シズイザ




「…………」

「メリー!クリスマーsばごん!!





玄関に届いたのは大きな段ボール。
嫌な予感はしたのだが、送られてきたものは仕方ない。

ガムテープを開けた瞬間にびっくり箱のように飛び出してきた赤と白の物体に、もはや確認もせずに段ボールごと玄関から外へ蹴りだした。
中身はごろんごろんと2回転してしばらくくたりとぬいぐるみのように動かなくなって。
じとっと眺める俺の視線を感じたのかそれはすくっと立ち上がると


「酷くない?」


とだけ言った。





「酷くねえ、帰れ」

「俺だって結構恥ずかしいんだよ?あと対応早すぎでしょ。出てきて二秒で回し蹴りとはさすがに予想してなかったんだけど」

「なんなんだよ、そのふざけた格好は」

「ふざけてないよ!サンタだってば、サンタ!」

「サンタあ?はッ、サタンの間違いだろうが」

「怒るよ?」






淵に白いファーがついた紅い帽子に服。
まあよくいうサンタのコスプレで、臨也はそんな姿で俺の家へ郵送されてきた。


何考えてんのかわかんねえのなんていつものことだが、いつも以上にわけわかんねえと思った。
町はクリスマス一色で、寒さも日を追うごとに厳しいものとなっていた。
いつも黒ずくめの臨也が鮮やかな紅白に身を包んでいることは妙な違和感を抱かせて、玄関先でふらりと足を組み替えては深々とため息をもらす。


「わかったわかった。今回は俺が悪かったよ。だからとりあえず入れて」

「あん?一丁前に羞恥心かよ。手前が勝手にやったんだろーがそのまま帰れ」

「……報復かな?」

「ああ」



困ったなーと頭を掻く臨也はどう見ても毛ほども困っているようすではなく、とりあえずこちらをちらちら見てくるのがうざい。

じゃあなと短く言って扉を閉めかければそれの僅かな隙間に手を差し込んで阻止してくる。強引に閉めることもできたがこいつの指だのを回収するのは非常に面倒だった。


「ちょ、ま」

「なんだよ」

「なんだよ、じゃないから!もう少し反応してくれ、頼むから!なんでいつになくリアクション薄いのさ」

「……手前のために厚くするリアクションなんざ持ち合わせたこともないがな」

「やだ、正論」



それでも尚閉めかけの扉に食い下がる臨也に、こいつ何が目的なんだと本当に理解に苦しむがこのままじゃ近所で変な噂がたちかねない。
平和島さんちの玄関にいい大人がコスプレして挟まってた……とか


考えるだけでもおぞましい。

仕方なし、戸を押しあけてサンタの襟首をむんずと引っ掴むと力任せに部屋の中へ放り込んだ。
油断していたのか盛大に顔から畳に着地して、臨也はしばらく動かなかったがまた唐突にむくっと起き上がって、俺をあらんかぎりの眼光で睨み付ける。
ただし涙目だったから威力はたいしたことなかったが。


「なんで俺が睨まれる」

「追い出したり連れ込んだり何がしたいの、優柔不断」

「手前が悪いんだろーがノミ蟲」

「俺が悪いの?」

「他に誰がいんだよ」

「…………」



押し黙った臨也はうつむいたまま動かなくなった。
あまりに急だったその態度の変化に、怒鳴ることも蹴りだすこともできずその顔を覗き込めば、悪戯がばれた子供のような、そんな幼い、拗ねたような表情を浮かべている。
見たことがなかったそれに、思わず臨也と名前を呼んで


「……、だよ」

「あ?」

「わかんないの、こういう……なんか、催しごとみたいなのどうやってすごしたらいいのか」

「………」

「……一緒に過ごす人なんて、いなかったんだもん」




ああ、本当に


器用なくせして不器用だな、こいつは



「………シズ、ちゃん」





俺も、なんだけど







ぎゅう、と抱き締めたその景色はいつもと少し違って、黒一色にふわふわのファーではなく、紅と、いつもより少し固めの白い縁。
でも、鼻腔をくすぐった匂いは、いつもと変わらない、好きな匂いだ。


素直じゃねえの、


思って思わず笑みがこぼれた。
なんだよ、そっくりだな俺たちは

臨也からはそんなの見えてなかったと思うけれど、背中に回った細く弱い腕に、ああきっと臨也も笑ってるだろうと感じて

今はそっと目を閉じた。




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