つまらない。
シズちゃんはなんだか知らないけど最近女にもてる。黄色い声浴びんのはいいんだよ、俺だけで。つか……どうしよう。シズちゃん…あの中から好きな奴できたりして……そうだよ、俺男だし…実際女のほうがいいに決まって…
――うわああ、くそっにしたって内二人は実の妹だぞ!
ああ、くそ
「シズちゃんの、ばか」
デートとかいう名目で今日は池袋を二人であるってた。あるってたけど、何かとぎゃあぎゃあ口喧嘩しながらで、デートなんかには程遠いものだったし、そもそも池袋を行き先にしていしたのが間違いだった。朝今日服何にしようとかバカみたいに甘いこと一瞬考えた自分が本当にバカみたいで、手をつなぐどころか、会話も成り立たない。
そんなときだ。
たまたま妹二人がそこに鉢合わせてシズちゃんに飛び付いてきた。
「しーずおさんっ!」
「久……」
「うお、お前らか」
「ああ!静雄お兄ちゃん!!」
「あ、先輩」
「お、静雄じゃねえか」
勢揃いだな、とシズちゃんは苦笑して、そんなんだからさっきまでもめてたシズちゃんから離れてしまって俺だけ蚊帳の外。粟楠茜ちゃんから、シズちゃんの仕事の先輩後輩。自分妹までもがシズちゃんを囲んでわいわいやってると、なんだか、妙にもやもやする。その正体なんてよくわかんないけど、でも、なんかムカついて、踵を返してきた道をづかづかと帰りはじめた。
なんなんだよ、ふざけんな。俺といるときはあんな風に笑わないくせにさ、おめでたいね女の子に囲まれてへらへらしやがって(いうほどしてないけど)腹がたつったらない。別にずっとこっちを見てろとか、そんなこと言いたいわけじゃないし思ってないけどさあ、なんなのあれ。俺と顔あわせれば喧嘩になるし、最近……その…いろいろとご無沙汰だし。好きだとか言ってくれる割に、俺ばっかわくわくしたりしてて、シズちゃんは別に
『必要ならする』
みたいな体でいるし。
シズちゃんのばか。ばかばか、おおばか。何にもわかってくんない。鈍すぎる。鈍感、本当、鈍感(大事なことなので二回言いました)
もうやだ、帰る。
「臨也、」
想像よりずっと近くで声がして焦った。振り向いたら何食わぬ顔でシズちゃんがついてきていて、考え事しすぎていて気付かなかった自分と、追いかけてきたくせに俺の顔を見ても首をかしげるくらい鈍感なシズちゃんにどうしようもなく憎んだ。てか何追いかけてきてんのこの人。あんだけわいわいきゃあきゃあ楽しそうにしてたくせに
「なっに、追いかけてきてんの?他の人たちは」
「あ?今日は臨也とデートなんで失礼しますって」
「はあぁ!?何それ!なんでそんな正直なの!?」
「はあ?嘘つく必要もねえだろ。それにお前何にもいわねえでどっかいっちまうから」
「…………そ、れは……」
「………何拗ねてんだよ」
「は…ッ……はああ?!」
「拗ねてんだろ」
「……拗ねてないし」
「拗ねてる」
「す、拗ねてないっ!!」
って、言ってんのに
たくもうしょーがねーななんて俺の頭撫でて優しく笑いやがって。やめろと身悶えていると、す、とシズちゃんの顔が近づいて
ちゅ、
触れた頬から、かあぁと熱が身体中を蝕んでくる。熱くて、キスされた頬に、周りも見渡せず、シズちゃんの顔も見れず、俯いて、
ああ、シズちゃんはどんな顔してるだろう。きっと、さっきのしょーがねーなみたいな顔で笑ってるに決まってる。
……意地悪だ。シズちゃんは。
俺だって言いたいこといっぱいあんのに。
俺だって、言い訳くらいしたいのに。
やることが意地汚い。シズちゃんのばか。
「ん…、機嫌、治ったか?」
「ばっ、な、治るわけないだろ!こんなんで!!」
「こんなんでってことはもっと他のことしたら治るってことだな」
「だ、ちょ、違ッ」
「たく、仕方ねえ。行くか」
「……どこに」
「……手前の機嫌、治しに行くんだよ」
ふっと笑ったシズちゃんはなんかかっこよくて、もうどうでもいいかもって思った。てか治るわけないとか否定してる時点で拗ねてんの肯定してんじゃん、俺。
悔しくて、唇を噛んで
「シズちゃんの、ばか」
小さく悪態をつきながら、その角張った手を握った。
*
「う、ぁ」
ぐちゅんと、緩い水音が耳をくすぐった。きつい、なんて言われたってどうにかなるわけないのに、まるで俺が悪いかのように顔をしかめるから睨みかえしてみる。
「何、かわいい顔してんだ」
「ッ、にらんで、んのっ」
「涙目で見上げられたらずるいだろ」
「だから、ちが、ぁ、ん」
にいと笑ったシズちゃんは悪戯に濡れた胸の突起を摘んだ。「機嫌、まだ治んねえの?」なんて耳元で吐息混じりに囁くから、ひうと喉がなる。本、当に…意地の悪い…。肯定も否定も含ませずただふるふると首を振れば、腰を掴まれて一気に突きこまれた。握り締めたホテルのシーツは、ムカつくくらい白くて、綺麗で、我慢しようとした嬌声も、その衝撃に漏れた。なんか、何にも思い通りになってない気がする。そのくせ、シズちゃんは機嫌取りとか言って俺を優しく抱く。別にこうなるように差し向けたわけじゃない。ないけど、心のどこかで期待していたから拒絶しなかったんだけど、言い訳してもいいなら、今日は別にそういうつもりで帰ろうとしたんじゃなかった。ただ、……あれ、俺
なんで帰ろうとしたんだ?
