翌日も、その翌日も、瑠衣はアルバイト終わりに涼介の部屋を訪れた。今週は授業と課題で忙しく、アルバイト先まで迎えに来る余裕がないのだという。

「赤城にもなかなか行けなくてストレスが溜まるよ。課題を後回しにしたのは自業自得だがな」
「無理しないでくださいね。私が居て、邪魔じゃないですか?」
「いや。瑠衣が居てくれた方がかえって捗るんだ。区切りのいいところまで早く終わらせようと、集中できる」

 それならばよかったと瑠衣は安堵して、涼介に缶コーヒーを渡した。その時、誰かが階段を上り、ドアを締める音が聞こえた。

「啓介ですか?」

 ドアの音の方を、瑠衣は振り返った。

「気になるのか?」
「いえ……そんなことないです」

 啓介とは電話越しに怒鳴られたきりだった。瑠衣は、彼のことは極力考えないようにしていた。涼介に指摘され自覚してしまった、啓介が好きだという気持ちをどうにかして忘れたかったのだ。

「啓介には説明した方が良かったか?瑠衣が本当に好きなのは啓介で、俺との付き合いは形だけだと」
「何度も言いましたけど、啓介のことは本当にいいんです」
「好きではない、と?」
「はい」

 そう返事をしながら、瑠衣は自分が今嘘を吐いていることに気が付いた。一度抱いてしまった特別な感情は、そう簡単に捨て去ることなどできない。

「だったら今すぐ啓介をここへ呼ぶから、話せるか?啓介が好きだったけど、今はもう諦めたと」
「そんな……涼介さん、どうしてそんなことを言うんですか?」

 瑠衣が強い口調で言った時、涼介は彼女の手首を掴んだ。

「涼介さん?」

 それは痛みを感じるほどの、とても強い力だった。抵抗する隙を与えられず、瑠衣はベッドに押し倒された。

「瑠衣は何もしなくていいと言ったが、気が変わった。お前が欲しくなった」

 女性である瑠衣が、四肢を駆使して彼女をベッドに押さえ付ける涼介から逃れられるはずがない。
 今まさに襲われようとしているにも関わらず、瑠衣は冷静だった。いつかこんな時が来るかもしれないと、心のどこかで思っていたのだ。例え「涼介の為」とはいえ、形だけの関係とはいえ、二人は付き合っているのだ。レッドサンズのリーダーである以前に一人の男である涼介が身体を求めてくるかもしれないという彼女の予想は、単なる杞憂では終わらなかった。

「大きな声を出せば、啓介に聞こえる。助けを求めるなら今だぞ」

 涼介は、瑠衣の手首を握る力をより強めた。

「もし瑠衣が今、俺に抱かれるなら、啓介のことは俺が必ず忘れさせてやる。約束する」

 瑠衣は自分がどうしたいのかわからなかった。啓介に助けを求めるべきか。はたまた涼介と寝て、啓介への想いを掻き消すべきか。もしかしたら正解など存在しないのかもしれない。どちらに転んでも、後悔が彼女を待ち受けているかもしれない。

「涼介さん……私、どうしていいかわかりません」

 その言葉を絞り出した瑠衣の唇は、涼介のものに塞がれた。触れるだけのキスだった。キスをされながら、彼女の手首は悲鳴を上げていた。きつく握り締められ、ベッドに押さえ付けられて、このままだと折れてしまいそうだと。

「瑠衣はこれから俺だけを見て、俺だけのことを考えていればいい」

 いつだって涼介の言葉は正しかった。レッドサンズのリーダーである彼には、瑠衣を含め、誰もが絶対的な信頼を寄せていた。その涼介に従うことが正しい選択なのかもしれないと、彼女は思った。
 そして、彼女は瞼を閉じた。次に落ちてきたキスは、乱暴に彼女を押さえ付けた行為からは想像がつかないほど優しく、甘く、まるで恋人同士のようなキスだった。









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