みなさん初めまして


私の名前は岸谷新羅と言います


突然ですがこの世には、ありえないと思うようなことの1つや2つありますよね?


まあ、僕らがこの世界に生まれてきたこの何億分の1の確率、はたまたこの世界が、この地球が、宇宙が生まれてきた何兆分の1の確率、そんな数えられない程のありえないことが重なりあって存在しているこの世界に、ありえないなんてありえないのかもしれないけれど………なんてどこか哲学地味てしまうからここらで一旦止めておこう















話は変わるがこう見えて僕は優秀な医者だ


ただ少し、ワケアリの患者を診ているというだけで、ただ医者という名前の前に、(闇)という一文字がはいるだけで…


ちょっと、ちょっと


そんなに怪訝そうな顔をされると流石の私も傷付きます


あ、でもセルティにそんな顔をされたら多分鼻血噴くな、俺

あ、でもでも一言言わせて貰えば、僕は決してマゾと言うわけではないのでして、ただセルティは特別だと言うことをわかって貰えたなら本望です
いや、でも本当にセルティは可愛いんですよ
この前なんて電卓とリモコンを間違えてテレビに…………





















さて、


何の話でしたっけ…


ああ、そうでしたそうでした


つまり言いたいことは、




ただでさえ
ありえてはおかしい人間に
この上なくありえないことが
ありえてしまった、ということですよ




医者の私も、きっと世の中の誰しも、あの情報屋ですら見たこともないようなことが、ね




*






僕がこの世に生を受けて初めてあんなにも理不尽に感電死させられかけたあの日は、久しぶりの晴天だった。


今年は冬の割に雨が多く、からりと晴れた空を窓から眺めたのは数日ぶり。
明日こそは晴れだろうと淡い希望をもって天気予報を見たときに週間の天気が全部雨であるほど気持ちが萎えるものはない。

だけどたまに、思い出したように晴れ渡る日もまた気紛れにやってくるから、今日のような日は喜びもひとしおな訳である。






そんな中、セルティは臨也に頼まれて仕事に出かけている。
毎度のことながら危ない仕事に可愛いセルティを巻き込む臨也にはいつか天罰、否私が直々に人罰を加えようかと思っていたり、いなかったり。



ああもう…どうしてこの世界は僕等の時間を奪うのだろう(特に臨也)


思わずため息がもれて、口元まで持っていっていたマグカップの中の珈琲がゆらりと揺らぐ。


あいつも相変わらずわけわからないことしてるみたいだしなあ…




ふと窓から離れ、机に置かれた小型のノートパソコンを開く。
くおんと起動音が黙りを決め込んでいた部屋の空気を震わせた。
奇妙なほど今日の僕の部屋は静かで、構わないっちゃあ構わないのだが、やはりセルティもいないとなると空虚感は拭いきれないものがある。









ピンポン







ピンポン





唐突なインターホンの電子的な音が部屋に響いた。
おやおやと振り返るが、なんだか急に面倒になる。
そんなことを考えている間にも、無機質なメロディーは止まらない。
しつこい上にうるさい。
こんなときは居留守だろう。

ごろりとソファーに倒れこんで、僕は今寝ていると自己暗示を掛けはじめる。

私の家のインターホンを使う客なんてろくな客じゃない。
というか知り合いにろくな人間がいないからろくな客であるはずがない。






ピンポン












ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン


ガバッ


流石に慌てて起き上がる



…インターホンが、

今まで押されたことのない早さと力で連打されている
電子音と、連打音が苛立ちを露骨にあらわしていて、そこで、あ、あいつかと気付く


しかしなぜわざわざインターホンを…?




急いで玄関へ向かい、ドアに手をかける。
ピンポンラッシュはその間にも止まらない。
ああ、これ言葉を間違えたら二度と日の目は見れなくなるかもしれないな。





バチ



「痛」


指先に走った痛みに思わず手を引く。

……静電気?
冬だし、久しぶりの晴れだし空気乾燥してるのかな。
なかなか痛かった。



ガチャリ



「…あ、やっぱり」


目の前には色素をぬかれた金髪が苛立たしく揺れていた。
こめかみに浮き立った青筋にまあまあと宥めるように彼を制してみるが、苛々と剥かれた彼の目は正気の沙汰ではなくて、思わず命の危機を感じる。



「手前………なんでさっさと開けねえ」


「いや、押し売りかなんかかと思ったんだよ。ほら、静雄いつもドア破壊しながら入っででで、あだだ、痛い、ハゲるハゲる」





掴まれた前髪あたりからバチバチと酷く乱暴な音がして、体にずどんと衝撃が走ったのはそのときだった。

慌てたように静雄が僕の前髪から手を放すから、わけもわからず尻餅をつくはめになる。


…僕はハゲたのか?


