世の中頭でわかっていても体が思うように動いてくれないことがある。俺はその逆。言いたくないことまで口が動いてべらべらと自分の心のなか空っぽになるくらい思ってることをぶちまけてしまう。今丁度そんな状態だ。



「どうせ俺は男だからあの女といちゃついてんだろ!?エロい体してるもんね、シズちゃんの変態!最低!!」

「はあ?だからちげえって言ってんだろーがよ!」



これは嫉妬なんて甘いもんじゃない。怨恨だ。そうに違いない。昨日シズちゃんがヴァローナとケーキを食べに行ったのを目撃してしまった。しかも二人で!ふざけんな、俺というものがありながら。シズちゃんには俺はその程度の存在だったってこと?そんなわけないのはわかってるつもりだけどムカついて何も正常に考えられない。


「あいつはただの仕事の後輩で「わかってるよ!」

「シズちゃんが下心なしにただ行きたいから二人でケーキ食べに行ったってことくらいわかってる」

「なら」

「だけどそれが何?俺はそれがいやなんだよ」

「……………」

「…いらなかった。こんなことなら、こんな気持ちになるならシズちゃんのこと嫌いなままがよかった。わかってる、全部わかってるけど…納得できない」

「臨也…」

「もうわかんないよ…どうしたらいいのか。シズちゃん、もう、ダメだよ…」

「それはちげえ」

「?」

「俺はお前が好きだ。お前も俺が好きなら別れる必要はねえ」

「……シズちゃん、自分の尺で物事考えないでよ。俺の気持ちわかってないでしょ」

「ああ、わかってねえな。だってあいつはどうやったって仕事で会うわけだし、付き合いってもんがこの世にはある。俺には俺の人付き合いがあんだよ。女と半同棲してる手前にとやかく言われたくねえな」

「……波江さんは…」

「仕事頼んでるって?俺と似たようなもんだろ」

「………うん」

「お前はそれでも納得しねえだろ?」

「……………うん」


俯いたまま返事をしたら、思わず涙がでそうになった。泣きたくない。泣いたら俺の負けだ。それは嫌だ。
くん、と体が引き寄せられて自分が抱き締められたことに気付く。ああ、温かい。シズちゃんの体温だ、…ムカつく。遠くに感じていた体温が、うざいくらい近くにある。このままうまく丸め込まれるのかな、嫌だ。この気持ちは抑えることができない。シズちゃんがあいつとまた今回のようなことをしたら俺はそれを耐えることができない。今度は手首切って死ぬかも。

全部わかっているんだ。だから余計に苦しい。どうにもならないことだし、怒ったってシズちゃんがヴァローナと距離を置くわけがないし、ましてや俺が女になれるわけでもない。別に女になりたいわけじゃないけどさ。不安になるのは仕方ないんだ。それと付き合っていくしかない関係だということはよくわかってるけど、それでも嫌なもんは嫌なんだ。セックスしたら安心するとかそういうわけでもないし、どうしようもない。



「臨也」

「………それなら、安心させてよ…」

「……どうしろと」

「知らないよ!わかんないの、俺だって!」

「キレんな馬鹿!!」

「馬鹿に馬鹿とか言われたくないよ!!」

「いーざーやー…」

「………だって不安になるんだ。どうしたらいいのかわかるなら、とっくにそうしてる。それでもわからなくて我慢できないから苦しいんだよ…」

「…………なら」

「?」

「俺がどれくらい手前が好きかわからせればいいんだな」

「は?何言ってむ、」





混乱したままキスされた。押し当てるだけで一度離れて、また食むように唇を掬われる。丸め込まれてる気がする。抗議の声も邪魔されてただのうめき声と化していた。



「ん、んー…」

「…好き」

「んん、シズ、ちゃん」

「好きだ」




交わす唇の間で、好きだ好きだとシズちゃんは甘えるように呟いた。その声はこっちが恥ずかしくて、顔が火照るくらい優しい声で、シズちゃんらしくないなあと思った。息をしようと開けた唇の隙間から舌が割り込んでくる。歯列をなぞり、上顎を擽るように蹂躙して、戸惑う俺の舌と絡んだ。ぬめる水音が耳につく。呼吸を忘れるくらいそれは段々と激しさを増して、頭がびりびりと痺れはじめた。奪うという表現が似合う貪るようなキスが、少し前のあの甘い声と相反していて、きゅうと心臓が軋む気がする。
ゆっくりと唇が離れて、シズちゃんと目が合った。合った瞬間にまたぎゅうと抱き締められて、彼の肩に鼻をぶつけた。名前を呼べば少しだけ抱き締める力が強くなる。シズちゃんが本気で抱き締めたら俺の骨なんてばらばらになっちゃうんだろうな。そう考えると少し怖かった。力加減は是非間違えないでいただきたいものだ。


「臨也」

「ん?」

「好きだ」

「…わかったよ、もう」

「わかってねえ」

「また自分の尺度で俺の気持ち考えてる」

「寝ろ」

「はいはい」



ソファーに寝かされかけてやっぱり寝室にしますと注文したら、シズちゃんは全力でめんどくさそうな顔をした。なんなんだその顔。背中痛くなるから嫌だと抗議したらやっと俺の上からどいてくれた。本気で気が利かない奴だ。

ベッドの上に仰向けになって天井を見たら、なんだかシズちゃんに怒っていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。確かに我慢できないことだ。嫌なことだ。でも、シズちゃんは俺を好きだと言う。キスもセックスもするし、それだけじゃない、たまに頭撫でてくるし、喧嘩だってする。そればっかりだけど、でもそれは俺だからだろう?他の奴にはやらないはずだ。きっと。




