「……ふ、ぁ……」


「…満足か?」


「なんだよ。ご機嫌とりのキスならいらないし…。シズちゃんのばかたれ」


「あのなあ、言っとくが俺は手前とヤるためにここに来たわけじゃねえぞ?」




わかってるよ、そんなの。
呟いて顔を背けた臨也に、うまく伝わらない歯痒さが込み上げる。
ついそんな現状に苛立ちもするが、そもそも俺のせいじゃねえかとすんでのところで自制していた。


「いいか、一回しか言わねえからよく聞いとけよ。俺は手前とヤりにきたわけじゃねえし、手前と、き、キスしたり、一緒に風呂入りたくてきたわけじゃねえ」


「………わかってるって、言ってるじゃん!どうせ俺だけだよ、シズちゃんのことが好きで好きで仕方なくて、どうにもなんなくて、俺だってわけわかんないの!!シズちゃんが嫌がってるのだってわかってるんだよ!でも……でも好きで」


「聞けっつってんだろ!!馬鹿蟲!!

俺がいつ嫌だなんて言った!?誰が手前と一緒にいたくねえとか疲れるだとか思うなんて言ったよ?
んなこと一言だって言った覚えはねえ!
俺だってなあ、俺だって手前が好きなんだよ!!下手なことして傷つけたくねえ…だけど俺は鈍いから上手く手前を愛してやれねえ。わかってる。
ただ俺がここにきたのは少なくとも手前と一緒にいたかったからであって、身体目当てできたわけじゃねえってことだ!!そこよく覚えとけ!!」






言うだけ言って、突然靄がかった胸中がすっと晴れる。
ぐずついていた気持ちがやっとすっきりして、ぽかんと目を丸くした臨也をよそに、一方的についていた腕で抱き締めた。
ベッドに座るように抱き起こせば、臨也はされるがままで
俺は、より抱き締めやすくなった体勢に、再び抱きすくめる。


目を閉じれば真っ白な掛け布団が海のように広がる。
もっとも実際は俺たち二人合わせたら小さすぎるくらいのセミダブルのベッド。
なのに、遠く聞こえる波の音が
妙にそんな気にさせた。
腕の中で大人しく息をする臨也の匂いに、俺も今はこいつと同じ匂いがするのだろうかと真っ黒な線の細い髪に頬をすり寄せれば、擽ったいと小さな声がする。
そんな一言にすら、胸が締め付けられそうになるのはなぜだろう。
嫌で嫌で仕方なかったこいつの声が、いつからか何より俺を幸せにするようになったのは、何故…









ああ、そうか



おかしいくらい


こいつが好きだから










「脱げよ」


「……え?」


「すんぞ」






「…、うん」








*














ある時臨也はこう言った。










『人を理解するのは無理なんだよね。
だって理解しようとしている脳と感じている脳は別のものなんだもの。

だからさ、愛してるだの愛してないだのも一緒なんだよ、それと。
俺が人を愛してるって言うその(アイシテル)は、俺からしたら(ラブ)だけど、他人からしたら(ライク)かもしれないし、もしかしたらとんでもないくらい狂った(アイシテル)だと言うかもしれない。
それは憎しみだとか悲しみだとか言うかもしれない。
そんなの俺にならなきゃわからないだろ?
理解するにはそれこそ人間の脳をデータ化するくらいやらないと。
でもきっと、何百台何千代のスパコン集めても、できないと思う………というかできて欲しくないのかな、俺は。

まあ、結局




人は他人を永遠に知りえないんだろうね。
他人だけじゃなく、自分すら』







またごちゃごちゃ変なこと言ってやがるとあの日あの時の俺は酷く苛立った。
ただ、人を小馬鹿にしたような、見透かしたようなそのぶっ殺したいと追い続けた瞳に、一瞬寂しそうな色が浮かんだから


だから俺は、怯んだ。

そして逃げ回ってきた臨也が急に駆け寄ってくるのに身動き一つとれず、臨也に











そのまま臨也にファーストキスを強奪された













思考停止もいいとこで、はっとしたのはもう臨也が逃げ去っていた後だった。
あまりに嫌悪も苛立ちすらも、何もなかったために俺はどうしていいかわからず、その後何事もなかったように池袋をうろつく臨也を見つけるたびに顔を背け、踵を返しその場をさることしかできなかった。

その時の俺は臨也のしたことに本当に理解ができず、嫌がらせの類とすら思っていた。
それなのに、臨也が何の意味もなくあんなことをしたのかと想像すると妙に胸が痛んだ。






「…、ん…ぁ…」


「痛ぇか?」


「……平気…」



沈めた指に顔をしかめる臨也は、なんだか凄く脆く弱くて、俺なんかの力があれば簡単に壊れてしまいそうだった。



だから怖いと、口にせずとも怯えるいつかの俺を、臨也は笑った。
もちろんいつも通りに人を苛立たせる笑いだったが、「俺壊れたりしないから」と言う臨也が、俺の力を理解しようとしているようで、どこか救われるような気がした。





―――……実際意外と壊れんだけどな







臨也は大抵のことなら大丈夫、大丈夫と笑うが、やせ我慢も少しあることはわかっている。
臨也の理屈からいえば多分それは俺の勝手なエゴになってしまうのかもしれないけれど、




「…久しぶりだからキツいな。指でキツいとか本当に大丈夫なのか?」


「今更、ぁ、ん…何心配してんの。っ…大丈夫だってば」


「本当かよ」


「いれないとか、言わないでね。っは、あ…ん、そっちのが嫌」


「………わーったよ」



そう呟いて、唾液で光る胸に吸い付く。
がくんと臨也が背をそらすからその振動で指が中で激しく動けば
悲鳴のような嬌声をあげて、胸にしゃぶりつく俺の頭を掻き抱く臨也にどうしようもなく興奮して



「うあっ、あ…はあ…んっ…」


「……、…大丈夫かよ」


「うるさ…、大丈夫だってば……あ、んんっ…」




臨也が控え目に果てる。
飛沫した白濁としたそれを、引き抜いた指で掬いとってみせた。
触ってもいないのにと嘲笑すれば、うるさいと頬を紅潮させ息を荒げる臨也の頭を撫でる。
濡れた目を覗けば、シズちゃん、と呼ばれて



「なんだ」


「ん………いれて、よ」


「……おう」





俺は臨也のようによく回る頭を持ち合わせてはいない。
だから、必死になって悩みぬいて、それでも誰しも簡単に辿り着ける、[好きだ]という答えに俺はどうしても辿り着けず、ずっとぐるぐるぐるぐる同じところを回り続けて


あまりの俺の逃げ回りっぷりに流石の臨也もかなりダメージを受けたらしく、ことの発端から数日後にわざわざ自宅まで押し掛けてきて、俺に陳謝した。


すまなかったと、
もう池袋にはこないと、
もう会いに来ないからと…







「だからもう、忘れてよ」






そう言った蟲は今すぐにでも泣きだしそうで
逃げるように玄関から飛び出した臨也の白く細い手首を掴んで抱き寄せたのは、ほとんど無意識。

堪え切れなくなったのか臨也はそこで初めて泣きながら、好きだと言った。


妙に腑に落ちて、ああ人はこういう気持ちを好きだと言うんだろうとそう思った。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -