「シズちゃんに愛されるくらいなら俺は死ぬ」





それが奴の人生で最期の言葉だった。
そんな夢を見た。



「………はぁ」




だるい体を起こして煙草を探した。枕元に見当たらずに辺りを見渡して、脱ぎ捨てた服のポケットの中だということを思い出す。取りにいくのも億劫だったから、行き場のない手を布団の中に突っ込んだ。温い。
隣に目を移す。頭頂部だけが布団からはみ出してこちらに背を向けて眠っているのは、先刻人の夢で好き勝手言って死んでいった人間だ。昨夜こいつとセックスした。


臨也は俺のことが好きだ。
いつからとか細かいことは知らねえけど、そう言ってたんだからそうなんだろう。俺はどうだろう。好きだと言われたから、なんとなく俺もかもと思った。それも間違いじゃない。第一印象が最悪だっただけに、こいつをよく知らないまま今まで嫌いあってきたわけで。だから臨也が俺を好きだといって求めてくるなら、俺に好かれようといけすかないことを言うのを控えたなら、俺がこいつを嫌いになる理由は特にない。好きだと言われて気にならない奴はいねえだろう。そういうことだ。


夢の中で、臨也は死んだ。
俺に愛されるくらいなら死ぬと言って、わざわざ好きだと言った俺の目の前で屋上から飛び降りやがった。でもまあ、それが普通っちゃあ普通の反応だったんだろう。俺たちの間柄は。臨也のプライドは俺の言葉を許したりしない。それが普通だった。今のこの曖昧模糊な関係こそ、あるべきでない状態だ。


「………シズちゃん?」

「……起きてたのかよ」




背を向ける臨也の表情は窺えない。そのせいか、なんとなく不安になった。夢のせいもあるのかもしれない。臨也は俺のことが好き。臨也が好いてくるから、俺も臨也が好き。うだうだ考えるのは性にあわねえからそれでいいと思ってたけど、本当にそうなのだろうか。俺が臨也を好きだと言ったなら、あの夢のように臨也は死ぬんじゃねえか。愛してるのはいいけど愛されたくない。そんなこと、こいつなら充分に有り得る。臨也は何を望んでいる。俺に愛されたいのだろうか。それとも、



「シズちゃんさあ、俺のこと好きなの?」

「……はあ?」

「………俺は言ったよね。シズちゃんのこと嫌いだけど、好きだって。シズちゃんは?正直いっていいよ。無理な話なんだから。今まで嫌い死ねって思ってた奴を急に好きになるなんてできっこないしそんな愛なら欲しくない。俺だってよくわかんないんだ。シズちゃんのこと死ねって思うけど、そばにいたい。キスもセックスも嫌いじゃない。俺は男なんだから、こんな行為になんの需要もないのに嫌いじゃないんだよ?変だよね。誰でもいいのかどうかは実際確かめてみないとわかんないけど、シズちゃんがいいなって思うし。シズちゃんはどうなの?こんな意味のない行為、どうしてしたの?童貞卒業したかったから?30越えたら魔法使いになれるらしいからね。いっそなっちゃえばよかったのに。魔法使えるようになったらただでさえ一騎当千なのによりチートだよ」






言われたことを要約すれば、好きなのかって聞かれたのか?めんどくせえ言い方しか出来ねえのかこいつ。
ボリボリと頭を掻いて口を開いた。



「好きだって言ったら、死ぬのか?」

「は?」

「そんな愛ならいらねえんだろ?」

「何、俺のこと好きなの?」

「聞いてんのは俺だ」

「死んだりはしないけどさ……疑っちゃうよね」

「疑うくらいならかまわねえ。好きだ」

「……軽。そういうとこが童貞なんだよシズちゃんは」

「もう童貞じゃねえ」

「いや知ってますが」

「好きだって言ってんだ。それでいいだろ」

「……わかってないなあ」





そこで臨也は寝返った。こちらを向いて、薄く笑った。似非が前につく笑顔だ。昔から、人を貶めようとするときに浮かべるもの。うぜえくらいよく知っている。俺に何を求めて、何をしたいのだろうか。よくわからない。好きかどうか聞いてんなら好きだって言ったんだ。それで満足できねえのか?意味がわからねえ。これ以上何を求めてんだ?嫌いだと答えれば納得したのだろうか。



「キスしよう」

「…………」

「……ん」





こいつを好きなのかどうか、今もまだどこかで迷っている自分がいる。それを臨也は見抜いている。きっとそうだ。だからわざと揺さ振りにきていやがるんだ。


「なら、俺は嫌いだ」

「…………」

「そうじゃなきゃ納得しねえんだろ」

「そうだよ」

「なんて、思い通りにいかせてたまるか」

「性格悪」

「お前が言うな。俺に愛されて、それで死ね」

「ははっ、傑作」





抱き締めたら臨也の匂いがした。いっぱいに息を吸ったら嗅ぐなと笑って牽制された。肌に触れた。これが俺のものだと思うのは奇妙な感じだ。顔も見たくねえほどうざったいのに、触れたいと思う。誰でもいいわけじゃねえしセフレにしたいわけでもねえ。ただ、こいつの愛がほしい。それで、こいつを愛でたい。好きだと言ったら臨也は、嘘つきと笑ったけど、嘘なんてついてねえことを知っていただろう。


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甘めのシズイザ
内容がぺらぺらなのはいつものこと気にしたら負け

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