「何ぼーっとしてんだ」

「ううん……んー……あのさあ、シズちゃん」

「あ?」

「………ごめんね」

「…何が」

「意味わかんないことで怒ったりして」

「…………意味わかんなくねえだろ」

「え?」

「お前にとっては重要なことだったんだろ?なら意味わかんないわけじゃねえだろ」

「………うん」




服がたくしあげられる。露になった胸の突起を摘まれ、口に含まれた。じんじんともどかしい感覚に息が漏れる。
ああ、本当に、俺はいつの間にかシズちゃんがいないと駄目になっていた。認めたくないけど、シズちゃんなしじゃ生きていけないかもしれない。でもシズちゃんは?シズちゃんは俺がいなくなったらどうするの?きっと何も変わらない。それでいい。めそめそされても困るし、波江さんにいちいち嫉妬されても困る。自分のことは棚に上げて、だけど。近すぎてはいけない。そういう関係のはずなのに、じりじりと近づいている俺。彼の後輩に嫉妬する俺。彼に慰めにも似た行為をされる俺。格好悪すぎる。


「ん、ぅ」



突起を歯でくにくにと軽く噛まれる。息が詰まりそうになるのを訴えることもできずに布団を握り締めた。何回やっても変な感じだ。ちゅ、と音がして唇が離れる。そのままシズちゃんの舌が腹をなぞり、変な声がでてしどろもどろしている俺を横目にズボンに手をかけた。脱ぐよとホックとジッパーを下ろすとそのまま下着ごと脱がされてベッドの脇に捨てられる。拾いに行くときが寒そうだ。熱を持って立ち上がる性器にするりと指を這わして、卑猥な動きに喉が鳴った。ぎゅっと目を閉じたらキスをされる。好きだとまたあの声が俺を責めた。ドキドキするとか切実にやめてほしい。



「ふ、あッ……うぅ」

「なんだよ」

「変な声…出る」

「別にいいだろ」

「よくないよ…まったく」

「俺がいいからいいんだ」

「何そのジャイアニズム100%」


ぐちゅぐちゅと耳障りな音。羞恥心全開だ。徐々にせりあがる快楽にもう抗議の声も出てこない。


「う、あっ、だめ…もう、んんッ」

「一回出しとけ」

「んああッ」




溢れた精液にぐったりとベッドに沈んだ。

世界が回る。目が回る。果てた感覚。自分の息が妙に大きく聞こえて、心臓が激しく脈を打つ。そんな状態でぼんやり目が合えば、シズちゃんは悪そうに笑った。ああ、ずるい。シズちゃんはずるいよ。いつも不器用なくせにこういうときだけ丸め込むのは上手で、でもきっとそれは俺限定。そんなふうに笑われたら、好きだと思うしかないだろう。馬鹿。



「いれんぞ」

「わかってる、よ」

「ん」





強引にねじ込まれる。表現に品がないが、実際そんな美しい光景でも状態でもないから致し方ない。快楽なんてないし、痛いだけだ。ならなんでやるのかは自分でもよくわからない。愛してるから?なんか違う。張り合ってるって感じかな。ヴァローナとか、世の中の女に。シズちゃんは俺のものって誇示したいだけかもしれない。…なんだか結構恥ずかしいこと暴露してる気がする。

動くぞと声がした。わざわざ声をかけてくるのは昔からだ。優しさっていうか癖なんだろうけど、筋肉脳単細胞馬鹿なシズちゃんらしくない行為だと思う。いや彼は実際優しいのだから当たり前かもしれないが、相手は俺だ。よくも悪くも遠慮はないと自負している。何にも言わずにいきなり突き上げるくらいのことはして当然なのだけれど、なぜだろう。繰り返しになるけど愛してるから?……やめてくれサブイボものだ。




「ん、あ、ッあ」

「………、也……臨也」



そんなふうに俺はシズちゃんのことよく知ってる。情報屋の俺が胸をはれる。俺はシズちゃんのことをよく知っている。でも、不安になるのだ。シズちゃんがどれくらい俺を好きなのか、重要なことが、何にもわからないから。嫉妬なんて汚いものを抱くくらいに、何でも知ってるはずの俺が、何にもわからなかったから。キスが落ちる。涙が出そうになるくらい息が詰まった。呼吸がうまくできない。

ねえ、シズちゃんは?
シズちゃんはどのくらい苦しいの?
どのくらい愛しいの?

きっと俺のほうが苦しいしシズちゃんを愛してる。そう言ったら張り合ってくると思う、多分。シズちゃんが言った通り、俺は自分がどのくらい愛されてるか、少しわかった気がする。だって馬鹿みたいに好きだ好きだってそんな声で囁かれたら、思わず笑っちゃうよ。


「いざや」

「あ、ッ、シズ、ちゃ…」

「好きだ」





そんな顔で言われたら、思わず泣きそうになるよ。




「…、もう、出る」

「う、ん。んあ、あああッ」




熱い。熱い熱い熱い。
どくどくと体全部が心臓になったみたいだ。一度息をついたらやっと肺に冷たい空気が入ってきてほっとした。倒れこむように俺を抱き締めたシズちゃんはしばらくしてずるりと出ていって、そのまま横に倒れこんだ。
シズちゃん?なんて尋ねても何にも答えないからそれ以上は何も聞かなかった。その代わり勝手に喋った。



「俺、一生分くらいの好きだって言われた気がするよ。でもやっぱりシズちゃんが俺のことどれくらい好きなのかって、よくわからないな。だからこれからも嫉妬するし怒るよ。でもね、シズちゃん。俺知ってるんだ。シズちゃんが俺にしか言わない言葉も、俺にしかしないこともあるってこと、ちゃんとわかった。シズちゃん、俺ね」



息を吸う。









「シズちゃんが好き」






それだけで、一緒に生きていける気がする。

変だよね。




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遅くなりましたがリクエストありがとうございました!

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