※尋常じゃない甘さです






「ふざけんな、このわからず屋!」


「はッ、こっちのセリフだバカ臨也!」






喧嘩なんていつものことだけれど
議題のはっきりした口論は多分これが初めてだと思う。

俺は間違ってない。
わからず屋で人の言うこときかないのはシズちゃんのほうだ。

なんだよ、今日はデートだから1日平穏にいちゃつくつもりでいたのに。
ムカつく。すごく。




「俺のほうがシズちゃんのこと好きだって言ってるだろ!」


「はあ?俺なんか手前が言う好きの10倍は手前のこと好きだぜ、文句あっか!?」


「あはは、たった10倍?ちゃんちゃらおかしいね!」


「ちゃッ……」


「俺なんてねえ、シズちゃんが言う好きの100倍は好きだから!むしろ愛してるって言っても過言じゃないねえ!!」


「じゃあ俺はその数千倍だ!」


「じゃあってなんだよ!それは妥協って言うんだよ!ああ、そうかシズちゃんはその程度だったってこと。それに比べて俺はもう、やっばいくらいシズちゃんのこと好きだから!俺の勝ちだね!」


「なッ、負けてねえ!!妥協でもねえ!!手前より俺のほうが好きに決まってんだよ!!」


「なにそれ、どこの法律?シズちゃん自分のワールドのルール持ってこないでくれる?」


「そのセリフそのまま手前に返すぜ」


「はッ、何言ってんの?世界は俺中心に回ってるの。シズちゃん以外はおまけだから」






なんて言う会話をもう小一時間は続けている。
早く折れてくれればいいものをいつまでも負けを認めないシズちゃんの負けず嫌いは心の底から敬服するけれど、俺にもプライドがある。
シズちゃんのことを世界で一番愛してる俺にしてみれば、それを妥協するわけにも、負けを認めるわけにもいかないのだ。

睨み合い。
ばちばちと火花が散るって多分こんな感じ。







ことの発端は一緒にデート(…と言っても家デートだから俺の家なんだけど。)をしていたときに、俺が

「シズちゃん大好き」

と言い始めたこと。


なら俺はこのくらい好きだと両手を広げるから、俺もムッとしてあらんかぎりの力をこめて両手を広げたけれど、今更体格差なんて縮まるどころの騒ぎじゃない。
結局どうにもこうにも腕の長さで負けた俺は、シズちゃんの「俺の勝ちだ」と言う発言にぷっつんとキレてしまったわけだ。


だってだって、腕の長さなんかではかりきれないもの、この愛は!!
なのにシズちゃんはそれで勝ち誇った顔をしてるもんだから……



イライラする。
言い合いはやまない。
だってシズちゃんは俺の気持ちなんてわかってない!


「だーかーらああ!!」


「ああ゙!?」


「ああ、もう!シズちゃんなんて………シズちゃん、なんてぇ〜………ふえぇ」


「な、」




ぼろぼろ落ちる。
涙が落ちる。
えぐえぐと泣き出した俺をどうしたもんかとシズちゃんは慌てていた。


悔しい。
悔しい、悔しい。



「シズちゃんなんてえぇ……」


「う、あ、おい、泣くなって」


「俺、ひく…、俺、男、だし、シズちゃん、満足できないだろう、から、うっ……だから、ひく、好きな気持ちは、シズちゃんよりたくさんじゃないといけなくてっ……だから、だからあ……」


「い、……臨也」


「ふえ?」


「お前って奴は………」


「……?どうしたの?」


「だああ!!くそ!可愛い!反則だろ手前!」


「えっ……」


「手前はもう嫁にでもなんでも俺が貰ってやる!!」





ぎゅうっと、抱き締められて。
鼻に紫煙の匂いが通った。
あれ、なんか久しぶりな気がする。
こぼれた涙はシズちゃんの黒いベストに吸いこまれていく。
どっと安堵が込み上げて、へたりこむ俺を抱いたまま、シズちゃんも床に座り込んだ。
ぎゅう、ぎゅうと、服が擦れる音がするくらいに、抱き締められて、苦しくて、動けなくて。
やっと背中に回した手を、きゅ、と握り締めれば、シズちゃんはもっと深く俺を抱き締めかえしてくる。




「……シズちゃん」


「…悪かった、むきになったりして」


「ん………俺も、ごめん」


「でも、手前のことはマジで好きだ。絶対他の奴なんかに渡さねえし」


「………、俺も」


「…臨也」


「俺も、そう」




シズちゃんが体を引き離そうとするから、はっとしてシズちゃんにしがみつく。
なんだよと怪訝そうな声。


「ちょ、ま、ダメ」


「なんで」


「顔、やばい」


「……見せろ」


「いーやーだー!!」


「どれくらいやばいか見てやるって」


「やだってばあ!!、あっ」




力じゃとてもじゃないけど勝てずに、無理やり押しはなされた体に、慌ててずびっと鼻をすするけど

じとーっと嫌な目でシズちゃんは俺を見て


「ははっ」


笑いやがった。

しかもひーひー言う程、今まで見たこと無いくらいシズちゃんはげらげら笑っていて、


涙をうかべたシズちゃんは、俺の頭をばふばふ撫でる。


「なかなかいい顔じゃねえか」


「また泣くよ?」


「悪かった」



ごし、
少し乱暴に涙を拭われる。
それは、彼なりの精一杯の優しさだと、そんなことずっと昔から知っていた。

見上げれば、急に真剣な顔をするから、きゅうと胸が締まるような音を立てた気がする。


「臨也、」


「う、ん………シズちゃん、キス、しむッ…」



最後まで言わせてよ、なんて眉を潜ませたけれど、押しあてられた唇がそんな不満さえ誤魔化していくように


消えていく、消えていく。
ふつふつと湧いた君への苛立ちも、不安も

でも、今はもうそのイライラさえ愛しくて、仕方ないの。

あんなくだらない、痴話喧嘩ですら。





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ばかっぷる乙w
嫁に貰ってやる発言が書きたかっただけ←
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