
悲鳴のような音が喉の奥から零れて、崩れかけた腕に男の一人が顎を掬う。何されんだろうと思ったら口の中が男の薄汚い性器でいっぱいになって。


「ん、ゴホッ、んん、ん」


むせて涙が出た。
最悪。家帰ったらうがいしよう。
後ろからも入れられて、当の昔に破綻した俺の精神は現実逃避を始めた。



たまに考える。
もしも、シズちゃんにあんな力がなくて、俺がこんな性格じゃなかったなら、俺たちはどうだったろう。
でも、それはもはや俺たちじゃない気がして、例えの世界でもうまく想像がつかない。
もう少しだけ、喧嘩しても、それでも友達と呼べる関係だったら、俺は今ここにいなかっただろうか。シズちゃんと、あんなことにもならずに済んだだろうか。
後悔してるわけじゃない。でも、シズちゃんはきっとしてる。
苦しそうに、俺を抱く。泣きそうな顔をする。
いつも、いつも。
シズちゃんが何を考えているのかなんて、俺にはわからない。なんであんな顔するのかも、よくわからない。
愛してないのにセックスをする理由も、よくわからない。
嫌ならやめればいいのに。

だから、思う。

もしも俺たちが友人と呼べる仲だったなら、もう少しわかりあえただろうか。
わかりあえないから友人になれないのか、友人になれないからわかりあえないのか、それはわからない。


けど、



だけど、あんな顔、させるつもりじゃなかった。



「な、なんだ手前!?」

「う、うわぁぁああ!!や、やめッ」

「ぶっ殺されてえのか、コラア!!」







ああ、なんだ

俺、後悔してたんじゃん。
こんなに、




こんな














「……………臨也」







ふっと目を開けた。
おかしいな、あんだけの喧騒が気持ち悪いくらいに静かだ。
もしかしたら気を失ってたのかもしれない。


目の前の人影が余計に現状把握を妨害して、あれは夢だったのか?とか、これが夢なのか?とか、理解を難しくしていく。



「いざや、」




もう一度呼ばれて、あれ、なんか変な響きだなと思った。
声、震えてるし。
また泣きそうな、それ。

だから、そんな顔させたくて妥協したんじゃないのに。
あんたの幸せそうな顔が見たかったから、俺はあんたの妥協案になったのに。



「………ど、して…そんな顔、すん、の」

「……………何、してんだよ」

「こっちの、せりふ」

「……セルティが、この店入るの見かけたっつってたから。なんかとんでもない顔してたって聞いて、嫌な予感して。………案の定、これだ」

「店ぶっ壊しちゃったのか」

「………仕方ねえだろ。…つーか、」

「ん?」

「……お前が誘ったのか?」

「………違うよ。ゲームで身ぐるみ剥いでやったら剥ぎ返されたの」

「意味わかんねえよ」

「ごめんね」

「………」





わかってもらおうなんて思ってなかったから別によかった。
押し黙ったシズちゃんはしばらくしてから抱き締めてきた。
変な光景だなあなんてバカみたいなこと思って、シズちゃんがキスをせがんできたから大人しく目を閉じる。なんかいつもよりそれを優しく感じて、いつも通りの感触が、欲しくてしかたなくて



「ん……、シズちゃん」

「ん?」

「………抱いてよ」

「……臨也、あのな」

「……………嫌、」

「……?」

「終わりは、嫌だ」





愛し合ってない。
なのに、終わってほしくない。
いや、本当はわかってる。こんなにも終わらないでと願うのは、たとえ俺がシズちゃんの妥協案であったとしても、一緒にいたいと願うから。


「………シズちゃんじゃないと、したくないし」


「……、」



おかしいな。
矛盾ばかりだ。
変化を望まないのに終わってほしい。
終わってほしいのに終わらないでと願う。


大嫌いなのに、大嫌いだったのに、




欲しくないと俺の口はいうのに、欲しくてたまらない。
シズちゃんの全部が欲しくてたまらない。俺だけのものになれと願う。


ああ、そうか、俺は





シズちゃんを好きになったんだ。



きっとそれはずっとずっと前から。
もしかしたら最初に会ったときからかもしれない。
好きなんだ、でも、それを好きだとわからなかった俺は逃げ場を失って、妥協したんだ。


「好き、」

「……臨「好きだよ」



キスをして、身体中がひりひり痛むことも忘れて、なんでだかわからないけれど、涙が落ちた。
シズちゃん、シズちゃん、心の中で名前を呼んでゆっくりキスをする。観念したようなシズちゃんの吐息が静まり返った元賭博場に響いて、そのまま押し倒された。
いつもなら冷たくて固い床でするのは気が引けたのかもしれないけど、今はどうでもよかった。


