セクサロイドを買った。それは噂に聞いていたとおり、あいつにそっくりだった。


「ひ、あッあ」


セクサロイドは楽でいい。ならしもしなくていい。前戯もなくていい。ただ入れれば反応する。そういうふうにできているんだから。

俺の下で顔を赤らめ喘ぐこいつは、あいつじゃない。ただの機械だ。所詮玩具だ。あいつの顔をして、あいつの声を発していても、こいつは、あいつとは違う。

そう、違う。


わかってる。わかってたけど、なら、なんで俺はこいつを抱くのだろう。性交のためだけに生まれてきたこいつを、なぜ、買ったのだろうか。
答えなど用意されていない。それも知っていた。だから、俺はそんな愚問、浮かぶだけですぐに消し去るんだ。


「ッ、マスター…あ、んっ、い」

「、は…」

「いざ、や」




どくん。

胸が嫌なふうに脈打って、口を開いた玩具の顔を力任せに殴り付けた。が、とかたい音がして、目を丸くするそれに吐き捨てるように言った。



呼ぶな。



俺を呼ぶな。その声で、呼ぶな。呼ぶな。

呼ぶな。


あいつと、同じ声で、同じ顔で、そんなに優しく俺を呼ぶな。振り上げた手は、もう一度それの顔を叩いて、でも、それなのにそれは、いざやと覚束ない発音で俺の名を呼んだ。
ふざけんな、わかってるのに。こいつが、あいつじゃないことくらい、もうずっと前からわかってたのに、俺はこいつを傍に置いた。自分がわからない。俺の名を何度も呼ぶそれを、何度も殴り付けて、でも、やっぱりそれは優しく笑って俺の名前を呼ぶんだ。
細めの腰を掴んで、入れっぱなしだったそれを動かし始める。優しさ、なんて微塵も感じないセックスだけど、それでいい。こいつは、その方が喜ぶ。

がんがんと突き上げて、悲鳴のような嬌声を漏らすそれに舌を打つ。苛立っていた。そんな簡単な感情ではないけれど、それが一番しっくりきた。何故だ。わからない。それは酷く汚れた感情。俺はどうしてこんなに苛立っているんだろう。一体何に、こんなに腹をたてているんだ。



「あん、はッあんん、んッ」

「、ッくそ…」






あいつはこんなことしない。あいつは、こんな顔俺に見せたりしない。俺のことを思う瞬間など、ない。俺を受け入れたりしない。こんなふうに俺を求めたりしない。


あいつは、俺のものには、ならない。


そうしてきたのは俺なのに。そうなるように仕向けたのは俺の方なのに。俺が、

俺が





「は、あ」

「やあ、あッ、や、いざ…はあ、い、んんッ」

「黙れよ」


きつく言って、口付けた。もうその名を聞かないように。喘ぐ、喘ぐ。キスの合間で漏れる嬌声は、酷く耳障りで、胸をかきむしりたくなるような音。突き上げて、壊れてしまえと願いながら、ベッドのスプリングが軋んだ。それは俺の胸の奥でなった音に似ていた。

ぎすぎすと、痛い


痛い



「んん、んッ、ん!」

「く、…あ」




ほとんど同時に果てた。ぐったりとするのと同時に、どうしようもない虚無感に襲われて、


ああ、俺、何やってんだろ


こんな機械相手に。こんなの、あいつじゃないのに。それなのに、俺は簡単に果てた。玩具相手に簡単に果てた。なんだよ、あいつじゃなくてもいいんじゃないか。俺は、俺はただセックスがしたかっただけなんだ。


それだけなんだ。
だから、あいつじゃなくても、


ああ、俺が悪いのに。俺が、あいつが俺を嫌うように差し向けたのに。それ、なのに。何してんだ、俺。こんな玩具買って、形ばっかりのセックスをして、こんなの、わざわざあいつと同じ顔の奴じゃなくったってできた。その辺の女引っ掛けてくるほうがずっと安上がりだったのに。何してんだよ。意味ないじゃないか、こんなの。こんなことしてたって、あいつが俺のものになるわけじゃないのに。あいつが俺を受け入れてくれるわけじゃないのに。こんなの、


こんな、










ぼた、


ぼたぼた、



潤んだ視界から離れるように、涙が上気したそれの顔の上に落ちた。ああ、苛立っていたのは、なんだよ、結局、自分自身にかよ。何やってんだろ、俺。こんな玩具を手に入れたって、あいつの心のほんの一部だって手に入れることは叶わないんだって、それくらい、始めから全部わかってたのに。わかってた、のに




「う、あッ……ああ、」




漏れた嗚咽は、格好のいいものでは決してない。落ちて、消えた涙が、憎らしかった。俺だって、消えてしまいたいよ。こんなふうに、切なくなるのなら。

あいつが、俺を笑って受け入れてくれることなんて、一生―――――





「臨也」





触れられた頬。その手は、あまりにも優しくて、俺を慈しむように、流れる涙を拭った。


「……つ、がる」

「臨也、」





薄く笑ったその顔は、あいつが他の奴に向ける笑顔によく似て
そっと伸びてきた腕が、俺を抱え込むように、優しく、抱き締めて、





ああ、これは、きっと嘘だ。全部、俺の汚い妄想だ。
ぎゅう、と布の擦れる音。抱き締められて、どうしようもなくて、わかってる、こいつは、あいつじゃない。だけど、だけどもし、これが俺の妄想なのだとしたら




「………、ん……ちゃ、ん」



いいだろうか。




「シズ、ちゃ……ひく、…ふ……」



この、代用品の腕の中で、それを本物と思いながら



この妄想に、甘えていても、いいだろうか。

あと、少しだけ。






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