※いろいろ捏造
※なんか違う



臨也さんが正臣にしたことを知った。知ってしまったというほうが正しいかもしれない。きっとそれは臨也さんが意図したことだろう。いくら僕だってそれくらいわかる。だって今僕の左横にいるその人は、余裕を含んだ笑顔をはりつけて僕を見ていた。僕が彼を責めることをできないことも、うまく憎むことができないことも、臨也さんは知っている。こうして呼び出して仕事机越しに真実を知った僕の観察がしたかっただけなんだ。僕は臨也さんを見つめる。臨也さんは笑いながら僕の言葉を待っている。さっきも言ったけど、僕は臨也さんを責める気はない。だけど、殺してやりたい。憎しみとかそういうんじゃないんだけど、ただ純粋にこの人を殺してやりたいと思っていて、自分でもよくわからなかった。矛盾が邪魔で、臨也さんの気持ちまで頭が回らない。どうしたんだろう、僕は。いっそ正臣になんてことしたんだと憤慨すればよかったのに。彼を糾弾することがきっと普通だったのに、僕は、僕は


臨也さんはよくわからない人だった。
表情も、言葉の裏も、あってないような、でも疑いだすと全て怪しいような、僕にとってそんな訳のわからない人間だったのだ。突然人ラブとか叫びだすし、どこから見ていたのかふらふらーっと近付いてきては僕の心を引っ掻き回して気付いたときにはもういない。それでも臨也さんを心優しい協力者だと信じていた以前の僕は馬鹿だ。今もまだ臨也さんの正体を信じ切れていない。馬鹿だ。わかってるんだよ。正臣も同じだったのだろう。彼と同じ道を歩いていることは、なんだか嬉しい。友達だから、とかそんな浅はかな理由かもしれないけど、それでもいい。臨也さんを憎むことさえできない僕に、深い理由はいらない。



「俺が憎い?」

「いや…」

「それはおかしいなあ。君は俺を憎くて殺したいと思わないとおかしいよ」

「………それは臨也さんの尺度で」

「そうだね。でも世間一般からいっても君は普通じゃないと思うけど?」

「僕は………」






俺が憎い?

臨也さんはもう一度そう尋ねてきた。この人は憎まれたいのだろうか。そう考えてしまうくらい表情は楽しそうに明るかった。ふるふると首を横に振れば、ふーんと少しつまらなそうな返答が返ってくる。じゃあ僕が憎いと言えば満足したのか。聞くほどの度胸は、僕にはない。臨也さんから目を離した僕は顔を正面に戻す。目の前の紅茶が揺れたような気がした。臨也さんが淹れてくれた紅茶は、きっとどこか高いブランドのものだろうけど、生憎僕にはよくわからない。膝の上で握り締めた手のひらは汗でぬるぬるしていて気持ちが悪かった。臨也さんを糾弾することも、声をあらげて抗議できない自分も、気持ちが悪い。嫌悪というより、手のひらと同じように、悶々とした不快感といった感じだ。臨也さんに対しても、そんな気持ちだ。不快感。そうに違いない。



「……どうして、ですかね」

「?」

「それでも僕は、臨也さんが好きなんですよ」

「…………」

「何でなんですかね。僕は正臣のことを裏切ったあなたを殺してしまいたいと思うけれど、恨んでなんかないんです。僕を利用していたことも、どうでもいい。ただあなたが、……あなたが好きで」




だけど、僕はこの人が好きだった。今までグチグチ語ってきたけど、僕はこの人が好きだ。どんなに利用されようとも、観察されようとも、裏切られようとも、正臣の話が真実だろうとも、これから僕も彼にとって食われてしまうのだとしても、どんなに彼を不快に思っても、僕は、臨也さんが好きだ。理由はよく知らないしわかろうとも思わない。それが事実なのだから仕方ないだろう。吐き捨てるようにそう呟いた僕の顔を、臨也さんは見ていたのだろうか。こんな格好悪い僕を、見ていたのだろうか。しばらく沈黙が続いて、少し後悔した。話してどうなる話じゃないのに、なぜ言ってしまったんだろう。怖くて横を見ることもできない。離れて座る椅子の背もたれが、ぎいときしんだのを聞いて臨也さんは困惑してるのかとありもしないことを思った。何も考えずに発した僕の言葉だけがふわふわと僕らの間に浮かんでいるようで、いたたまれないのは自分のせいだ。時間がたつにつれてそれは大きくなる。自分で壊せばいいのに、壊すことができない沈黙を持て余していた。どうしたらいいんだろう。どうしたら




