※番外編です。本編を先に読まないと訳がわからないと思われます





「ほら、ちゃんと顔見せてください。あちゃー、痛そう。でも骨は砕けてないみたいですね」

「殴られるなんて聞いてない」

「あなたがそうなるように仕向けたんでしょう」

「…………」

「本当に過激派ですね。やることもやられることも」

「……うるさいな」



雨から逃げるように、静雄の壊したドアからビルの中へ入ると、うるさいくらいに火災報知器のベルが鳴り響いていた。
僕の目の前で、壁にもたれるように座り込んでいる男の名は、片桐一政。少し前に彼が牛耳する裏組織の人間のオペをしたことで出会った人間だ。あくまで協力しない、という形で私の手足として今回の事件を起こしてもらったのだけど、どうやら片桐さんのほうがターゲットに惚れてしまったようで。かわいそうだとは思ったものの、はっきり言って自業自得だ。俺にはなんら関係がない。

私が彼に頼んだ"お願い"

それは、

折原臨也と平和島静雄
お互いに相手を好きになっていることを自覚させること。


端から見ていてイライラするほどにこいつらは無自覚で、なんとかしたいとは昔から思っていたのだ。
まあ、あとの理由ははっきり言って臨也への報復。僕とセルティの時間を割く諸悪の根源。

だから、"誰か"を探していたのだ。
2人を結び付けるのに利用出来る"誰か"。

片桐さんに白羽の矢がたったのは偶然だ。
なんかこの人ならうまくやれそう。と思ったのと、彼の部下を助けた借りもあったから、いいように利用できると思った。


結果、多分うまくいってる。
臨也は本気で死にかけてるみたいだけど、まあ一回そのくらい痛い目みたほうがいい、あいつは。




「どういう算段なんですか?」

「…………折原が死ぬほどの二酸化炭素はいれちゃいない。確かに10分くらいたてば気を失うくらいの酸素濃度にはなるがある程度の濃度になればすぐスイッチが切り替わって酸素が入るようになってる。それに俺の部屋の扉はかなり厚いが奴の力ならどうにでもなるだろう。折原が死ぬ前にこじ開けられるだろうよ」

「だったらわざわざカードキーのコードなんて切る必要なかったんじゃないですか?」

「結果、カードキーは今あいつの手元にある。それを想定して、だよ。カードキーを強奪されてあっさり救い出されても、私の蟲の居所の悪さが余計増すだけだからね」

「なーるほど。でもなんであんなドア分厚いんです?」

「俺も裏社会では結構名が知れててね。命なんていつでも狙われてるんだよ。あの消火設備だって昔取引先のヤクザに火炎ビン室内で投げつけられたときスプリンクラーでPCだの書類だのがおじゃんになったせいで苦労したからなんだ」




そんな、"普通"でない話をさらりと言い合う私たちは傍から見れば気質の者ではないように見えるのだろうが、少なくとも僕はいくらかはまともだろう。
まあ、確かに静雄は馬鹿だから惨事になる前に壁をぶち壊して臨也を助けだすはずだ。そして二人は幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん。


で、済めばいいんだけどね、なんか嫌な予感がするというか。

でも僕もなかなかの演技派になったものだ。
静雄にビルが火事だと"そのビルの中から"電話したというのに。


そんな大事になられても困る。
消防のほうには片桐さんの"伝手"があるようで、先ほど問題ないからと電話しているのを聞いた。

あとは、セルティが帰るより先に家に帰れば、完璧。あの様子じゃあさすがの二人も自覚してるだろう。あれでも気付かなかったら俺にはもう打つ手はない、そのときはいさぎよくあきらめる。


「人の恋路はなんとやらとはよく言ったものですが」

「…………」

「今回は初めて人の恋路を面白いと思いましたよ、片桐さん」

「…………は、皮肉かい?」

「はい」

「……食えない奴だな、本当に。さあ、家まで送る。裏に車が来てるから、それに乗るといい。私はしばらくここにいるよ。………どうにも、諦めの悪い心だ、まったく」

「…そうですか、じゃあまたお礼に伺いますね」







*








「お帰り、セルティ……って、二人ともどうした!?」

『静雄は臨也を助けようとして、切れたコードに強引に電気を流したんだ。それで気絶して……臨也も、』

「……………馬鹿だとは思ってたけどここまでとは」


普通に扉壊したほうが早いだろうに。
それとも、他に理由があったのか?

