シズイザ(鬼畜→ハッピーエンド★)



悲鳴は、最早聞き慣れてしまうほど聞いた。俺の姿を見れば、死ぬんじゃないかというくらい誰しもが怯え叫び、逃げていく。そんなの、もう慣れた。だからこの行為も意味なんてない。悲鳴を聞きたいからとか、残虐なことを考えてるわけではなくて、ただ自分の欲望が赴くままに拳を振り上げているだけなんだ。



「い、つ」

「痛がってるわりにずいぶん反応してんじゃねえか、臨也くんよお」

「う、るさ…」

「黙っとけよ」


がっと固い音がした。俺の拳は痛みを感じなかったけれど、多分臨也の頬からはそれ相当の痛みが感じられただろう。前髪を掴みあげれば臨也が顔を顰めた。口の端からは鮮血がつうと伝う。頬の青痣がその表情をよりげっそりと見せた。艶やかな髪は乱暴に掴まれ変な癖がついている。身体中に広がる痣に俺は笑った。

なんて脆い生き物なんだ。俺がほんの少し掴んだだけで、ほんの少し殴っただけでこんなにも傷になるというのに。それに比べて俺はどうだ。ちっとも痛くない。殴る手も、心も。ああ、ついに本格的に化け物になっちまったみたいだな。かまいやしねえけど。



「ちゃんとしろ」

「してる」

「してねえから入んねえんだろ馬鹿。ほら」

「い、ちょ、やめ、やめて痛い!」

「うるせえな」

「痛…、…」



俺は、何をしているのだろう。世界で一番嫌いな男を前に、

そいつを脱がせ

抱こうとしているなんて

それも前戯はなしで。痛いのなんてわかりきってたけど、だからなんだっていうんだ。俺はどうせ痛くない。化け物だから心も痛んだりしない。俺が痛くないならば、それでいいんだ。それで――――……




ぎちぎちと痛い音がする。臨也の悲鳴が笑えるくらいよく聞こえた。耳をつく甲高い声はまぎれもなく、俺を苛立たせる言葉を紡ぐのが世界一上手い声。それが今や、痛みを耐える悲鳴と化して、俺の耳から侵入してくるんだ。



「ぐ、あッ、うああ!」

「痛いか、かわいそーにな」

「う、はあ、ッ」

「俺みたいな化け物だったら、こんな痛い目みなくてすんだのに」

「…シズ、ちゃん」






なんだよ。


なんだよ、その目は。



優しくない。でも同情でもあきれでもない。懇願でもない。


なんだよ、その目。
なんだってそんな顔して俺を見るんだ…


気が付いたら、奴の顔を思い切り殴り付けていた。額が割れ、血が滲んだ。俺は悪くない。悪いのはこいつだ。そうだ、いつだって悪いのはこいつなんだ。俺は悪くない。


「う、あ、んんッ」

「はあ、…はあ、くそッくそ、くそッ」

「シズちゃ、あ、う」




叩きつけるような腰の動きと、ぶつかり合う肉の音が、俺を現実から引きずり落としていく。すべてが夢であるような、腰を揺らし、臨也の口から漏れた嬌声を聞いていると、すべて幻であるかのように感じた。たまに自分の名が、怯えを含んでいないその声に呼ばれると胸が締め付けられるようだった。
殴り付ける手は、うまく言うことを聞かない。振り上げた拳は吸い込まれるように臨也の身体中に落ちては新しく傷を作った。謝ろうなんてこれっぽっちも思わない。思えなかった。痛みを耐える臨也をみて、俺はどこかで安堵していた。理由など、よくわからないけど。



「ひ、あんッ、んん」

「は、いい眺めだな。手前のこんな姿まさか見る日がくるとはよ」

「……っ、ん、く」

「痛いか?怖いか?自分が普通の人間だったこと後悔すればいいんだよ、手前みてえのは」

「………シズ、ちゃん」

「―――――ッ!」




ガッ





まただ。

またその目だ。その声だ。怯えも同情もない、俺を責める音だ。俺がここにいることすら否定しようとする視線だ。

そしてまた俺は臨也を殴り付けた。胸がざわつく。頭がかっかと熱い。体が震えた。どうしようもないくらい、衝動が体の奥で脈打った。

衝動に突き動かされるように腰を揺らすスピードを早めた。がくがくと視界が揺れる。痛みからか小さく臨也が悲鳴をあげた。お構いなしで突き上げる。臨也のたちきれてない性器に指を絡めて扱いた。ぐちゅぐちゅと粘着質な音が耳につき、臨也の嬌声も一際甲高くなる。



「う、あっやぁあッ」

「く、」




突き上げた奥底で、自分の汚らしい欲をぶちまけた。臨也の性器からもびゅくびゅくと精液が飛び散って、その光景は、なぜだかひどく息詰まるものだった。
つながったまま、ぐったりとぼやける頭を持て余していると、唐突に臨也が口を開いた。俺は、それが馬鹿みたいに怖いと思った。なぜだか、怖くて





「……シズちゃん」

「………ひ、…」

「シズ…ちゃん、ねえ」

「…黙れ」

「そんなに怯えないでよ」

「黙れ」

「怯えなくても、一緒にいるから、シズちゃ「黙れよ!!!」

「……………」



怯えてなんかいない。そんなわけがない。怖いと感じたのも、きっと何かの間違いで、ただ他の感情を怖いと勘違いしただけなんだ。
だから、そんなわけが





「シズちゃん」



そんなわけが、ない




「シズちゃんが化け物でも、俺は平気だよ。こんなふうに無理矢理つなぎ止めようとしなくても平気なんだ。俺だってある意味化け物だ。シズちゃんのことなんか………好きになっちゃったんだから」

「……………」

「だから、もうそんなふうに泣かないでいいよ。なんて俺らしくないこと言ってみたけど」





はにかんで、臨也は俺を抱き締めた。大丈夫だよと呟きながら、傷だらけの体で俺を抱き締めた。

そこで初めて、自分が泣いていることを知った。自分が怯えていることを知った。

臨也を傷付けること
自分が傷付かないこと
愛が信じられないこと
本当は傷付けたくないこと
愛したらまた傷つけそうで怖いこと
俺が思ってるより臨也は弱く脆いこと
でも俺が思ってるより臨也は強くあること
押さえきれない衝動があること
そんな自分が怖いこと


俺は全部わかっていた。
怯えながら、臨也を殴り付け、体だけでもと暴力的なセックスを繰り返し、そのたびに余計いいようのない不安に飲み込まれるスパイラルに閉じ込められている自分のことも。

本当は素直に臨也が好きなことも。ただそれを認めることができなかっただけで。

抱き締めてきた臨也の背に手を回した。まだ、怯えた体は上手く動かなかったけど、それでも臨也を抱き寄せた。
殴り付ける必要などなかったんだ。そんなことしなくても、臨也はここにいてくれる。無理矢理つなぎ止めようとしなくても、臨也は一緒にいてくれる。



「臨也」

「ん?」

「ごめんな」




俺はいつ怯えずにこいつを愛せるようになるだろうか。
そんな日がくるかはわからない。だけど、振り上げた拳はもう下ろされることはないことを俺は知っていた。

俺は化け物だ。でも、

きっといつかこいつを本当に愛せる日がくるようにと

そう願った。



―――――――――
鬼畜久しぶりすぎてよくわからない。
というか何が書きたかったのかもよくわからない。
リクエストありがとうございました!


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