「はい?」




さらっととんでもねえこといいやがったよ、こいつ。
人のことなんだと思ってんだ?バカか?バカなのか?


「悪いんだが、もう一回言ってくれ、日々也」

「様つけろって言ってるだろー、あと敬語!俺、王子だよ?」

「ああ、すんません。で、なんだって?」

「王子に二回も言わせないでよね」




むーと頬を膨らましたって別に可愛くないんだが。
ああ、いや、可愛くないわけではないけれどその可愛さと台詞の可愛くないさが今のところ

動作<台詞

で、可愛くないが勝ってるわけだ。
仕方ないなあと俺をソファー(の背もたれ)の上から見下ろして、日々也はもう一度口を開いた。






「馬になれ」








ひっぱたいてやろうかと思ったけれどすぐにすごい勢いで泣かれるのは目に見えていたから、言葉の上でだけ「嫌だ」と短く拒絶した。


「なんでだよぉ、俺王子様なんだよ!?言うこと聞けよ、デリ雄ー」

「デリ雄いうな」

「だってデリ雄じゃん」

「だせえんだよ、デリ雄!他の奴らはみんなデリックって呼んでんだからデリ雄はやめろつねるぞ」

「ふーん、なんか無駄にかっこつけた格好しといて名前なんか気にしちゃってんのかよ」

「…ッ……マジで、殴るぞ手前」




日々也は王子だ。
といっても姿形と中身だけで、別に一国を支配しているわけではない。
俺たちを作り出した折原臨也という男が


「なんかおもしろくしたいよね☆」


という悪ふざけの一環で生まれたのが日々也だ。
外見はオリジナルの折原臨也と瓜二つ。
性格ももしかしたら若干似ているかもしれない。

とりあえず一言でいえばめんどくさい。

さっきのように唐突にわけのわからない命令をくだしてくるものだから周りからはかなり適当に扱われている。
そんな日々也はなんでだか俺によく絡むようになった。

何するんでも後ろをひっついてきて、うざいっちゃあうざいんだが、俺も別に日々也が嫌いなわけじゃないからいいかなとも思ってて。

でも今日のは、ない。
何考えてんだこいつは。
俺は行き場のないこの怒りをどこへぶつければいいんですか。


新たな1日の幕開け、開口一番に

「馬になれ」

だ?
こいつ、変だ変だとは思っていたがついに壊れたか。

イライラしていると上から足が落ちてくる。後頭部をうりうり、と爪先で押されて、くそ、ゆっくり本も読めねえのか俺は


「早くやれよー」

「人が本読んでるときに人の後頭部を蹴ってはいけませんってマスターに習わなかったのか?」

「習うわけないじゃん。しかもそれ、本は本でもエロ本でしょ?デリ雄くん最低ー」

「黙れ」

「あ、そっかそっか字読めないのかあ、可哀想ー。ばーかばーかデリ雄のばーか」

「字読めねえのは手前もだろうが!!」



振り返れば今度は額にすこーんと蹴が入る。思い切りソファーから転げ落ちればげらげら笑う王子様。
腹が立って仕方なくて、ついに日々也の組まれた足を掴んで思い切り持ち上げてやった。
そりゃあ、ソファーの背もたれの上で足も手も組んでたら頭は向こう側に落ちるってもんだ。
ばごん、とソファーの裏に日々也が後頭部を打ち付ける音がして、やっと静かになる。


おかえり、俺の平穏。


いつもこのくらい静かだと楽でいいのによ。
あ、でもそうなると息の根止めないといけなくなるのか。

それはちょっと嫌、かな




「ったく、「ぅわぁあぁああああん!!!」




鼓膜が、鼓膜が、


思わず耳を塞いで振り返ればソファーがすごい勢いで泣いて、るわけがなく、後ろに落っこちた日々也が泣いているわけだ。

くそ、泣いてても泣いてなくてもうるせえなこいつは。

こういうときの日々也に何を言っても無駄だ。
いや、無駄だ、とは、わかってるんだけど



「ひ、日々也様ー、ほら、ほらッ、この姉ちゃん超かわいい、ほら、見ろよーじゃなくて、見てくださいよー」

「わぁああああん、ひぐ、ぐす、2ページ前の子のほうがよかったぁぁあああ!!」

「あー、はいはい」




一丁前に注文つけやがってこいつ。
ただ、泣かれるとどうにも弱い。つーか鼓膜がいかれるからどんな手を使っても泣き止ませたいわけだ。
ほら、と2ページめくってそれを手渡せばおしゃぶり渡された子供のようにぐすんぐすんと鼻を鳴らしながら受け取る。
読んでるものは全然子供向けじゃないが。