「ん、ふ…ぅ」

「…………いざや、」




ああ、またあの声だ。
それでもどこか響きが変わった気がして唇を離せば、妙に真剣な顔をしたシズちゃんが俺の涙を拭って。



「………俺は」

「……」

「俺は、ずっと好きだった」

「ずっと?」

「ずっとだ」

「ごめんね」

「いや、いい」




抱き締めて、
傍にいて

もうどこにも行かないから、一緒にいるから、いてほしいから、俺の名前を呼んで。好きだといって。


「今があるからいい」


キスが落ちてくる。
額、目蓋、頬、唇、首筋、胸、腹、手、全部、もうしてないとこないくらいキスされた。
早く入れて欲しくて、早くとせがめば、苦笑したシズちゃんがちょっと待てよとつぶやく。


「前戯はなしか?」

「いらない。なんでもいいから早くしてよ」

「……わかったわかった」

「うん……ッふ、う」



シズちゃんの指がゆっくり入ってくる。さっきので切れてだいぶ痛いけど、むしろ痛くないように慎重に入れてくるそれが焦らされてるみたいでもどかしかった。

ワイシャツの肩口を掴む。想像以上に痛い。
顔をしかめてたらシズちゃんがキスしてくれた。


「悪い、痛えだろ」

「……ん、でも大丈夫。だから、早く」

「……悪かったな」

「何が?」

「俺がもう少し早くくればこんな痛てえ思いしなくてすんだのによ」

「でも来てくれたじゃん」

「いや、でもよ」

「それが嬉しいからいいよ。それに、今すっごい幸せだから、いいんだ」



にっと笑えばシズちゃんも少し笑った。
うん、そんな顔が見たかったんだ。ずっと、

やっと奥まで入った指をまたゆっくり動かし始める。痛いけど我慢できないほどじゃないからもっとちゃんと刺激が欲しい。
くちゅ、卑猥な水音が耳につく。もっとと腰を揺らせばシズちゃんが息を呑んだ音がした。


「煽るなよ」

「んッ、あ、だって…んん」

「………臨也、」





優しい声音が俺を呼ぶ。
覆いかぶさるように抱き締められて、耳元でもういいかと尋ねてくるから、だからいいってばと苦笑してやる。顔は見えないけど、了解したのかシズちゃんはがばっと身体を起こすと自分のベルトを外し、熱をもったそれを取り出して後孔に押しあてた。
身体が強ばる。もう何度もそうされてきたのに、今までとはまるで違うことをしているような気がして、怖い、わけじゃないけれど、息が詰まりそうになった。
熱い。とんでもなく。
いつもと違うなと思った。それだけしかわからないくらいに、俺は


「い、ッあ、ん」

「ん……、入った」

「ふ、ぁッ…シズちゃ、…シズちゃん」

「あ?」

「んん、」



ああ、やっぱり好きだ。
シズちゃんが好きだ。
答えない俺にシズちゃんは少し表情に笑みを含ませて、動くぞと呟いた。
ぐちゅん、ぐちゅん、だらしない水音が閑散とした廃墟に響く。こんなに満たされた気持ちになったのは一体いつぶりだろう。あんなに嫌いだったこの行為が、これほど意味をなしたことがあっただろうか。

ぼろぼろ、ぼろぼろ、涙も虚勢も、俺を守る殻さえも、シズちゃんにひっぺがされて落ちていく。
今まで生きてきたその中で、孤独という二文字に支配されていないときはなかった。気にしてはなかったし、1人は好きだったけれど、俺と同じ、孤独に震え誰かと関わろうとしていた人間に、愛されて、求められて、もう一人じゃないんだと言われたような気がして


妥協したんだ。

愛してしまったから、体だけでも繋がりたくて、どうせ愛されることなどないんだって、俺は諦めたんだ。


「ん、んッあ、ぁん」

「い、……也……臨、也…いざや、」



揺れる、揺れる。
ブレた世界の真ん中でシズちゃんが俺を呼ぶ。
確かめるようにその名を呼ぶから、可笑しくなって泣いた。笑ったつもりだったけど、泣いてたと思う。
抱き締められて、耳元で響くシズちゃんの荒い吐息に息を呑めば、その吐息に混ぜて「悪ぃ、もう出す」と余裕のない声。
焦がれたその背を掻き抱いて、喘ぎに邪魔されながらどうにか好きだと呟いた。



愛し合ってない。
そう思い込もうとしていた。嫌いだから成り立つ関係なんだと自負していたから。


ああ、でも、そうじゃなかったんだ。


突きこまれた一番奥ではぜる。
どくどくと熱いそれに、はあ、と深く息をついて



ねえシズちゃん。
俺は、妥協したんだ。

それでも、好きだって思ったことは、少なくともそれだけは妥協じゃなかった。自惚れればきっとそれは、シズちゃんも同じ。



そうだよ、もう

妥協する必要なんて俺たちにはないんだ。



――――――――
妥協シリーズ(笑)完結

いっつも文字数が短編とは思えない長さになるのはどげんかせんといかんな

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