「お前を孕ませてみようと思った」







中出し4回目の俺に、そうカミングアウトしたこの男は今尚平然と腰を打ち付けていた。
俺はといえば、あまりに突拍子もないそれに言葉は脳内に現れもせず、こみあげる快楽だけを素直に感じているだけ。




ちょ、待て、なんだそれ



しばらくたってぼんやりと霞み掛かった俺の頭はようやっとその意味不明なカミングアウトの真意を問おうとしたけれど、がくがく揺さ振られながらの思考は不可能に限りなく近い。


孕ませる、て…俺、男なんすけど…っていうか、俺男だよね?あれ、そのはず




「ん、ぁッ、あっう、ん」


粘着質な音が部屋に響く。
響く。
リズミカルなそれに、催眠術でもかけられているような奇妙な気持ちになってしまうのはいつものこと。

もやもやと、
ぐるぐると、
ふわふわと、


決して気持ちがいいとはいえないその感覚は、息がつまるような、胸が締め付けられるような、苦しさにも似た感覚。そう、苦しい。
それは、苦しいけれど、甘い。
苦い?
そうかもしれない。

スイートでビターな感情。
あれ、なんか微妙。








そんなことよか。

シズちゃんなんか今日変だ。

急にうちに来たと思ったら、「抱かせろ」なんて怪訝そうな顔して言って、そのまま何度も何度も飽きずにこうして俺を抱き続けているわけで。
もう、四回は中に出されて、こいつもしかして性欲も底無しなんじゃないのかとか、思ったり。思ったり、思わなかったり。






「ん、ちょ、もう、ぁッあ、んああッ」


「は、……」







三回目の絶頂。
あれ?四回目だっけ?
もうどうでもいいや。


果てたというのにもう精液は尽きている。
わずかに吐いた白いそれは、重力に負けて俺の腹の上に落ちた。
ああ、もうなんで
なんでかなあ。

なんで、こんなことしてるんだこの男は。



シズちゃんはいつもわからない。
だけど、わかる。時もある。
わかった気になっていると、わからなくなって。

まるで互いの距離のように。
シズちゃんに手が届きそうになると、離れて。
気が付くと隣にいるのに、また、いつのまにか遠くなっている。


掴めない。シズちゃんが。


だから、シズちゃんのことが嫌いだ。
今日だってそうだ。
もうよくわからない。
理解不能な行動をするのは本当にやめてほしい。

未知というのは恐怖でしかない。期待もあると言う人もいるだろうけどさ。

相手はシズちゃんだから。
もう、猛獣とかと変わらないから。
腹を空かせた猛獣の檻にいれられたほうがまだマシかもしれないけど。



「も、……やだ、あッ、シズちゃん!!」


「あ……?」





あ?じゃねえよ、この体力バカ。


シズちゃんのじっとりと汗ばんだ胸元に腕を突っぱねる。
疲れたどころの騒ぎじゃない。
下半身重いし、怠いし。

なんか、泣きそうになってきた。
シズちゃん怖い。
本当、どうしたんだこいつ。




「う……」


「……なんで泣く」


「泣くに決まってんだろ、このバカ!!」


「仕方ねえだろ」


「仕方なくないし、孕ませるって何!?無理!無理だから!!本当、孕まないから、シズちゃんの子なんて!!」


「…………臨也」


「……何、その顔」




泣いてるのは俺のほうなのに、シズちゃんは酷く悲しそうな顔をしていた。

え、何それ。俺が悪いの?何この空気。

神妙な面持ちでしばらくシズちゃんは黙ったままで、そのうち硬度と熱を失ったシズちゃんがずるりと出ていった。
およそ五時間ぶり。俺、よく耐えた。
そのままどさりと俺の横に倒れこんだシズちゃんに、文句の一つでもと寝返れば