「はあ……疲れる」

「ひく、で、ひくッデリ、雄ー……」

「なんだよ」

「敬語、ひく、使えよばかぁあ…ひく、悪かったって、思ってる?」

「はあ?なんで俺が………………あー………思ってる、じゃねえや、思ってますよ日々也様。だからもう泣くな」


ばふばふと頭を撫でれば、「無礼であるぞ!」なんてどこのお国のいつの時代の将軍かもわからないような言葉と共に急に元気になって

どうやら敬語と様に気をよくしたようだ。こういうとこは単純(アホ)でよかったと思う。


ぴょんと今度はソファーに座る俺の膝の上ですくっと立ち上がり、おもいっきりふんぞりかえった。



「ならば、早く馬になれい!」

「……………」

「……うわぁあ!?」

「うお!?」


ガバッと膝を開いてやったらバランスを崩してわざわざ俺の上に倒れこんできやがった。
おもくそ鼻打った。痛いんだが。
また泣かれちゃかなわないとおそるおそる顔を見れば、むすーっとまたあの顔。だから可愛くねえって。
言葉にはしなかったけれど日々也は俺の上で相変わらずそんなふうに頬を膨らませているから、なんかよく見るとおもしろい顔だなこいつと思って、膨らんだその頬を親指と人差し指でつぶしてみた。



「むう、」

「あはははは、すげえ顔」


「おふひひなひふんはよ」

「あ?なんだって?」

「むーッん、王子に何すんだよ!!」

「悪かった悪かった」



笑いながら言えば赤くなった頬を擦りながら睨み付けてくる日々也。
つーか、こいつなんで急に馬になれなんて言い始めたんだ?
確かにこいつの頭はいろんな電波を発しているが今までこんなことは一度も言われたことはなかった。馬だって本物を持ってたはずだ。
なんでわざわざ俺?


なあ、と尋ねれば、日々也は驚いたように目をまるくしてなあにと答えて



「なんで急に馬になれなんて言い始めたんだ?なんか見たのか?」

「うむ、臨也にビデオを貰って一緒に見たんだ。それだと馬みたいなのがよくなるんだって臨也が言ってたからならいいんじゃないかって思ったの」

「まて、ビデオのくだりしか理解できなかった。何のビデオ見たんだお前」

「んーなんか女が馬みたいな格好してた」

「………コスプレ?」

「臨也が愛し合ってる奴らはこうやって片方が馬みたいな格好するって「ああ、待てわかったからそれ以上言うな」

「ちなみに名前は、んーと、ぬ、……『濡れ濡れ「だあああ!!」

「なんだよぉ」

「………お前字読めなかったんじゃねえのかよ。何でそんな卑猥な言葉は読めるんだ」

「だってデリ雄がよく読んでる本にでてくる」

「……………う、まあ、そう、だな。つーかマスターは何つーもん見せてんだ……ん?あれ?日々也、さっきなんつった?」

「日々也"様"!……何って?『濡れ「違う。」




愛し合ってる奴らがなんとかって。
愛し合ってる?誰と?誰が?



「愛し合ってるって」

「俺、デリ雄のこと好きだぞ?」

「………は?」

「デリ雄も俺のこと好きだろ?だからデリ雄は馬になんなきゃダメなんだ!」



なんだあそりゃあ。

初耳なんだが。
意味わかって言ってんのかこのバ………バカは。
しかも俺が女Sideってどう考えても無理があるだろ、それに俺は男じゃなくて女が好………


「デリ雄ぉ………」

「あ?」

「……もしかして、デリ雄は、馬、やなのか?」

「いや、だから俺は」

「うん、俺も虎がよかったんだ!かっこいいじゃん!」

「…………そこじゃねえよ!!」

「……なんだよお」

「だから、馬も虎もやらねえの」

「…………デリ雄は、」

「……?」

「デリ雄は俺のことがキライなのか……?」

「へ?あ、いや、そういうわけじゃ「だから馬ができないんだな?」

「………いや、日々也…」

「そうだよな、デリ雄…ばかだし、ヘタれだし、♂だし「おいやめろ」


「………わかった、もういい」



あれ、なんだこれ。
日々也、なのか?こいつ本当に日々也か?
しかも、なんだ、なんか、日々也が、可愛い

俺は好きなんだけどななんて儚げに笑うから、



「う、わ」

「あーくそ、」

「デリ雄?」

「…………お前が馬で俺が虎なら、やってやってもいいぜ?」

「………なんかよくわからないけど偉そうなのはむかつ、むっ、う?」




なんかダメだ、もう知らねえよ。
口付ければあんだけうるさかった日々也が嘘みたいに大人しくなって、押しあてるだけで離したそれに、至近距離の日々也の顔は一気にかぁあと赤く染まった。


「俺とずっとこうしたかったのか?日々也様」

「う、ぁ、そ、そんなわけない、だろ」

「………そうなのか?」

「ん、……でも、ちょっと、なら、したかった、…………かも」




は、と鼻で笑ったわりに多分顔は笑えてない。
明日からも日々也はきっとこのまんまだけど、それでもいいかも。

明日はもう少し大人しくなるように高飛車なこの王子様を愛してみたいと思う。






――――――――――
次の日日々也はかつてないほど静かだったと言います。



俺のことキライなのか?からのくだりは大体臨也が吹き込んだものです←
そんな罠にまんまとひっかかったデリ雄

臨也「ごちそうさまでーす●REC」


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