夏は暑い。当たり前だろ。

だから当たり前のように暑がってて何が悪い。


「暑い、死ぬ、暑い、死ぬ」


俺としたことがこんなくそ暑い日にわざわざ外出なんて、バカか。最近忙しくて適当に仕事こなしてた罰がこれだ。いつもなら時間調整したり場所指定したりできたのに。まさかの炎天下での仕事になるとは………聞いてない。(自分が悪いんだけど)

ふらふらと暑いと死ぬを交互に呟きながら頭の真上でぎらぎら照らす太陽を憎らしく思う。太陽ごときに一喜一憂してる俺もまだまだ人間らしいとこあるじゃないか。ふと目にとまったのは駅前のコンビニ。そこには行ったことはあまりなかったけど、くそ暑い外気に比べたらきっと涼ませてくれるはず



「……そうだアイス食べよう」


安いコンビニの氷菓子はあまり好まないけれど、この際そんなの関係ない。近くのコンビニに飛び込むとすうと冷えた空気に息を飲んだ。初夏のじりじりとした日差しは痛いなんてもんじゃない。コンクリートジャングルの中で響く蝉の愛の叫びも耳をふさぎたくなるくらいだ。たった1週間で自分の愛を叫び尽くさなければならないなんて、俺にはとてもできそうにない。人を愛してやまない。だから死にたくない。愛していたいんだ。そう簡単に死んでたまるかってこと。



「あ」

「どうしたんすか?トムさ………」


警戒レベルがはね上がった。やばいやばいやばい。いやでもなんでもないふりをして違うコンビニへ向かえば許されるんじゃなかろうか。まだ何もしてないし。チンピラに絡まれてる程俺も暇じゃない。



「………」

「………」


暑いときに走り回るのは勘弁願う。さすがにそこまで余裕ないし放っておいてやるから放っておいてほしい。初夏の太陽が照りつける外界に今更出るのは気後れして、まさに四面楚歌。どうしよう、どうしてくれよう。


「………?」


考え込んでて気付かなかったけど……あれ?無視?
狭いコンビニの中で、池袋じゃ知らない奴はいないほど有名な犬猿の仲の二人が存在していることは、あるべきでないこと。あるはずのないこと。だけど、今確かに、恨み合う二人は共存している。この、狭い狭いコンビニという檻のなかで………とか言うと中2病みたいだから言わないけど、シンプルに言ってしまえば、シズちゃんが俺を黙殺した。

殺したくて殺したくてたまらない俺を、この俺を黙殺した。理由なんて知らない。機嫌が恐ろしいほどよかったのか、さだかではないが生き延びられそうだ。よかったよかった。


……そう完結したかったのだが一度ざわついた胸中はどうしようもない。ちらりと目をやった横顔は、俺には見向きもせず、複雑な顔色を浮かべた彼の上司と一度だけ視線が交わった。

何、人のことシカトしてんだシズちゃんのくせに生意気な

でも自ら事態を悪化させる必要はない。くそ暑い今日くらい停戦してもいいんじゃないの?
だけどもやもやは晴れない。普段ならここはぴきりと青筋浮かべて「いーざーやーくーん」だろ。何平然とシカトしてくれちゃってるわけ?何チョコレートなんて買ってるわけ?溶けるだろ、よく考えろよ。これ以上糖分でドーピングしてどうすんだ。


ああもう、絡まれなければそれはそれで気になるってどういうことだよ。
本当に厄介だな。




「トムさん、買い物終わりました」

「おー、じゃあそろそろ行くべ。このくそ暑いのに仕事なんてやんなるねまったく」

「そうっすね。イライラします」

「ちょ、頼むから急にキレないでくれよな」

「善処します」



そんな会話をしながら、俺の宿敵はあまりに堂々と俺を無視をしてコンビニを出ようとしている。



「シ……シズちゃん!」





いった瞬間バカだと思った。何も考えてない上に自分で導火線に火を点けた。避けたい爆発に自ら身を投じてしまったんだ。

シズちゃんは、立ち止まった。コンビニの入店音が響き渡る。

それは静かで、その音以外聞こえないような、
世界で、俺たちの間だけに時間が流れているような、不思議な瞬間で。
振り向いた彼は笑っていた。


「臨也、」

「シズ……ちゃん、なんで笑ってんの」

「…………何でもねえけど、やっと声かけてくれたなあって」

「え……?」

「……まだ気付かないのか?」

「何に」

「これは夢だ」

「夢?」





ああそうだ。


これは夢だ。
覚めなければならない夢だ。


「……臨也、俺――――――







じーわじーわじーわ


じじじ





「ん」






目を開けた。
うるさい蝉の声は、室内だというのによく聞こえた。起き上がると、俺は全裸でベッドの上だった。おきまりだななんて思いながら横を見れば、すーすーと寝息をたてている男が一人。抱きしめられて寝ていたらしい。抱き枕じゃないんだから勘弁してほしいったらない。そりゃ炎天下の夢を見るわけだ。



もう一度ねむったなら、そのまま夢の続きを見れるだろうか。
シズちゃん、何を言おうとしたの?
聞いてもわかりはしない。わかってるから、夢をみたい。

もう一度、眠ろう。横たわり向かい合わせの顔に、そっと微笑んだ。

話しかけてもらえなくて、俺は寂しかったんだ。そんなこと、恥ずかしいから言うわけないけど、そばにいる不快ではないその温もりを感じたくて、眠っていることに乗じてその腕のなかに再び潜り込んだ。



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7月





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