「ん」





差し出されたのは小さなポチ袋。

中心に比較的小さめの文字で『謹賀新年』とある。まあ、よくシーズンになるとどこにでも売っているものだ。

それはどうでもいい。
むしろ問題となるのはこの袋を渡してきた人間のほう。

ぶっきらぼうに差し出すからつい見つめてしまったけれど、なんだろうこれ、新手の嫌がらせ?
世間一般ではこの袋を受け取るのは子供と相場が決まっている。
遠回しに

「マジでガキだなお前(ププッ」

的なことが言いたいのか?少なくともこいつにだけは何があっても言われたくない。

サングラスごしの獣みたいに鋭い目を睨み付ければ、なんだよと気に食わないように声を漏らしてくる。


「いらねえの?」

「喧嘩売ってんの?」

「はぁ?」



むしろ反対だろ。
この歳になってお年玉とかなめてんだろ、つーかなんでシズちゃんに金貰わなきゃいけないの。確実に俺のほうが金持ってるだろ。

しかもなんか態度的にも物理的にも上からいらねえの?とか、マジで喧嘩売ってるって
しかも何その顔。
何きょとんとしちゃってんの?
どうしたんだろ、この人。


行き先を失ったポチ袋は相変わらず差し出されたまま。
なぜかシズちゃんもイライラしてきたようで、ぎりと歯の軋む音が耳についた。

「なんだよ」

「受け取れよ」

「なんで」

「いいから」

「いや、意味わかんないから」

「わかんなくてもいい」

「困る。こんなもんいらないから」

「……………、え」

「えって何」

「………いや、うん…悪かった、もう、いい」

「え?」





なにそれ、なにちょっとブルーになってるの?
今の会話のどの辺にそんな青色要素あったよ?
そんなガーンっていう効果音が目に見えるような顔してんのさ

踵を返して帰ろうとするシズちゃんの手を掴んで引く。

あんな顔させるなら受け取ってやればよかった。
いや、だって訳わかんなかったんだもの。
受け取れコラアアアア!!とかキレてくるくらいだろうっと思ってたのに、まさかブルーになるとは


驚いたようにシズちゃんは振り向くから、俺も思わず動けなくなって



「な、……なんなの」

「……いや、……うん…」

「らしくないよ、気持ち悪いからやめて」

「……こんなもんで、悪かったな」

「言い過ぎた」

「クリスマス何にもできなかったから、でも何やったらいいかなんてよくわかんねえし、」

「……わかったよ、はい」



手を差し出す。
シズちゃんなりにいろいろ考えてたんだろうな、
……ちょっと悪かったかも


「…ん」

「……え?頂戴よ」


手の中には何もない。
見上げれば、少し頬を赤らめたシズちゃんがおずおずと俺の手をとって、ポチ袋を逆さにする。



ころり。






ころり?
よく見ればそれは指輪。
それも結構ちゃんとした、

え?なにこれ、誰に?
しかもポチ袋に入ってるとか何?
手のひらの上の指輪はそんな俺を笑うみたいに光っている。
それを手にしてシズちゃんが俺の薬指に嵌めてくれた。

なんかよく理解できない。



「なにこれ」

「気に入らなかったら捨てていい」

「………ううん」

「あ?」

「捨てないよ」

「…………」

「……ありがとう」

「いや、うん、よかった」

「あと一個言ってもいい?」

「何だ?」

「これ右手なんだけど」

「…………あ」




右手の薬指で光る指輪にシズちゃんはかあぁと顔を赤らめた。
慌てて俺の指からひっこ抜くと、今度はちゃんと左手の薬指に嵌めて


なんか恥ずかしくて二人そろって俯いていた。
なんだよ、これ
結構嬉しい、のかも


目が合わせられない。お互いに何も言えずにいれば、シズちゃんが腕を伸ばしてきて、
気付いたら抱き締められていた。

ベストの黒が視界を覆って、温かさとシズちゃんの匂いが胸にいっぱいあふれた。背中に腕を回せば、もう少し強めに抱き締めてくる。



「……好きだ」

「うん、」

「……ん」

「シズちゃん」




少し体を引き離して笑えば、シズちゃんも少しだけ笑って。



「今年もよろしくね」

「おう」





こんなもんとか言って悪かったななんて思ったけれど


「てかポチ袋しかいれるものなかったの?」

「……10年くらい前にもらった袋だけ残ってて」

「おい」



どっこいどっこいみたいだから謝らないでおこう。





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