「ねえ」

「は、はい」

「君はMなの?」

「は………い?」




やっと顔を臨也さんに向けた。臨也さんは思ったよりも神妙な顔で僕を見ていた。聞かれた意味が一瞬わからなくて、ぽかんとしているとまた、ねえと急かされる。



「ち、ちちち違いますよ!!」

「だってそうだろう?俺があれだけのことをしてきたのに俺のことが好き?何それ傑作。こうなったら俺が何したって嫌いにならないと言えるよね。自分がSだとは言わないけどさ、君は間違いなくMでしょ」

「そ、そういうことじゃなくて」

「じゃあどういうことよ」

「……………それは、わ「わからない、は無しね」

「え………えっと…」




本当にわからないのに鬼畜だ。




「ふ、不快には、思って、ます。でも、それでも、臨也さんのそばにいれるなら、僕は「答えになってないよ」

「す、好きなんです!………理由、いりますか?」

「この場合はね、いるよ」

「……………」




体を彼のほうにひねったまま、僕は俯いた。そんなこと言われても僕にはわからないというのに。どうしてそんなに追及してくるんだろう。ああ、僕が訳のわからないことを言っているからか。不快に思ってるのに好き?言葉を借りるけど、何それ傑作。そもそもこの好きはなんの好きなんだ?それすらわからないから質が悪い。


僕はいつからこの人間を好いていたのだろう。初めて会ったとき?平和島さんと喧嘩しているのを見たとき?どちらもあっているかもしれない。いつだったかなんて正直記憶にないけれど、この気持ちはあこがれに近い。強いあこがれ。そう、それだ。



「…うらやましかったのかもしれません」

「?」

「比較的平凡に生きてきた僕が非日常にあこがれたように、それに愛される臨也さんにあこがれているのかも…しれない、です」




尻窄みになった僕の言葉に、臨也さんはふうんと呟いて椅子の背にもたれた。僕から目を反らしてにやりと笑って目を閉じる。そしてゆっくり目をあけた。獣のような強い視線だと思った。


「一つ訂正させてもらうと、俺は非日常に愛されてるわけじゃない」

「………」


「俺が、愛してるんだよ」





恍惚とした表情で臨也さんはそう告げた。僕はといえば、そんな強い視線に取り込まれてぼうっとしていたから、臨也さんのその言葉を理解するのに少し時間がかかった。確かに臨也さんらしい。
僕の大事な親友の人生を狂わせた男を目の前にして、僕は好きだと言った。友としてそれはどうなのだろう。でも僕だって今、正臣と同じ道を歩いてるはずだ。気付いたのが早かった(と言っても彼の意図によるものだけど)だけで、僕だって臨也さんの人間観察の一環で動かされている駒に過ぎない。



「臨也さん」

「ん?」

「このままいくと僕も…正臣みたいになるんですか?」

「あはは、ならないよ。俺は君が正臣くんと同じ反応をすると思って真実を君に伝えた。なのに君は俺を好きだと言ったんだ。天地の差だよ」

「………」

「君はさあ、紀田正臣になりたかっただけだろう?」

「え………」

「君は俺に正臣くんのように気に掛けて欲しかっただけだろう?俺に貶められた正臣くんがうらやましかったんだ。だから真実を知っても俺を憎めなかった。だってそんなことする必要がないもんね。君は正臣くんに嫉妬していただけだ」



何を言っているんだろう。そう思う一方で、僕は納得していた。正臣に、嫉妬。つまり臨也さんに構ってもらいたいだけか、僕は。臨也さんが僕だけを見てくれるなら、僕はなんだってできるじゃないか。なにがあこがれだ。そんなものとっくに通り越していたんだ。正臣より、僕はこの人を選んだ。だから怒りも憎しみもなくて、ただ正臣と同じ道を歩いていることが嬉しくて、ああそうか。

僕はこんなにこの人が欲しかったのか。



「君は俺にとっての紀田正臣にはなれない。絶対にね」


笑われた。きっと僕のこんなくだらない気持ちを言葉にしなくたって臨也さんは理解している。だからこうして意地悪くわかりきっていることを確認するかのように言うんだ。そうだ、僕はもう正臣にはなれない。臨也さんが差し向けたレールの上から外れてしまったから。僕は捨てられるのだろうか。いらなくなった玩具のようにぽいと捨てられるのだろうか。そんなの嫌だ。それならもっと彼が面白がるように足掻いてやる。


その気持ちすら彼の意図であることを僕は知らない。顔をあげた僕に、臨也さんはくつくつと笑っていたけど、その本意もよくわからない。


「せいぜい頑張りなよ。うん、いい笑顔だ」





―――――――――
黒帝人はとりあえず笑わせとけばいいと思ってる自分乙
思ったより暗くならなかった…文才の無さ……


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