顔中、身体中、豆だらけの男は忌々しそうに顔を歪めたまま微動だにしなかった。いや、微動はしている。怒りにふるふると体を震わせてはいた。


「鬼はー外ー!!あっははは」


ばららばららと俺のまく豆はシズちゃんの体やら顔やらにぶつかっては落ちる。いくつかはひっかかってぶらさがってたりもして、かなり面白い光景であった。
屋上のど真ん中で突然起こったそんな非日常的な状況に、否、ある意味時期であるから日常的ではあるのかもしれないが、場所が場所だ。
周りの引きつった顔の学生たちが少しずつ遠巻きになっていくのを感じながら、ひとしきり投げた豆の入った升を片手にあははとまた声をあげて笑ってやった。


「なんの、つもり、だ」

「シズちゃんの中の鬼を退治してあげようと思って」

「退治されんのは、手前のほうだ!!諸悪の根源がああああああ!!!」

「あはははは、怖い怖ーい」




校舎から屋上へ繋がる唯一の扉を開けると階段を二段飛ばして逃げ回る。
後ろからの怒声に顔がにやけてしまうのは、俺の性格が歪んでいるからだろう。自覚はあるのだ。



一階までかけおりて、すれ違いざまに先生に「またか」と嫌な顔をされたのも気にせずに、近くの男子トイレに駆け込んだ。
悲鳴と怒声はしばらくして近づいてきたが、またどんどん離れていった。
うまく撒いた。さすがに毎日やってると隠れる場所も考えものだ。


さて、話は変わるが来月は卒業式だというのに俺の周りには進路の決まっていない生徒が多い。
大学とか、あんまりいく奴もいないみたいで。
シズちゃんも散々問題起こしてるけど卒業だけはできるみたいだ。
新羅は勝手に闇医者やるみたいだし。ドタチンは家業継ぐとか言ってたかな。

俺は、今やってる"趣味"をもう少しばかり続けたいから大学に行くつもりはない。

まあ、言いたいのは

卒業したらバラバラになるなーということ。
シズちゃんに毎日会えないのはちょっと嫌だ。




静かになった廊下にでて、怒声が向かった方向へ歩きだした。
俺を追って見つけられなかったときのシズちゃんのいく場所は決まってる。



校舎の隅。一番奥の、人気のない廊下の窓から、ぼーっと景色を眺めているのだ。
心を落ち着かせているのか
何考えてるのかはよくわからないけれど


「シーズちゃん」

「…………手前」

「もー、そんな怖い顔しないでよ、いいものあげるから」

「あ?」

「はい」

「…………んだよ、これ」

「バレンタインだから。チョコ」

「なんで男から男なんだよ気持ちわりい」

「いいじゃん、はい」



押しつけるように、持たせればなんだかんだでシズちゃんはそれを受け取った。
しばらくじっとそれを見つめて、それから俺の顔を見るから、へらりと笑ってみせる。


「いつも怒らせてごめんね!」

「…………ノミ蟲」

「そこでノミ蟲はないわ」

「まあ、なんだ……その…………サンキューな」

「ふふ」

「ん、なんだこれ、手紙?」


箱の隙間に挟まっていたピンクの小さなメッセージカード。
するりと抜けて落ちたそれを拾い上げる。



「ん、なになに、………"好きです。付き合ってくださ………」

「やだなあ恥ずかしいから読み上げないでよ」

「臨也、お前……」

「読むなら早く最後までよんで」

「わ、悪かった。えー"好きです。付き合ってください。こんな直球でごめんなさい。私、きっと折原くんに似合うような女になります。だから………"」

「……………」

「……………」

「……………」

「はっはっは、ばかだなあ臨也は。コレお前あてのじゃねえか」

「いっけね、間違えた☆」

「…………」

「……………」

「………いーざーやぁぁああああああ゙ああ゙あ゙!!!」

「ぶわははは!ひっかかってやんの、バーカバーカ」

「死ねゴラア!!」





本当はポケットにもう一個、もらったのじゃないチョコが入ってんだけど

多分溶けてるから殺されずに生還できたら家帰って自分で食べようっと。




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