シズ←イザ






寒くて、凍えそうな日が増えた。
気温もそうだけれど、どちらかといえば心が。
別にかっこつけたこと言いたくて言ってるわけじゃない。
ただ本当に、寒いとそれに比例して心も虚しくなりやすい。


「シズちゃん、寒くないかなあ」



まだあんなバーテン服を着ているのだろうか。
着ているだろう。
だってシズちゃんだもの。

寒さとか、痛みとか、そういうのに、あれはあまりに疎い。
シズちゃんがもう少しまともな人間だったら俺たちどんな関係だっただろうなんて、想像するだけ無駄。
だけどたまにそう考えてしまうのは、もしそれならばシズちゃんのそばにいられるのにという虚しい妄想が拍車をかけているからだろう。
わかってるんだけど。
その考える時間が無駄なことくらい。
そう、無駄。
不要。



ぐっと下がった気温は、脂肪の少ない俺の身体にクリーンヒットして、俺は一足早くフル装備。
マフラーに埋めた口元から零れる息が白く染まる日もぽつぽつと増えはじめたそんな今日に、シズちゃんはマフラーしてないのかなと思ってみる。

ばふばふと打ち鳴らした両手を包む手袋を見て、
ああ、シズちゃんは、手袋なんてしないのかなとか、思って………



ていうか、俺は


「何考えてるんだか…」





寝ても覚めても貴方のことばかり、なんて、少女漫画でよくある話。
そんな気持ちを理解することなど一生ないと思う。
つーかこんな話が出てきてる時点でグレーゾーンな気がしたり、しなかったり。



埋めた顔を上げて空を見た。
今日はあいにく曇り空。


シズちゃんは、晴れが好きなのかな

好きそうだな、
ていうか好きだったような。

今日、曇りで苛々しているだろうな





わかっているのに、うずく足。
池袋に行きたい。

うずうず、うずうず

ああ、会いたい。



シズちゃん、に







気が付いたら走りだしていた。


シズちゃん、今ごろ何してるだろう。
今日は仕事かな、
それとも休みでぶらついているのかな、
池袋にいるよね、きっと


会いたい
会いたい
会いたい




寒いと人肌恋しくなる。

ああ、そうだ
だから俺がシズちゃんに会いたいなんて思うのもきっとそのせいに決まってる。
虚しさを吹き飛ばすために、シズちゃんをからかいたいだけに決まってる。









おんなじ空を、見ているだろうか


女々しい考え。
ばかみたい。
今日本当女々しい。
寒くなったせいだ、うん、全部。



は、は、は…



息があがる。体温もあがる。
あがって汗をかく。暑い。
手袋を取った。
ひんやりと冷たい空気がまとわりつくように手袋を握り締めた素肌を冷やす。

まだ暑い、マフラーを取った。
走りながらだから少し手間取る。
首筋にも、冷気がまとわりついた。
それは心地よくて、夏場にプールに浸かったような俺の妙なテンションは、知らず知らずにどんどんあがって。

駅前は人が多くて時間をとられたけど、最近できたラーメン屋を越えた。
途中、サイモンと出会ったけれど、ほとんど無視して走り続けた。



ああ、どこにいるだろう




行くあてもないのに、俺はがむしゃらに走り続ける。
人の海を越えて、路地を通り抜け、公園を過ぎ、
そこで初めて立ち止まった。

すう、と吸った空気は都会にしては珍しい優しい冷たさ。
肺が冷たいそれに満たされる。
熱い空気を吐き出して、
俺は馬かなんかのようにもっと大きく息を吐いて。






同じセカイを見ているだろうか。




いや、それは、きっとない。
だけどやってきた冬を寒いと感じない彼の気持ちを、今この一瞬だけならわかる気がする。
そんな浅はかな
そんな謙虚な


後ろから飛んできた公園のベンチ



ああ、彼は今俺と同じ

ああ、俺は今彼と同じ

ああそう、今だけは



冬を寒いと感じない、異端者。






(あれ、どうして)

(彼を見たら)

(奴を見たら)

((心が少し温かくなった))





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