前髪残ってる?ねえ、前髪



白黒する世界にぶんぶんと顔を振って目をあけると静雄が悪ぃと珍しく素直に謝罪した。
…ちょっと
せっかく晴れたのにまた雨にする気かこの男。
額がぴりぴりする。
というか身体中の皮膚がぴりぴりする。





「で、…君は一体どうしたんだい?ついでに僕の前髪は無事かい?」


「俺にもわかんねえ…昨日から変なんだ。身体がぴりぴりしやがるし、誰かに触ると静電気バチバチなるし」


「ああ、だからドアノブ触ると私が感電すると思って…だから、前髪は?」


「ああ、まあ」


「…結局直接感電させられたけどね。…ねえ、前が「悪ぃ…ちょっと苛々して」


「出来心でやりましたじゃ済まないこともあるのだよ、静雄君。僕は一瞬きれいなお花畑でセルティが手を振ってるのがだだだ!足踏むな、ごめん、とりあえず中入りなよ」



話は聞くよと言えばようやく僕の足は静雄の踵から解放された。











*





「……つまり、」



しんとしていた先ほどまでの空気が嘘のように、僕の部屋にはありえない現実が広がっていた。
まあ、静雄自体が普通じゃないから、彼に起こった異常はもはや異常と呼ばないのかもしれないが、とにかく、何故か静雄の体から電気が発生していた。


医者としては興味をそそられることであるために、罰の悪そうに目の前のソファーに座っている電気人間を眺めた。


本当にこの人間は俺の、否、医学の想像の範疇を軽くこえてくれる。
身体中が磁石になった男くらいなら聞いたことはあるが、身体中から電気が発生する男なんて初めて見た。



「昨日から急に身体中から微弱な電気が発生してると…いやでもさっき僕を卒倒させた電流はかなり強めだった気がするんだけどな。嫌いな奴には強くなるみたいな?」


「……あながち間違ってない」


「……ねえ、酷くない?」


「苛々したりキレたりすると電気も強くなるみてえだ」


「ふうん…なるほど」


ぽりぽりと頭を掻くと、静電気のせいで身体にはりついた埃を躍起になって取ろうとする静雄を見る。

頼むから埃が取れないからって苛々するなと、祈りながらゴム手袋を探しに立ち上がった。
たまたま家にあった市販のピンク色のゴム手袋を差し出せば、あからさまに嫌そうな顔をしながらも、静雄はそれを受け取って




「どうしたらいい?」


ちまちまと埃を取りながら機嫌が悪そうにそう呟く。
少し苛々しているのか時折パチ、パチと弾けるような音がした。

まったく。
どうしたらいい何て言われても、多分世界でこんな相談を受けた医者は闇医者でもいないと思うよ。


ある日突然電気人間になりました、はいどうしましょう

なんて、
だれが正解を知っていると?



「原因はいろいろ考えてみるけど…前例ないからね。あくまでも憶測になるよ?この際だから一発解剖させてくれてもなんて言いませんからどうかその溢れだす電流を抑えて机を下ろしてください」


彼の殺意を具現化したように電気は暴れだす。
面白い現象だが、こんな密室で放電されちゃたまらない。
今度こそ感電死は否めないだろう。



「…臨也が知ったらどうするかな」


「あのノミ蟲野郎、次顔合わせたら感電死させてやる」


「完全犯罪が出来上がりそうだ。やめておきなよ。話戻すけど…そうだなあ、ガソリンスタンドとか、そういうところ近付かないようにしてくれ。ガス爆発とかそんなことあったら洒落にならないからね。あとできるだけ電子機器に触らないほうがいいかもね。壊れるよ?あと…そうだな。苛々する奴に近付かないことかな。まあ、1人しかいないけど」


静雄は持ち上げていた机をがしゃんともとの場所へ下ろすと、またどかりとソファーへ腰を下ろして、怪訝そうに煙草を取り出す。


「待った待った!!ライター危ない!!なんかもう何が起こるかわからないから引火性のあるもの触らないほうがいいよ」


「…煙草吸えねえのはそれはそれで苛々するが」


「マッチとかにするといい」


「喧嘩売ってんのか?」



この場は仕方なく私が少し離れた場所でライターで火を点けると、それを静雄の口に突っ込んだ。
苛立たし気に煙を吐く静雄に、爆発して怪我したらゴム手袋つけながら手術しなきゃだよと悪態をついてみる。


そう、静雄の身体は未知数なのだ。ただの電気だと侮ることはできない。
もし静雄の怒りが頂点に達してぶちぎれるようなことがあれば周りはもちろん静雄自身にも何か悪い影響が出るかもしれない。

今はまだピリピリ程度ですんでいるが、そのうち人を即死させる程の電流が流れはじめるかもしれないし。

面白いが、危険なのだ。
とにかく、静雄はバカだから下手をすれば僕の言った注意なんてものの数分で忘れるだろう。




つまり、まあ簡単に言えば、静雄を1人にするのは危険だから保護しよう、ということで。



「静雄、流石にそのまま自由に行動されると危なっかしいから僕としてはしばらくここにいてほしいんだけど…」


「…いや、でも仕事あるし」


「でも、仕事中にキレたらどうするの?本当に感電死させちゃうかもしれないよ?いいの?」


う…と静雄は顔をしかめ、仕方なさそうにわかったと呻いた。
これで研究が捗…コホン、罪のない善良な一般市民が巻き込まれることはまずないだろう。

僕の行動が新たな被害者を出すことを防いだのだ。




「わかったから…とりあえず服とってくる」


「家まで?」


「まあ…いつ帰れるかわかんねえし。着替え」


「なんかお泊り会みたいだね。清々しいほど気分が悪いだだだだ、ごめんなさい嘘です調子にのりました」


ゴム手袋ごしに肩を掴まれて、骨が悲鳴をあげた。
あと身体が近いため皮膚がびりびりしていて、微妙に痛い。
なんかこんなの今日多いなと思いながらも、外に出るときはゴム手袋外さないほうがいいよと笑いをこらえながら言うと、んなダサい格好ができるかとアイアンクローを食らうはめになった。


先が思いやられるなあとため息をつけば、俺がな、と盛大な舌打ちが部屋に響いて、ああさっきまでのこの部屋のあの静寂はどこに消えたのだと、先刻あれほど持て余していた静寂を今や酷く求めるはめになっていたのであった。


















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