「っぁ……」













だだっ広い部屋に、



嬌声が落ちる。








「ん、はぁ、……あ、っ」







それは、甲高く酷く甘い。


だがあくまで、それは男のものであるわけで、高いといっても通常よりも、というべきだろうか。






「ん、やめ、……」



「い、」







そして悲鳴。







「いだだだだだ!!!」


「あ、悪ぃ…」













むすっと、顔をあげたら、
シズちゃんが真っ赤な顔で俺を見た。



腕がもげるかと思った。

シズちゃんの首舐め回していたら、恥ずかしさからか俺の腕を掴んだのだ。


ぎりぎり骨は折れなかったようだけれど、二の腕はずきずきと痛んでいる。



「……悪い」


「ああもう。そんな顔しないの」


「でも…」


「くよくよしないでよ。らしくないなあ」


「ん…」








シズちゃんはしょぼんとしている。
なんだかいつもより小さく見えた。





最近いつもこうだ。




こういう行為をするとき、俺が上だから仕方ないのかもしれないが、どうしてもシズちゃんが恥ずかしがって

俺を突っぱねたり、
どついたり、
全力で掴んできたり、
暴れたりするから、なかなか進まない、というか

やっぱり萎える。


まあ、恥ずかしがってるシズちゃんも可愛いんだけどね!



とか、惚気はおいといて、
どうしたもんかと頭を掻く。


その一方でシズちゃんは泣きそうな顔をしている。




「あー…泣かないでよ」


「……泣いてねえよ」


「んー…あんまり、気乗りしなかったんだけど……仕方ないか」


「?……何……何してんだ?」


「ちょっと待ってね」


「……だから何だ…」


「えーっと、あったあった。はい、シズちゃんこっち向いて」


「え、ぁ、っん……んぐ!?んんっ、ん」



「…は、…よし、飲んだ?」


「なに、飲ませて…」


「んー…媚薬、みたいな?」


「みたいって…」






シズちゃんはわなわなと震えていた。
その震えは怒りからなのか
驚きからなのか、
羞恥なのからか、
それはわからなかったけれど、つい、と背けられたその顔が紅く染まっていることを知って、拒絶する気はないんだなと少し安堵した。



「シズちゃん、」


「うるせえ」


「なんでこっち見ないの?」


「だまれ」


「恥ずかしいの?でも安心しなって。君が多少羽目を外しても薬のせいになるんだか「ちげえよ」





視線を戻したシズちゃんは顔を赤らめたままだったけど、真っすぐに俺をみた。
少し不意を突かれて俺も目を丸くしてしまって、



「情けねえんだ、自分が。…お前のことはす、好きだ、けど…でもいつも俺のこの力のせいでお前に迷惑かけて挙げ句の果てに媚薬使わねえと抱けないなんて、本当に……情けねえっていうか、なんつーか…」


「あー……もう」


「…?いざ、」


「可愛いなあ、シズちゃんはー」


「や、やめっ…あ、ぅ…」


「え」


「……………」





わしゃわしゃと頭を撫でただけのその動作に漏れたシズちゃんの嬌声に思わず動きを止めた。
シズちゃんはシズちゃんで、ふーふーと荒く息をする一方で、耳まで真っ赤にして目を泳がせている。



これは………







「うわあああっくそ、可愛い!シズちゃんのくせに!」


「そんなこと言ったって、あっちょ、おい、抱きつくな」


「君が悪い」


「俺は何も悪くねえ!」







わめくシズちゃんの口を塞ぐように唇を重ねた。
一文字に結んだ唇をなぞるように舌先で舐めれば、ひぅ、とシズちゃんが喉をならして薄く唇が開く。
そこにねじ込むように舌を押し込めば、大人しく口を開く喧嘩人形。
短いくぐもった嬌声が口内に響く。
それだけでじんじんと頭は痺れて、ぞくりと背筋に悪寒にも似た快楽が込み上げた。

