「う、ぁ」





もはや聞き慣れた嬌声が耳についた。痛いなとため息をついたつもりが、熱っぽい吐息となってはあと外へ出ていった。もう少し優しく抱けんのかこいつは。がんがん突き上げやがって。たまには上下交換して足腰たたなくしてやりたい。できるわけないけどさ。

よりにもよって、世界一嫌いだった男に好かれるとは。否、世界一興味深かった男に。興味はあった。きっと誰よりも。それは認めよう。彼の進化とも呼べるその力に、平和島静雄という"種"そのものに。俺は興味があった。

でも、それだけだ。それ以下でも、それ以上でもない。過不足なく、それは平等に。この関係に愛があるのかと聞かれれば、答えかねる。わからないから、答えられない。こうして何の意味もなく体を交える度に思い出すのは、"嬉しそう、楽しそう"そんな表現の似合う表情を浮かべながら熱弁した、ある闇医者の声。


[太く太くなろうとする体中の筋肉繊維。だが静雄の怒りは細胞たちにそんな暇を与えない]


[そして――それは、奇跡か必然か――細胞たちは、別の道を選んだのさ。彼が細身の割りに力があるのは、それが原因の一つかもしれないね]


[最低限の再生。より強くなる為に、関節は脱臼を繰り返すうちに――癖を通り越して、より強靭になるように進化した。たった一代で、平和島静雄という短い人生の中でだ!]



[これは――1つの奇跡だろうね]






彼は進化したのだ。人という枠を超え、別のものへと進化を遂げた。それは本来人間が数万年、数億年かけて変化するべきものを、彼はほんの数年で成し遂げたのだ。つまり、彼は今、人間の中で最も最先端を生けるもの。俺が愛した人間という"種"の特異点。



「ん、んんっ、痛い、ばか」

「黙ってろ」

「無理、言わないで、よ」




そんな彼の優れた遺伝子は、俺の中へ吐き出され死滅していく。ひっそりと、気付かれぬように。彼は、それに気付かない。否、気付いていたとしても「どうでもいい」とはき捨てるだろう。こんなにも優れた遺伝子が、俺なんかの中へ消えていくというのに。


それを思ったら、どうしようもなく切なくなった。ぎしぎしと軋むベッドのスプリングに、ああなんて愚かなんだろうと思えた。



一世一代の進化は、あっけなく終わっていく。


俺の中に残った白濁としたそれが証となるように、その進化は息絶え消えていく。なんて――盛大に生き急いでいるのだろう。あははと喘ぎにまざった笑いに、彼は怪訝そうな顔を向けるから




「シズちゃん、もっとしよう。もっと、もっともっともっと、たくさんさあ」




君は終わる。俺の中で死んでいく。俺はその有能な遺伝子を殺す害虫。それでも構わないと思った。そんなの関係ないと思った。
シズちゃんはどれだけその事実に干渉するだろう。どうでもいいと言い切られることは百も承知。だから尋ねはしないけれど、こんな愚かなことがあっていいものか。

可哀想、なんて月並みな言葉ばかり頭に浮かぶくせににやけた顔はより口角をあげた。人類の限りない可能性を秘めているかもしれない遺伝子を、俺が食い潰している。それも、愛しているのかもいないのかもわからないこの関係の中で。容赦なく、そしてきっとこの先もずっと。その可能性を生かすことができぬままに、彼は緩やかに絶滅していくんだろう。


こんなにも多くの人類に囲まれて、その中に埋もれながら。


憐れだな。なんて、憐れな生き物なんだろう。


ぐんと突かれて奥ではぜて。目の前がちかちかと暗んだ。


ねえ、シズちゃん。
君は知らないんだろう?今このときも、俺のせいで絶滅していく君の姿を、君は知らない。憐れだね。どこまでも愚かだ。

そうして消えゆく彼を想像しながら、その首に腕を絡み付かせて、口付けを交わした。




――――――――
シリアスめ。
二番煎じな気がしてならないんだけど\(^O^)/

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -