「シズちゃん」







「シズちゃん」







「シズちゃん]







[シズちゃん]







[シズちゃん、ねえ、シズちゃん]






ああ、どうしてだろう。

呼ばれるほどに、切り刻まれるような心の痛み。
それは多分、きっと、そう。過去はもう巻き戻せないから。




[シズちゃん]






背中合わせのそれは言う。

"マスターはきみがひとりにならないようにおれをつくったの"

もう、何度も彼は言う。
蛍光色のどきついピンクのヘッドホンを手で押さえながら、俺を見上げてくる。
その、無垢なピンクの瞳に見据えられる度に、死にたくなるほど痛みが込み上げてくるのに、何も知らないこいつは俺のそばから離れない。


俺の心を離さない。



[シズちゃん]


[シズちゃん、シズちゃん]


[おれはそばにいるよ]







ああ、そうだ。
お前はこんなに傍にいる。
うざったいくらい俺から離れない。

臨也は、びっくりするほどあっけなく死んだ。
俺が殺したわけじゃない。
ただ、最近見ねえと思っていたら、新羅から「臨也が死んだ」なんて電話がきた。
俺も俺で、びっくりするほどあっけなく受け入れた。

ああ、なんだあいつ死んだのか。

涙なんて一滴も流れない。流れるわけない。
あんな奴のために流す涙など俺の中には一滴たりとも流れちゃいないから。

臨也の死体がどうなったのか、俺はよく知らない。
葬式が行われたのかどうかも、わからないのだ。
それは俺が呼び出しを拒否したからではなくて、そんな話始めからこなかっただけ。
死んだ臨也を俺は結局見ずに終わった。面倒だったし、見てもかける言葉なんて俺が持っているわけもなかったから。
いまさら、会いに行って何かかける言葉などあるのか。何もないだろう。

だけどそのせいからか、今でもまだ心のどこかで臨也がひょっこり池袋にやってきて「だまされてやんの」と俺を笑いにくるんじゃないかとか思っていて。
セルティが、『なんか、静かになってしまったな』と言っていたけれど、実際このほうがよかった。臨也が死んで、なぜか俺を心配する奴らは少なくなかったから、俺はあいつのなんだと思われていたんだろうなんて思った。



[シズちゃん]



新羅は、臨也が病気だったってことずっと知っていたらしい。
だけど俺に言わなかったのは、臨也に俺だけには絶対に言うなときつく言われていたからで。
たとえ自分が死んでも俺だけには言わないようにと、そう言っていたと。
だけど言ってしまったのは、臨也への最後の嫌がらせかなと、新羅は笑っていたけれど、泣きそうに眉をひそめていたことはいくら俺でもわかっていた。



部屋に閉じこもり、うずくまっているばかりの俺。
言ってることとやってることが違うことなんて自分が一番よくわかっていて、あんな奴いなくなってよかったんだと思っているその一方で、俺の心には、こんな、ぽっかりと穴が開いてしまって。
ある日突然うちへやってきたのは、誰でもない、この、俺の背中側でうずくまっている[サイケ]と名乗る臨也と同じ外見の青年。
ただ、臨也とは真逆の。
コートの色も雪のように真っ白。
瞳の色はヘッドホンと同じ人工的なピンク色。
性格も、臨也のように人をなめくさったようなものではなく、純粋な、子供の様で。
おしゃべりなのは、臨也と同じだと思ったけれど。



[シズちゃん、]


[シズちゃん、すきなの]


[おれ、シズちゃんがすきなの]




………それは、
臨也の気持ちだろうか、
それともサイケの気持ちだろうか、


いや、サイケは機械だ。
きっと、きっと臨也が。

臨也がそう言っていたんだ。
感情を持たないサイケが、好きなのと言葉にするほどに、臨也は何度も好きだとそう言っていたんじゃないか。
自惚れだってわかってる。
わかってるけど。






臨也は、どうして黙っていた。
俺には何も、いや言うわけがない。自分の弱味など、俺に教えてくるわけがないだろう。


全部、全部わかってる。

わかってる、知ってる。


臨也の、ことだって



ああ、俺は

一体どれほどあいつのことを知っていただろう。
何にも知らない。
何にも、



こんなに、知らなかった。




[マスターがね、ないてたの。シズちゃんといっしょにいたかったなあって、ないてたの。けんかしたいなあって、ないてたの]





ああ、臨也。


お前はこんなに残酷だ。
残酷だ。

どうしてサイケを遺して逝った。
どうして、好きだという感情なんかを遺して、



最期の一瞬まで、お前が嫌いでいてくれたなら、俺はこんなに苦しまなかった。
もっと早く切り捨てられた。


それなのに、

こんなものを、遺しやがって。




[シズちゃん、すき]


「………好きなんて感情、手前にわかるのかよ」


[わからない。でもマスターがいってたから、きっとシズちゃんのためのことばなんでしょう?]





いつか、俺が死んだその日に
奴は笑ってみせるだろうか。
あのうざったい笑顔を、見せてくれるだろうか。

こんなに恋い焦がれているのに、日に日に褪せていく笑顔と声を、




[かなしまないで。そのためにおれはうまれたんだから]





残酷だ。
お前の存在そのものが。


臨也がサイケを遺した意図など知らない。
だけど俺は多分、一生こいつを手放せない。
たとえ壊れて動かなくなっても
あいつが遺した最後の物だから。


あいつが生きた証になるから。







[おうたうたってあげるね。だから、なかないで]





プログラム通りだとしても。
見せ掛けだけの臨也だとしても。


弱い俺は臨也が遺したそれの背中に、もたれていることしかできない。


きっと、これから先も






―――――――――
このサイト内のサイケの位置がかわいそすぎる
いい加減ツガサイ書こう…

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -