「あははは、あはははは、あははははははは!!」
笑う、笑う。
狂ったように笑う。
それはむしろ、世界の終わりを悲しむような、そんなニュアンスの笑い。げらげら笑う。けたけた笑う。
相手がそれだけ笑うわりに俺は恐怖していた。
「あはは、はははは!!あはははは!!」
笑うな、笑うな。
耳を塞げば歪んだ顔がぐんと近付いた。
ああ、狂ってやがる。
キスをした瞬間だけ、しんと世界が静まった。
なのに耳のなかには嫌というほどあの笑い声が残って消えない。消えてくれない。
「あはは、あはは、あ〜あ……」
口付けは、直ぐに離れて天井を仰ぎ見た臨也はそのまま黙った。仰向けの俺の腹の上に馬乗りになったまま、糸が切れた人形のようにかくんと俺を見て、にやりと笑う。気味の悪さに俺の喉はひくりと鳴って、臨也、そう名を呼ぶこともできずに、肌触りのよいベッドのシーツをぎゅうと掴んだ。
「シズちゃん、」
「…………」
「ねえ、愛してるんだよ?ねえ、ねえ、愛してあげてるのに、なんで?なんで?そんな顔すんの?ねえ、なんで、なんでそんな顔、あはははははは!変なの!変な顔!ばかじゃないの?あははは、あはははは!」
「いざ、や」
「あははは、ははは、ああ、あぁあ、あぁぁああああ!!うわぁぁああああ!!」
笑い声から変化したそれは、泣き声なんて甘いもんじゃなくて、今度はぼろぼろぼろぼろ、涙を落としながら絶叫する。
どうしようもなくて、何もできなくて、なあ、臨也と語りかけることもできなくて、
ああ、臨也
何が、そんなに悲しいんだよ。
俺には、わからない。
臨也が、何をそんなに、悲しむのか、なんで、そんなふうに泣くのか、笑うのか、全然、わからなくて
ただ、恐ろしくて、
俺のせいなのか?
俺が、悪いのか?
俺が、……俺、が、
「ああぁぁあああ、わああぁぁああああ、ああ、あああ」
「臨、也」
「ああ、あ、ああ、シズ、ちゃん、愛してあげてるのに、愛してるよ、ねえ、ねえ愛して、」
「俺を愛して」
泣き顔でそんなこというなよ。
俺だって、ちゃんと愛してるのに。伝わらないのか?
こんなにも、愛してるのに。
臨也、臨也、なあ、
どうしてそんなになっちまったんだよ
「愛し、て」
「シズちゃん、シズちゃん、シズ、ちゃん、ねえ」
「愛してる、」
「愛してない、」
「愛してる!」
「シズちゃんは俺のことなんか、愛してない!!」
伝わらない。
きっと俺がどんなに愛してると叫んだって、こいつには届かないんだ。
どうしたら、いいんだよ
なあ、臨也
俺はどうすればお前を愛してるってわからせてやれるんだ?
わからない、こんな、壊すことしかしらないこの体は、お前を愛してやることもできないんだ。
「あはは、あはははは」
「臨也」
「おかしいなあ、滑稽だなあ、俺だけ、俺だけがシズちゃんを愛してて、シズちゃんはちっとも俺のことなんか見てくれない。傑作だ。汚い汚い片想いの恋愛ストーリーだ。あははははは!!」
嘆く。
その笑いがきっと、お前を壊したんだな。
怖くて、怖くて、ああ、俺はまた壊してしまったんだなと、そんなことを思って、げらげら泣きながら笑うその体を抱き寄せた。
俺の上に倒れこむようになったそれをぎゅうと抱き締めて
わからなくていい。
伝わらなくていい。
だけどもう泣くな。
もう、悲しむな
愛してるから、そんな言葉など、こいつにはもう届かないことも俺は知っていて、でもだからこそ、ぎゅうと抱き締めた体を離さないように、離れないようにもっと引き寄せて
泣き声はぴたりとやんだ。
しゃくりあげる子供のような呼吸が、耳元でして、あの笑い声は遠くどこかへ消えていく気がした。
肩が冷たい。
俺はワイシャツ一枚で、今はベストを着ていなかったから、いつもよりずっと早く滲んだ涙が肩に触れた。
泣かないでくれよ、
嘆かないでくれよ。
お前の涙はみたくない。
みたって、胸くそ悪いだけだから、なあ、臨也
「…………Love is ………cold-hearted.」
「え?」
「…………でも、なんでだろう」
「臨「なんで、人間は依存するんだろうね」
ゆっくりと顔をあげた臨也は酷く疲れた顔をしていたけれど、その含んだような笑みが、俺を安堵させて
愛してるとはもう言わなかったけれど、そんな困ったような苦笑が、答えになるんだろうなと思って、今度は俺から口付ける。
拒絶はもう、されなかった。
離れた唇の隙間で、臨也が呟くように言った。
「Love is ……like human.」
――――――――――
俺もそう思うよ、臨也