【カンダタ=静雄の場合】


ある日のことでございます。御釈迦様(臨也)は極楽の蓮池の淵を独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

(中略)

すると地獄の底に静雄という男が一人、他の罪人と一緒に蠢いている姿が御眼に入りました。この静雄という男は人を殴ったり、街灯をひっこ抜いたり、自販機を投げ付けたり、とにかく御釈迦様の邪魔ばかり働いた男でございますが、それでも日頃の行いはよかったので御釈迦様は(仕方なく)極楽の蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって玉のような白蓮の間からはるか下にある地獄の底へ真っすぐにそれを御下ろしなさいました。

こちらは地獄の底の血の池で他の罪人と一緒に、浮いたり沈んだりしていた静雄でございます。

(中略)

ところがある時のことでございます。何気なく静雄が頭を上げて血の池の空を眺めますと、そのひっそりとした暗の中を遠い遠い天上から銀色の蜘蛛の糸がまるで人目にかかるのを恐れるように一筋細く光りながらするすると自分の上へ垂れてまいるではございませんか。

「………何だぁ、ありゃあ?」

静雄は糸の先にいらっしゃる御釈迦様を見つけると思わず手をうって喜びました。この糸にすがりついて力任せに引っ張れば御釈迦様を極楽から引きずり落とせるのに相違ございません。いや、うまくいくと地獄へたたき落とす事さえもできましょう。
こう思いましたから静雄は早速その蜘蛛の糸を両手でしっかりとつかみ全力で真下にひっぱり抜きました。


「………、……ぁぁぁああああああああ゙あ゙!!!」


御釈迦様は風を切って独楽のようにくるくるとまわりながら見る見るうちに暗の底へ、まっ逆さまに落ちてしまいました。

「ちょっと待って話が違う」

「うるせえ、ざまあみろ」


御釈迦様(本物)は極楽の蓮池の淵に立ってこの一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、静雄が御釈迦様(臨也)を地獄へたたき落とした報いには、できるなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。そして次の瞬間には静雄はあの暗い地獄の底から蓮の花の何とも言えない好い匂いが絶え間なくあふれている極楽へ救い出されていました。


「…………糸、登ってこなくてよかったんすか?」

「貴方はそれだけ善いことをしたということです」


御釈迦様はやがて臨也が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、嬉々としたお顔をなさりながら、静雄と一緒に又ぶらぶら御歩きになりはじめました。自分ばかり極楽から罪人を見下している臨也の無慈悲な心が、そうしてその心相当の罰を受けて地獄へ落ちてしまったのが御釈迦様の御目から見ると浅ましく思し召されたのでございましょう。
しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんなことに頓着いたしません。その玉のような白い花は御釈迦様の御足のまわりにゆらゆらうてなを動かして、その真ん中にある金色の芯からは何とも言えない好い匂いが絶え間なくあたりにあふれております。極楽ももう昼に近くなったのでございましょう。


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釈迦鬼畜w

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