シズ←イザ
甘
「ありがとう」
「…………」
「何その顔」
「………気持ち悪ぃ」
「酷いな、俺だってありがとうくらい言うよ」
「手前の口から出ると呪咀のように聞こえやがる」
「うざ」
「お前がな」
シズちゃんは、わざとらしいくらいに大きくため息をついて、
腹のたつくらい怪訝な顔して俺を見た。
黄巾族のチンピラどもに絡まれて追い回されているうちにシズちゃんに会った。
俺に因縁つけようとしたシズちゃんは
そこで追いかけてきた黄巾族の奴らとも鉢合わせて、
俺をぶっ殺すついでにそいつらもやっつけてくれた。
だから、俺は暴れ回ってほとぼりさめたシズちゃんに言ったのだ。
「ありがとう」
*
シズちゃんはそんなつもりはなかったと少しイライラと銜えた煙草に火を点けて、俺から眼をそらした。
その場を立ち去ろうとするシズちゃんに
「あれあれ、もういっちゃうの〜?つまんな〜い」
「………うぜえ」
「少しくらいお礼させてよ。不本意とはいえ助けてもらったし。ほら、シズちゃんなんかに助けてもらったっていう事実がすごいプライド傷付けてるからシズちゃんにもお礼という名の嫌がらせをすることによってその傷を癒そうと思ってさ、わかる?」
「うぜえっつってんだろ!!」
殴りかかってきたシズちゃんをひょいと避けて、シズちゃんのイライラを堪能する。
今更シズちゃんのパンチなんて当たんないし。
路地裏でしばらくサバイバルな追いかけっこを繰り広げてから、しつこいシズちゃんから少し離れたところで立ち止まり、もう一度叫ぶように尋ねた。
「ねえ、だからお礼!!何がいいの!?」
「いらねえっつってんだろうが!助けた覚えもねえんだよ!!」
「でもさあ!」
「ああ゙!?」
「なんかやなの!気分悪い!貸しとか気持ち悪くなる!」
「今更貸し借りの関係じゃねえだろ!」
「えー」
「………えーじゃねえ」
「シズちゃん」
「あ?」
「もう怒ってない?」
「最初から怒ってねえ」
「嘘つき」
「嘘じゃねえ」
「シズちゃん」
「だからなんだよ」
「好きだよ?」
「………………」
シズちゃんが石化した。
固まったシズちゃんにちょっとずつ近付きながら、
どうして毎回こうなるのかなあなんて思う。
甘ったるい言葉とか、イチャイチャしたりとか、そんなのはまるでないけど、俺はシズちゃんが好きで、
でもその〈好き〉は人を思って言う〈好き〉とは少し違っていて、
どこか〈嫌い〉にも似た〈好き〉で
そんな俺を、なんやかんやでシズちゃんも許していて
シズちゃんは俺のこと嫌いみたいだけどそれでもかまわなかった。
「シーズちゃん」
目の前まで来てにっと笑う。
やっとシズちゃんはこっちをみた。
ぎしぎしとロボットみたいだなんて思うくらい、強ばったままに。
「ッ、……お礼」
「え?…、んむ」
ふありと香るシズちゃんの匂い。
真っ暗な視界。
触れた唇はそっと放れて、それは驚くほど優しい温もりを抱いていて。
何がなんだかわからずにぽかんとしていれば
「……これがお礼でいいだろ」
「え………あ、…シズちゃんが、いい、なら」
「いいからしたんだろ」
「……ん、…ありがとう」
なんでお礼言うんだよと真っ赤な顔したシズちゃんにこづかれて、はっと我に返る。
唇に指で触れて
かああと熱くなる顔に、むかつくくらいいろんな悪態考えたけれど
結局何もできずに。
――――――――
8〜9月分拍手小説