なんで、あの光景が気に入らなかったんだ?
口喧嘩してたくせに。すごく腹が立ってたくせに。何が、そんなに気に入らなかったんだ?
シズちゃんからしたら、あんなのいつものことで、―――――自分の損得を勘定せずに誰かに優しくすることは、シズちゃんからしたら当たり前のことなんだ。だから、あれは当たり前の光景で
『何拗ねてんだよ』
ああ、そうか
「シズ、ちゃん」
バカみたいで、かっこ悪いけど、ただ俺は、構って欲しかったんだ。こっちを見て欲しかった。誰にでも優しくできる彼が、それでも選ぶ唯一であることを確かめたくて。そうであれと、淡い希望と、一抹の不安を抱えて、俺はシズちゃんを
「ッ、はあ、ん…んんッ」
「……、んだよ」
「は、ぁ……好き、だよ」
「………あ?」
「ん、あ、だからッあ、ちょっ、」
「聞こえてんよ」
「あ、やッ、ん、やぁ」
「俺だってな……好きに決まってんだろ」
優しい痛みはあると思う。
きっと、今この痛みに名をつけるなら、俺は"優しい"と言うだろう。胸を裂くような痛みではなくて、ただ、溺れるような、そんな
ぐちゅんぐちゅんとリズミカルな水音と衝撃にまたシーツを強く握り締めた。痛いような、いやでも、酷く優しい、衝撃。シズちゃん、シズちゃん、狂ったように名を呼んで、喘いで、どうにもならない快楽に涙が落ちて。愛しているとシズちゃんは言った。こっちのセリフだと、言いたかった。シーツを握る手を上から握られて、一度解けた指は、シズちゃんのそれと絡んで握り締める。温かいと思った。愛しいと思った。傍にいられることがどうしようもなく嬉しくて、握り合った手を少し強くしてみる。こんな行為に意味などないと言ってしまえば、確かに何の意味もない。だけど、誰かを愛しいと思うことは意味のないことだろうか。
好きだ。
目の前にするとバカみたいにジェラシーでいっぱいになるくせに、いろんな奴に好かれているこいつが好きだ。目が合った。余裕がなさそうなシズちゃんが唇を重ねてきた。吐息が交じる。それは笑えるくらい熱い。
ああ、余裕なんてなくていい。
それくらい全身で君を愛してみたい。それくらい、全てで君に愛されたい。
「ひ、ぁッあ、シズ、ちゃ」
「ん、…もう出すぞ」
「んんっ、ん」
最後にぐんと深く突かれて、びゅくびゅくと果てた。淡く痙攣する体に腹の奥の方で熱いものがじわあと広がるのがわかって、ねえと声を出す。枯れていて、でも今はそれさえ愛しくて
「俺、男なんだよ?」
「みりゃわかる」
「あんだけ女の子に人気あるのに、なんで俺を選んだの?」
「……よくわかんねえ質問だな」
「なんで?」
「………んなの、」
抱き締められた。抱きごこちだって女のほうがいいだろうに。こんなごつごつした男のどこがいいんだ。
「お前だからに決まってんだろ」
訳わかんないと笑ったけど、シズちゃんらしいと思った。笑ってないと、ちょっと泣きそうだった。俺もだよって言ったら、シズちゃんは何にも言わないでキスしてきた。
まあ、もうどうでもいいや。
「ねえ」
「ん?」
「次デート行くときは地方にしようね」
「あ?別に俺はどこでも」
「俺が地方にでたいの!」
今だけは俺だけのものであれ。
池袋の自動喧嘩人形、兼
俺の恋人。
―――――――
元ネタはブログのアメンバー様の素敵な小ネタから
自分なりに話を膨らませてしまった…