「………………」




多分、俺はどうかしてるんだと思う。


目の前にいる愛想のない4、5才の子どもは、髪こそ黒いが顔は明らかに俺の、よく知る、人間の




「君………親は?」



そう尋ねた俺の腰に、ぎゅっと抱きついて離れなくなったその子に、ため息をつけるだけついて、仕方ないなと抱き上げた。







この子は池袋の人込みを歩いていた俺のあとを、ずっとついてきていたようで、俺が気付いたときには俺の服の端をぎゅっと掴んでいた。


名前は?と尋ねても、親はどこなの?と尋ねても、
話しも頷きもせず、ずっと俺を見つめてくる。
明らかにその顔に見覚えがあった。
いや、この子を見たことがあるわけじゃない。
その顔は、池袋で自動喧嘩人形と恐れられる人間の顔を20歳くらい若返らせた顔で。


ほっとくわけにもいかず抱き上げた俺はお人好しと呼べるだろうか。




「困ったなー…」


お母さんとはぐれたの?と尋ねると、やっとその子はこくんと頷いて、さっさと厄介払いしたい俺はキョロキョロと辺りを見回すけれど、目につく範囲では子を探す親はいない。


どうしたもんか。

というか、この子の顔………本当に……シズちゃんの子どもなんじゃ


ちょっと、俺というものがありながら堂々と浮気?
しかも子持ちって………

あ、だめだやばい

イライラしてきた。




と、ちょうどそんなときだった。




「いーざーやあああああああ!!!」





どかんと爆発するような音と一緒にそんな怒声が響く。
振り返れば猛った牛のようにふーふーと息をするシズちゃんが立っていて、俺の脇には標識が突き刺さっていた。




「手前、今日こそ息の根とめて「おいコラ、ちょっと」


ずんずんと近づく俺にひるんだのかシズちゃんはぱちぱちと目を丸くする。
ああ、だめだ。
イライラしてる。本当に。いつになく。



「ちょっと、」


「なんだよ…」


「この子何?」



俺は自分の腕の中の幼い子供を指差す。
シズちゃんはキョトンとしてその子を見た。



「知らねえよ」


「はあ?知らない?この子の顔よく見なよ。あんたと同じ顔じゃん。俺というものがありながら子作りとはお盛んだねえ」


「ばっ………手前以外とするわけねえだろ!」


「どうだか」


「他の奴となんてしねえよ!」


「じゃあこの子なんだよ!」


「だから知らねえつってんだろ!」



野次馬たちもそんな会話に騒ついている。
頭に血が上っていて気付くのが遅くなったが、言いたいこと言って冷静になってから、あ、やべとまわりを見た。
シズちゃんも、かああと真っ赤な顔をして、その恥ずかしさを俺に理不尽にぶつけようとしてくるものの、俺の腕の中の子どもの存在に手を出すわけにもいかなかったようで、軽く舌打ちしてから、頭を掻いた。






「………迷子か?」


「そうみたい」


「……ったく、しょーがねえな」


「え?」


「こっちのが見えるだろ。ほら、こいよ」




ひょいっとその子を軽々と抱き上げたシズちゃんは肩車をして、ちゃんと掴まってろよと声をかける。
素直にきゅ、とシズちゃんの頭に掴まる小さなシズちゃんに、なんか、本当に父と子みたいだななんて思ってみた。



「よーし、行くぞ」


「探してくれんの?」


「まあ……確かに俺に似てるし、余計にほっとけねえからな」


「……本当に隠し子じゃなかったんだ」


「だから、手前以外とする気はねえって」


「はいはい、探しにいこう。ほら、ちびシズちゃん、お母さん見つけたら言うんだよ」


「ちびシズちゃんって……お前なあ。」


「だって名前教えてくれないんだもん」




ちびシズちゃんはこくんと頷いて、キョロキョロと辺りを見回し始める。

ああ、なんだ言葉通じるのか。



歩きはじめた俺たちに、物珍しそうに行き交う人々が振り返る。
みせもんじゃねえとシズちゃんはイライラしてるみたいだったけど、ちびシズちゃんがいるからか、怒鳴ったりそういうことはなかった。



