臨也+サイケ(シリアス)







「どうして?」



問いは簡単なもの。
どうして、俺と違うの?それだけ。
俺が手首を切れば、ぷくりと血が溢れてくる。同じ顔のそれが手首を切っても、何も出てこない。



どうして?
だから出た問い。


どうして俺の手首からはでないの?



「サイケはロボットだからだよ」

「ロボットは、でないの?」

「ああ」

「みんな?」

「ああ」

「でるのは、にんげんなの?」

「そうだよ」

「おれはにんげんじゃないんだ」

「うん」

「じゃあマスターにあいしてもらえないんだね」

「そうだよ」







そう言ったのに、サイケは毎日毎日、自分の手首を切った。
人工皮膚には傷は入るものの、当たり前のように血はでない。
そして当たり前のように再生しないから、サイケの手首はズタズタになった。
べろんと向けた皮を、邪魔そうにちぎって、捨てて


いい加減津軽に怒られたりして、そのときはやめるけれど、彼の目の届かないところでざくざく切っていることを俺は知っていた。


中毒だな、あれは。





サイケは、いつからかリストカットをしていないと不安になるようになった。
それは、きっと俺に好かれたいから。血が出れば、人間。だから、出ないのをわかっていてもリストカットをする。
別段俺が何か圧力をかけたわけじゃない。
サイケが勝手に始めたのだ。

今だって、別に俺はサイケが嫌いなわけではない。
ただ、人間ではない彼を人間と同じように愛してはいない。ただそれだけ。


それだけなのに、ね。




人工皮膚のめくれた手首は完全に芯が見えてしまっている。
そこにも線が幾多も重なっていて、彼が満足していないことを伺わせた。




「もうやめろ、サイケ!」

「や、だ!いやだ、かえしてよ、つがる!」

「だめだ、お前がそんなことする意味なんてないだろ、マスターからもなんとか言ってやってくださいよ」

「そんなことする意味なんてないよ。」

「マスター……」

「それは、人間でも同じだ。君となんら変わらない。でも君はロボットだ。人間じゃない。切ったって血も出ない君は、人間ではないよ、少なくともね」




ショックを受けたような、そんな顔が印象的だった。
わざと、言ったのだが。
サイケがもっとそうするように、

何故?理由なんて簡単さ




観察したいから。

ロボットがどこまで人間に近付けるのか、興味があった。







くる日もくる日も、サイケはリストカットを続けた。
一生懸命、必死に、そんなくだらないことに必死になって、リストカットを続けた。
きっともう、俺に認められたいという最初の理由なんてどこかへ行ってしまっただろう。
痛みを感じないから、平気でできる。やっても死なないから、
やっぱり、ロボットはロボットだなと思った。
かわいそうだけど、ロボットはロボットだ。

あの子は人間のように心に傷をおってるわけでもない。ただ、習慣としてやっているだけだろう。
たとえ腕がもげたところで、サイケは死なない。
腕がもげてほうっておいて死なない人間などいない。ほら、サイケは人間ではない。



人間ではない。







「………サイケ」

「末期的だね。ついに、それにしか目がいかなくなった、か」

「……………」

「これはもう壊れたも同然だね。人間で言ったら強迫神経症みたいなもんだ」




サイケはリストカットだけにとらわれるようになった。
もう、それしかやらない。話し掛けても反応しない。ただ永遠と手首を切り続けるだけ。
剃刀を奪い取っても、彼はやり続ける。
新しい切れるものを探してリストカットを続ける。

奇妙な光景だ。

行き着いた先がこれか。

あの日どうして?と尋ねたサイケの幼い顔はどこかへ消え去ってしまった。


かわいそうに。
そう思うわりに、それは酷く他人行儀なもので



がりがりと手首を削る彼を止める手立てはもうない。
一度機能を停止させて、この行動のログをすべて消し去ること。
それだけだ。


彼の電源を落とすために、手を伸ばした。


俺のその手首には、もう傷跡など、跡形もなく消え去っていた。




―――――――――
10万打記念E

怖w
人間にはなれないかわいそうなロボットの話



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