伸ばされた舌と、押し込めるように伸ばした舌が、ねっとりと絡み合う。


普段なら事故でも噛みちぎられる恐れがあるからあまりしない舌使いに、シズちゃんはどぎまぎしながらついてくる。
力が抜けてぐでんぐでんの彼はもはや恐れるに足らない。
薬をあまり使いたく無かったのは常習化したら嫌だったこともあるのだが、今更引き返せないというかどうでもよくなってしまったというべきか否か。
シャツの前ボタンを外し、露になった胸の突起を口に含む。
それだけのことに背筋を反らして声にならない嬌声をあげるシズちゃんが可愛くて仕方ない。
前歯で緩くそれを食んで舌先で押しつけるようにすれば、落ちる甘い声。
触れていないもう一方に親指の腹で弾くように愛撫する。



「ぁ、…く、…んあ、あ」


「声出すなんて珍しいこともあるもんだね」


「しゃ、べるなっぁ、う…」


いつもはろくにあげもしない声に、確かに興奮しながらも、どこか安堵している自分がいた。


―――俺が抱けないから仕方なしにシズちゃんが上になったりするのは勘弁願うよ


ちらりと上目遣いにシズちゃんの顔を見れば、真っ赤な顔してそっぽを向く彼がいて。
ああ、愛しいって、きっとこういう気持ちを言うんだろう。
苦しくて、
切なくて、
痛くて、
優しくて、
温かくて、
もどかしくて、
そしてどうしようもない、

こんな気持ちを言うんだろう。




シズちゃんのベルトを外し、下着ごとズボンを下ろす。
焦る心を落ち着かせては、シズちゃんに口付けて、後孔に指を突き立てる。

痛むのか顔を歪めた彼に、大丈夫と尋ねれば、変な感じがすると素直に返事をしてきて。


「それ、気持ちいいって言うんだよ」


「あ、ぅ、うそ、つけ…、ん」


「嘘じゃない」





「俺もシズちゃんが好きで、シズちゃんも俺が好きだから、気持ちいいんだよ。ねえ、シズちゃん」




怖がらないでよ、


愛してあげるから。







腸壁を撫でる指の腹は、その感覚に妙な興奮を覚えた。
く、と指を曲げれば、沈めたその場所はシズちゃんが一番弱いところで。
そんなところさえ知り尽くしている自分が、幸福で仕方ないのだ。
喘ぐシズちゃんからすべて奪い取るように口付ける。

好き、
大好き、
シズちゃんが、好きだ



ぐちぐちと妖しげな音が部屋に響く。
ずるりと指を抜いた直後に、間髪いれず、自分のそれを突っ込む。
押し込んだそれはぎちぎち音をたてながらシズちゃんの胎内に入れ込まれた。
たまらず口付ける。
溢れるのは愛しさばかり。
好き、そう呟けば頷いたシズちゃんは泣いていて




「あ、っあ、んああ」


「はあ、好き、だよ。シズちゃん」


「わか、てる…俺もっん、あ」





好きだ、なんて
柄にもないこと君が言うから

突き動かされて腰を打ち付けた。
ああ、どうして
俺はこんなにこの男に弱いのか。
自分の下で涙を流す、こんな男をどうして


世界で一番愛しているのだろう。




彼を愛することも
彼をこうやって抱くことも
彼を怒らせては逃げ回ることも

全部ありきたりな日常、だけど

それでもこんな当たり前の日常が続けばいいと願うのは




「は、ぁ……」


「んっ、あ、もう、…いざや」


「わかってる……出すよ」













それは、多分










こんな日常にいることが


居心地がよくてしかたないからなのだろう。













どくどくと、白い欲はシズちゃんの中に吐き出されていく。
恩着せがましく、押しつけがましく、


腹の上に吐き出されたシズちゃんの精液を黙認した直後に、気絶しそうな快楽がどっと押し寄せて
に、と苦笑した。




また明日も、明後日も、これから先、ずっと、ずっとずっとずっと、一緒にいられたら、変わらず君を愛せたらどんなに幸せだろうか。
今そんなことを願う俺は、日常の中に溶けて消えた。





「愛してる」







その言葉だけ残して。







(時間は流れ消えていく)

(その中に変わらないナニカがあるのなら)

(それを、信じたいと思った)





―――――――
裏久しぶりですね。
媚薬にこんな効力あったら神だわw



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