「この子のお母さん知りませんかー?」


「おう、臨也」


「あ、ドタチン!」


「お前、こんなとこで何、って、静雄!?……なんだその子……………まさかお前の子「なわけねえだろ」


「迷子だよ。お母さんとはぐれちゃったんだって」


「迷子?そういやさっきこの先で子ども探してる女の人がいたが………もしかしたらこの子の親かもな」


「本当に?シズちゃん、この先だって、ほら行こう」


「いや、本当にびっくりしたぜ。てっきり静雄の子どもかと思ってよ」



はは、と笑うドタチンに、シズちゃんは黙れと愛想無く言って。

そんな不貞腐れたような顔は本当にちびシズちゃんと似ていると思った。
DNA受け継いでるだろとか思ったけれどいったら殴られそうだったから思うだけにとどめておいた。




ドタチンと別れて、言われた方向にまたしばらく歩いていくと、遠くから馬のいななきのような音がした。
それは池袋にすんでいる人間なら一度は耳にしたことのあるだろう、首無ライダーの都市伝説、
それ自身が発する音だと言うことは、知りすぎているくらいよく知っていた。



その音が近づく。
シズちゃんは立ち止まって振り返った。
わざわざ止まらなくてもいいのにと遅れて俺も立ち止まる。
その直後、漆黒のバイクが、俺とシズちゃんの横で停車した。



「よう、セルティ」


「こんにちは、運び屋さん」




運び屋は二、三度ちびシズちゃんとシズちゃんの顔を見比べてからかたかたとPDAに文字を打ち込む。



『その子…どうしたんだ?静雄に顔が似てる気がするが……親戚かなんかか?』


「ちげえよ、迷子だ迷子」





隠し子だの息子だのと言われなかったからか、笑ってそう言ったシズちゃんに、なんだこんな顔もするのかなんて少しむっとして、二人から眼をそらした。


こんなとこで油売ってる暇はないのにとか思っては、嫉妬してんのかななんて。



「おい。なんだよ」


その声に顔を上げると、ちびシズちゃんがシズちゃんの肩の上でしきりに指をさし、藻掻いていた。
シズちゃんが抱き上げて下ろしてやると、たたたと駆け出して




「俊一!」




若い女性がちびシズちゃんを抱き上げていた。
女性はこちらを見ると、いそいそと近づいてきて


「すみません、息子がご迷惑をおかけしたようで……」


「あ、いえいえ」


「今度は目はなすなよ」


「はい、本当になんとお礼をしたらいいか」


「お礼だなんてとんでもない」


「ああ、本当にありがとうございました」




ぺこりとお辞儀をしたその人は、ちびシズちゃんを連れて去っていった。


別れ際にちびシズちゃんは相変わらず愛想は無いままだったけど、母親の肩ごしばいばいと小さな手を振っていた。



ふうと、ため息をついてシズちゃんと顔を見合わせる。



「やっと、厄介払いできたよ」


「……俺の子じゃなかっただろ?」


「そうだね、安心した」




笑ってみせて、シズちゃんも少し安心したように笑う。
それじゃあ依頼があるからとセルティはその場を去って、その背中を二人で見送った。




「シズちゃん、」


「あ?」


「俺とシズちゃんの子ども生まれたらあんな感じかな?」


「ばっ………無理だろ」


「わかってるけどさ。もし、できたらの話」


「………子ども欲しいのか?」


「違うって、例えばの話だってば」




あはは、と笑う。

笑って、ああでもシズちゃん浮気してなくてよかったなんて呑気なこと考えて。



そっと手を触れ、絡ませた指先。



俺を見た彼に、「好きだよ」そう笑えば、シズちゃんは今更恥ずかしそうに眼をそらす。

子どもは無理でも、一緒にいられたら嬉しいなとそう思って、



今度はしっかりと、手を繋いだ。






(はぐれないように)

(ずっと一緒にいるために)

(強く手を繋いだ)



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子どもw
こいつらまじで子ども生まれないかなw

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