「……ちょ、シズちゃん?ねえ、ちょっと!?」






シズちゃんは気絶していた。
いや、眠ってしまったのか、その辺はよくわからないのだけど、すーすーと鼻を鳴らして子供のように眠っていた。
ちょっと、待てよ。
あんだけ人の中に出すだけ出しといてそれはないだろ。
掻き出すの大変だろうななんて、考えるだけでもおぞましい。
ぬめる太ももに不快感が込み上げて、うえっと顔を顰めた。


このまま寝かせてたまるか。

逆襲のつもりでシズちゃんを揺り動かす。
何度も呼んで、何度もひっぱたいた。
だけどシズちゃんは目を開けない。



ああもう、どういうことなのこれ。



「シズちゃん……いい加減にしてよ」






本格的に悲しくなってきた。
目尻がつんと痛む。
ぽろ、と零れた涙は妙に寂しいもので。
ぽろぽろと、落ちる。
落ちる。落ちて。
ベッドのくしゃくしゃになったシーツの中に吸い込まれた。
なんで俺は泣くのだろう。
どうしてこんな気持ちになるのだろう。



シズちゃん、ねえシズちゃん


寂しいよ、怖いよ、苦しいよ
一体何がどうなってるの?


「……ん…、…」


「………シズちゃん?」


「…悪ぃ」


「……今日どうしたの?」







シズちゃんは何も言わない。
薄く開けた目も、なんとなくぼんやりしていた。
込み上げる。
寂しいという、そんな軟弱な感情が。
だって、ずっと会えなかった。
やっと今日会えたのに、いきなりこんなことになったから、不安になった。
寂しい、苦しい。
シズちゃんは俺のこと、どうでもいいかもしれないけど
今日だってただ身体目当てで来たのかも知れないけど、

俺は違うよシズちゃん
寂しくて寂しくて、仕方なかったんだよ




「シズちゃん、」


「……悪かった。ごめん」


「謝らなくていいから、理由を教えて」


「…………」


「俺、男だからシズちゃんの子供孕めないよ?俺のこと嫌になっちゃったの?俺が男だから…」


「……違う、孕めるわけねえのなんてわかってるに決まってるだろ」


「じゃあなんで?」


「……本当は」







シズちゃんは身体を起こした。ベッドの上に腰を据えて、横たわったままの俺の頭を撫でた。
あ、久しぶりだ。
シズちゃんの体温が、優しく撫でる手のひらから俺の体温と溶けるみたいで、身体中から力が抜けていく。
安心、してるんだろうか。
重たくなる瞼。
シズちゃんは、独り言みたいな声で続けた。




「本当は、顔あわせたらもっといろいろ話したりするつもりだった。でも、ずっと、会ってなかっただろ?だから………………、んだよ…」


「え?何?」


「……寂しかったんだよ!!だから顔あわせたら理性ぶっ飛んじまって、でも寂しいなんて言えるわけねえから、咄嗟に……」


「……咄嗟に孕ませようと思ったなんて言えないよ、俺には」


「俺だってすげえばかなこと言った自覚はある」








っていうか、なんだ。


シズちゃんも、俺と一緒だったんだ。
結局、また気付かないうちにシズちゃんはそばにいたわけで。
手の届く場所に。

ばつの悪そうにしているシズちゃんの手に触れて、くすくすと堪えきれなかった笑いを溢した。



「笑うんじゃねえよ」


「ごめん、ごめん。ちょっとね」


「ッ、言うんじゃなかったぜ」


「シズちゃん、」


「あ?」


「好きだよ。子供は孕めないけどね!」


「ばっ………、はあ…、おう」


「シズちゃんも言ってくんないともう口きかなーい」


「………臨也」







けたけたふざけて笑っていた俺の顎は、シズちゃんに軽く掬われて
ちゅ、と口付けられた唇が離れた頃に、




「好きだ」








ああ、ずるい


そんな顔、ずるい



ふ、と軽く笑ったシズちゃんはどうしようもなくかっこよくて、
見惚れた俺の負けなのだ。





(シズちゃん、実は俺)


(赤ちゃんできちゃった)


(!!?)


(逆襲完了)





――――――――
いざや普通に孕めばいいと思います
おまえら結婚しろ



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