「あーのー、……ろっぴさ「遅い」




…叱られました。何でかなんて嫌というほどわかってるんだけど……こればっかりは致し方ないというか、それは言い訳にもならないというか。


「ご、ごめんなさい…あの、2時間前に出たんですけど、その、」

「まあ、毎回毎回よく道に迷えるもんだね。今何時だと思ってるの?」

「………三時半」

「答えを求めてるわけじゃない!!わかってるの!?」

「え、あ、ご、ごめんなさい」




僕は超がつく程の方向音痴だ。それは自負しているし、対処しようとしている。だから今日も家を10時前に出たし、電車の時間もこれでもかっていうくらい調べてきた。持ち合わせのPCによれば10分あれば着く距離だった。でも僕は待ち合わせの2時間前に家を出た。なのに3時間半遅刻した。
なんで?
本当になんで?

自分でもよくわからない……

ろっぴさんは怒るけどずっと待っててくれる。本当は優しいんだ。それをわかってるから遅れた自分にあきれ果てるし、もう腹が立ちすぎて穏やかになってる。
怒って目もあわせてくれない。いつものことだけど、やっぱりかなりこたえる。自分に100%落ち度があるから余計に。


「ろっぴさん、ごめんなさい」

「もう謝らないで、うざい」

「う………ごめ…あ、ぅ………」

「はあ………月島、そんな顔しないでくれる?」

「………でも、遅れたのは僕で…ろっぴさんが怒るのなんて当たり前です。そのくらいわかってます…」

「……じゃあそんな顔したらうざいからもっと怒るよ」

「えっ……」

「……デート行くんでしょ?」

「…あ、……はいっ」




赤いファーのついたコートのあまり袖をぱたぱたとぶらつかせながらろっぴさんはゆっくり歩き始めた。ずり落ちた眼鏡を掛け直して、後をついていくとまた迷子になるよと怪訝そうな顔で振り向かれる。

よーくわかってます。嫌というほど。




ろっぴさんとは世間一般でいう恋人同士だ。ろっぴさんは僕よりもずっとしっかりしていて(僕が愚図なだけかもしれないが)、僕が遅れてくるのを知っててもちゃんと時間どおりに待ち合わせの場所にいるみたいだし、合流してからも僕を引っ張って歩いてくれる。手をつないだり、いちゃついたりはあまりしないけど、僕はろっぴさんといるだけで幸せ「ねえ、」


「は、…」

「ねえってば」

「あ、何ですか?」

「今日どこ行くの?ていうか何にやにやしてるの?うざいからやめて」

「う……ごめんなさい」

「謝らないでってば。うざい」

「………うー…」

「……、…。でも……まあ今日は俺が予想してたのより30分は早かったから…その……凹むことはない、んじゃ、ない、の?」

「え……ろっぴさん…」

「な、なんだよ」

「ろっぴさあーん!!」

「うわ、抱きつくなよ、暑い!うざい!」



僕はろっぴさんのこういうところが好きです。



「あ」



ろっぴさんにぐいぐいと引き剥がされながら見た先に、思わず声をもらした。

花屋だ!

花は好きだ。綺麗だし…ぼーっと見てるだけで1日過ごせる。いろんな花が所狭しと並んでいた。色とりどりのそれを指差して


「ろっぴさん!花!花屋行きませんか?」

「花あ?いいけど……とりあえず離れてってば、うざいな」

「やったあ!さ、行きましょう!」

「え、ちょっ」



コートの奥の手を上から掴んで、引っ張っていく。なんだかんだ言ってろっぴさんは僕より小柄だ。実際力も僕のほうが強い。静雄さんには負けるけどね。当たり前だけど。



「うわあひまわりだ!綺麗だなあ……あ、ジャスミン…ろっぴさん、知ってます?ジャスミンって、インドじゃ恋人に贈る花なんですよ?あなたについていきますって花言葉もあるんです。すいませーん!これいただけますか?」

「………水を得た魚のようだな。さっきまで落ち込んでたのは誰だよ」

「僕です」

「そーゆーことじゃなくて……ったくもー…」

「?」




ぷいとそっぽを向かれて、繋いでいた手も払われてしまった。ろっぴさん何怒ってるんだ?僕が遅刻したのまだ怒ってるのかな。でも、向こうをむいたその頬は、ほんのりと紅くて―――。




店員さんがジャスミンの花を小さな花束にしてくれた。お金を払い、受け取った小さな花束を、ろっぴさんに向ける。少し驚いたように振り向いたろっぴさんは何?と小さく声にした。機嫌取り、ってわけじゃないけど、いや少しは機嫌取りだけど、月並みなことしか言えず、できない僕には精一杯の誠意と愛情をこめて


「僕、月並みなことしか贈れませんが、"あなたについていきます"。それから」

「…………」

「愛してます、ろっぴさん」

「あっ………」




かあぁと音がたつくらい。顔を真っ赤にして、でも花束は受け取ってくれて。ろっぴさん、名前を呼べば、うつむいた顔がばっとあがって、可愛い顔でにらまれた。子猫に威嚇されてるみたいだな、なんて思いながらよしよしと頭を撫でた。


「こ、公衆の面前で、ば、ばかっ!ばか月!!」

「ばか月って……酷いです」


そうだ、月並みなことしか言えないけれど
僕はろっぴさんが好きだから


次、どこ行きますか?と尋ねたら手を握られた。どこでもいいというその意味が、僕と一緒ならいいという意味も含んでいたなら、嬉しいんだけどな。



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初月六
ろっぴがよくわからないのでとりあえずうざいを連呼させたらうざくなってしまった
犬苦手だったりしたらかわいいろっぴ

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