デリ→サイ(切死)







痛みなど、俺たちはきっといつまでも理解する日はこないのだろう。人間とアンドロイドの壁は大きすぎた。
愛など、俺たちはきっといつまでも理解する日はこないのだろう。人間とアンドロイドの壁は厚すぎた。
悲しみなど、俺たちはきっといつまでも理解する日はこないのだろう。人間とアンドロイドの壁は高すぎた。



粉々に、砕けて消えた。
ガラスのように壊れた君の、その体を突き抜けた腕の感覚だけが、いつまでも消えない。
愛など、わかりっこなかったんだ。

同じ色のヘッドホン。
俺のほうが性能のいい"新作"。でもそんなの気にしないで、彼は嬉しそうに笑った。


サイケデリック


俺たちの名。
俺に与えられたのはデリック。彼に与えられたのはサイケ。
俺たちは似たようなものだった。だからなのか、俺はサイケに特別な感情を抱いた。


それは、本来俺たちが持つはずのないもの。

愛。
不確かな、そんな感情。
でも、サイケにはもう、"愛する"ものがいた。かけがえのないものがいた。
そしてそれもまた、サイケをかけがえのないものとしていた。


俺だけが、のけ者。

欲しい、欲しい

欲しかった

生まれて初めて、欲しがった



サイケが欲しい





そのためにはそれは邪魔だったのだ。
かけがえのないものがいたら、サイケは俺のものにはならない。だから、俺は拳を振り上げた。破壊するために振り上げた拳は、














腕を見た。
何も残っていないのに、苦しくて仕方なかった。
誰も俺を責めない。サイケを愛したそれだって、かけがえのないサイケを失って壊れてしまったから。


俺は一人になった。
俺たちを作った人間は少し愉しそうに最初から最後までことの顛末を見ていたけれど、結局俺を責めることだけはなかった。



『いいんだよ、こんなの。壊れてしまったらただのがらくただろう?ねえ、デリック』





壊れた2つのスクラップをがしゃんと爪先で軽く蹴って、あの人は笑った。



『何度でも作りなおしちゃえばいいんだよ』



あの人は笑った。
そうやって笑った。
その瞬間に俺は悟った。ああ、そうか、この人は俺たちを生き物だと思ってないんだと。
恐怖も悲哀もない。だって俺はロボットだ。人間の形をしているけれど、俺は人間じゃない。アンドロイドだ。
だから悲しみも、何もない。



だけど腕に残ったあの感覚はいつまでも消えることが無い。
愛しい、初めて欲しがったサイケの体を貫いた俺の腕。

あの感覚が、いつまでも、残って離れない。
それはサイケの憎しみなんじゃないかと思った。サイケが、後悔しろと言ってるんじゃないかと思った。サイケのことだから、きっとそんなことはないのだろうけれど、どうしても、そう思わずにはいられなかった。

俺は、壊れることができなかった。
こうなるならば、いっそ一緒壊れてしまえば楽だったというのに、







サイケのかけがえのない、それを壊そうとしたとき

サイケはそれと俺の間に入って、俺の拳を体で受けた。
勿論、殺す気で振り下ろしたのだから、それは容赦なくサイケの体を貫いて、


サイケの体は、脆く崩れて、俺の上へ倒れこんできた。
皮肉にも、それが初めて彼を抱き締めた瞬間だった。それが、最期の瞬間だった。


『きみも、』




忘れられない。
消えてくれない。



『きみもサイケデリックなの?』




笑った優しい顔が、無邪気な声が、消えてくれない。

俺を苦しめて放さない。





『ねえ、"あい"って、すてきだよね』



『だから、おれね、だいすきなんだ』



『みんながだいすきなんだ』



『つがるが、だいすきなんだ』









ああ、やめてくれ、やめてくれ。
あれの名前など呼ばないでくれ。俺の名前を呼んで、俺を呼んで、俺を、愛して、ねえ、お願いだから、




「う、ああぁぁあ、あああぁ、」




涙をこぼした。
俺にはそんな資格もないのに。
俺はこの腕で君を殺した。この腕が君を殺した。


この腕が、愛しい君を、貫いて、




『デリックはやさしいね』



ああ、違う、違う

優しくなんてない。
優しくなんてないんだよ。お願いだから、もう、俺を許して




『ありがとう、デリック』




貫いた君が、耳元で



『ごめ、んね…』





君は何を謝ったんだ?
君は、一体何を

謝るのは俺のほうだったというのに、何故、どうして



わからない。
けれど、彼が死んでしまった今、わかる日など永遠にこない。

ただこの腕の違和感だけが、永遠に残って消えないのだろう。
人間でも無い俺は、いつ壊れるのかもわからないその中で、その後悔だけを永遠に繰り返していくのだろう。


俺のエゴが生んだ悲劇が終わる日は、きっともう永遠にこない。
こうして、また一人になってしまった俺は、この感覚と共に、生きていかなきゃいけないのだから。


君を殺した感触が消えないの。

きっと、いつまでも

それが俺の贖罪、だから




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10万打記念B

かわいそうなデリックの片想い

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