静雄の両手は焼け爛れていて、痛々しく皮がめくれていた。二人をそれぞれベッドへ寝かせ、まず、静雄の手の様子をみる。

そこまで酷いわけじゃあなさそうだ。
意識はないが時機に目覚めるだろう。臨也も。



『新羅、二人とも大丈夫なのか?』

「心配することないよ。火傷もそこまで酷くないみたいだし。さすが静雄………って、あれ?」

『どうかしたのか?』

「そういえば、電気、流れてないね」

『……あ、本当だ。慌てていて気付かなかった』

「…………なんか、丸くおさまりそうだな」

『何か言ったか?』

「ん?セルティは可愛いなって」

『!?急に変なことをいうな!!』

「照れてるとこも可愛どほぉッ!みぞ、鳩尾はキツいよ、セルティ」







*







静雄が目を覚ましたのは次の日の朝のことだった。
もう少し時間がかかるかと思っていたけど、その辺はやはりさすがというか。



「大丈夫?調子はどう?」

「パリパリ音がしなくなって清々した。手もたいして痛くねえし」

「そっか、よかったよかった。臨也も無事に助けられたことだし」

「………臨也は、まだ、目覚まさねえのか」

「すぐ起きるよ。待ってれば?」

「いや、いい。なんで俺がこいつが目覚めるの待ってなきゃなんねえんだよ」





そういいながら、臨也が眠る部屋の戸を開けて、静雄はしばらくその顔を眺めていた。
何を思ってるかはよくわからないけど、ちらりとみた静雄の横顔は、妙に落ち着いていて




「…ん、……ぅ………」



うなされているのか唐突に臨也が顔をしかめ、呻く。


「…………臨也」

「ん、……ちゃ、………シズ、……ちゃん」

「……………」




僕も相当驚いたけれど、隣の静雄はもっと驚いたようで、でも、その声に呼ばれるようにふらりと静雄は臨也の近くへ寄ると、そっと、汗ばんだ彼の前髪を寄せた。
それは馬鹿みたいに拙くて、その、頭を撫でるという動作があまりにぎこちなくて、おかしくてたまらなかった。でも笑ったら殴られるなんて目に見えていたから、ふうんと息を苦笑するのに止めておく。わざわざ死期を短くする必要なんてない。



「…………帰る」

『私が送ろう』

「そうか?……ありがとな」


玄関に向かう静雄の背に、ねえと、声をかける。



「臨也が起きたら連絡しようか?」

「……………」


答えはわかっていたけれど、聞いてみたかったのだ。
最後の、確認として



「いらねえよ」


そういった静雄の顔を見て、ああ、うまくいったと、確信したのだ。







*








「と、いうわけで」

「何だよ」

「はい」

「……………これ」

「片桐さんが『さようなら』だって」




黒く重々しい鞄を見た臨也の顔色が変わるのを見た。それから俺を見た臨也の目は、殺気に満ちていて、あ、やっぱり気付かれたかなと誤魔化すように苦笑してみる。


「なんで君があの人のこと知ってんの?」

「いやあ、ちょっといろいろあってね」

「……まさか、新羅…」

「やだなあ、片桐さんとできてなんかいないよ。俺はセルティ一筋、他に興味ない」

「そんなの知ってる!………ああ、そう。まあ、そっちがその気なら別にそれでいい」

「それでもまんざらでもないんだろ?臨也」

「…………ッ、…」

「顔紅くして「うるさい!」







池袋は相変わらずだ。
それでいい。僕にとっての平穏はようやく戻ってきたようだから。
自分が予期していなかった、否、自分が仕掛けた事件なのだが、そんなばか騒ぎが日常をかっさらった割に、戻った日常は前よりもずっと相変わらず。

愛に満ち満ちた、
そんな




「おかえり、セルティ」




平穏を取り戻した僕の世界。

今はまだもう少し、その甘さに酔っていても罪ではないよね。


僕が差し向けた事件に酔って、何よりあの二人が今でもその甘ったるい余韻の中にいるのだからさ。







―――――――――
番外編。
これは前サイトであげられなかった、裏話です。

はい、新羅が、黒幕というね。
新羅策士だなw
本編で片桐と会話をしている謎の人物は全て新羅です。
片桐さんは新羅のお願いを借りを返す、という名目でなんとなく引き受け、そして人を介して臨也と出会い、本当はもっと違う方法で二人を嵌めるつもりだったのに、臨也を好きになってしまうというかわいそうな人です。それでもやっぱりシズちゃんが好きな臨也のために、自分は悪役になったんですね。

これは新羅も片桐本人も最初は予期していなかったことだったので、まあ彼自身が言ってましたが、"自業自得"ってやつです。


というわけで帯電中は一応これで完結となります!
長々とありがとうございました!

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