「運命で結ばれた僕ら」





降谷「理世ちゃんを協力者にする?」

諸伏「ああ。」





 確かに、彼女の観察力、推理力、知性…そのどれもが公安警察にとって有益になるだろう。しかし、彼女はまだ小学生でこんな幼い子供を協力者にした前例がない。上が何というか…





諸伏「今回のヤマはあのハッカーだ。FBIもCIAも手こずっているホシを捕まえるためには彼女の力が必要なんだ。」





 顎に手を置き、渋る様子を見せる降谷に諸伏は机に手を叩き、降谷を説得しようと口を開いた。確かに公安が抱えている事件の一つ、そして諸伏が担当している事件なのだが、有名なハッカーが日本に上陸したと情報が入ったのだ。どんなに調査しても尻尾すら出さないハッカーに上層部は痺れを切らしている。彼女の技術ならば、もしかしたら…。しかし、彼女の力を知られてしまうことになる。





降谷「これが吉と出るか、凶と出るか…」







***





 警察官になるため、警視庁警察学校へ入校した。かわいい双子に会えなくなるのは正直寂しかった。まあこんなこと柄にもないから言えはしないが、萩原は「会いたい〜会いたい〜」と鳴き声のように繰り返している。双子が5歳のころからの付き合いで、暇さえあれば幼馴染の萩原研二を連れて工藤亭に足を運んでいたのだ。警察学校は寮制度なので、「暫く会えない」ことを言うと双子は寂しがってくれた。「毎日電話する」ことを約束させられた。もしかしたら萩原と松田に彼女ができないのは双子のせいなのかもしれない。



 父親の誤認逮捕の一件により、警視総監を殴るために警察官を志した松田だったが、入校すると一癖も二癖もある奴らが一緒の教場《きょうじょう》で一緒の班になり毎日が飽きなかった。



 全科目オールAという、警察学校の歴史でも類を見ない好成績で入校したが、真面目すぎる性格と特徴的な容姿から他生徒といざこざが絶えず、松田とも出会った当初から殴り合いの喧嘩をした降谷零。
 正義感は強いが、幼少期の両親が殺害される現場を目撃したことによるトラウマを抱え続けている諸伏景光。

 降谷に続く総合力No.2と優秀で、面倒見が良くリーダーシップがあるが、警察官だった父親の辞職を引きずっている伊達航。

 そして幼馴染で親友の萩原研二を入れた5人が松田の班のメンバーだ。





降谷「2人は毎晩電話しているようだが、彼女か?」

諸伏「それ、俺も気になってたんだ。」





 食堂で朝食を食べていると、降谷が萩原と松田に聞いた。チラチラこっちを見てきたから何かようでもあるのかと思ったが、萩原と松田が毎日電話しているのが気になったらしい。確かに、大の男が2人して同じ受話器に向かって話しているのはだいぶ奇妙に映っただろう。





萩原「あー、違う違う」

降谷「どういうことだ?」

伊達「みんな噂してたぞ、束縛彼女って」

松田「ははっ、まじか」

萩原「束縛っちゃ束縛なのか?」

諸伏「ん?どういうこと?」

松田「10歳の双子なんだよ。」



「「「え」」」



伊達「犯罪か…?」

萩原「んなわけないでしょ!!!」





 10歳の子供という言葉を聞いた瞬間、場が凍りついた。萩原は双子のことを説明し始めた。この話を聞くと3人は安堵の息を吐いた。ペドに見えんのかと、松田はじとりと降谷たちを睨んだ。





諸伏「どんなことを話すんだ?俺、兄弟は兄さんしかいないから妹とか弟が欲しかったんだ。」

萩原「俺も姉貴しかいないから、それはもうめちゃくちゃ可愛くてさあ!」

松田「だいたい推理小説の話とか…事件に巻き込まれてないかとかだな。」





 松田の言葉に降谷たちは首を傾げる。





松田「あー 双子の妹の方がな不審者ホイホイなんだよ」

諸伏「そんなゴリホイホイみたいに…」

萩原「それがすげーんだよ。家から一歩出ればストーカーに遭い、街を歩けば誘拐され、店に入ると人質になる。」

降谷「なんだそれは」

松田「言っとくけどこれマジだからな!!」

伊達「まじか…」

諸伏「(なんか覚えがあるような…)」





 松田たちが出会ったときでされ拐われている途中だったし、双子と一緒にいるにつれ、彼らの事件遭遇率は半端ではない。幼稚園では幼稚園の先生による誘拐未遂、理世の1ヶ月もの行方不明事件、茨城の海では強盗犯に遭遇し、ショッピングモールに行くと殺人事件に出会した。何か憑いているのかというレベルで事件に巻き込まれるので、4人でお祓いに行ったぐらいだ。効き目はなかった(新一がその日のうちに殺人事件に遭遇した)。双子と電話するときはまず最初に「変なやつに合わなかったか」と聞くようにしているぐらいだ。





萩原「だから俺たちは心配してるのよ」

諸伏「じゃあ最近も?」

松田「あー、なんか変なこと言ってたな」

降谷「変?」

松田「"郵便受けが開閉されていた痕跡がある"ってな」

伊達「それってストーカーってことか?」





 なんでもその郵便受けが開閉されていることに気づいたのは一週間前のことらしい。最初はタチの悪いいたずらか、両親のファンの仕業かと思われたが、同級生に「理世のことを聞かれた」という証言により、理世が目当てだというのがわかった。どうやら玄関や窓で聞き耳を立てているらしく、指紋はないにしろ耳の跡が残っていたそうだ。知り合いの刑事に相談したが、他の事件で忙しかったらしく、未だ実害がないため後回しになったそうだ。





降谷「なるほど…」

伊達「ご両親はなんて?」

萩原「決定的な証拠もなければ犯人の目星もないみたいで今は様子見してるらしいんだ。」

松田「毎日学校と習い事までの送迎をしてもらって、休日は一歩も外に出てないって言ってたな。」

諸伏「なんか可哀想だね。」





 諸伏の言葉はもっともだと松田は思った。松田が理世の歳のときは、萩原と一緒に外を駆けずり回っていた。萩原の父親の工場に遊びに行って分解したり、公園に行って鬼ごっこやかくれんぼ…子供のうちにできることはなんでもやったと思う。それを理世はできていないのだ。自由に遊ぶことも、友達との登下校も。元々インドア派だとしても窮屈に思っているのではないだろうか。聡明ゆえに忙しい両親に申し訳なさを感じているかもしれない。





萩原「次の休日、その子とごはん行くんだ〜。もっと詳しく話聞きたいし、顔も見たいし、少しでも気を紛らわせることができればなって思ってね。」

降谷「もしかしたらそのストーカー…そこまでついてくるかもな。」

松田「それはあるな…」

諸伏「それ俺もついていっていいか?」

萩原「へえ…諸伏ちゃんが珍しいねぇ」

松田「でもあいつ人見知りだからなぁ」

萩原「まあ諸伏ちゃんだったら大丈夫じゃない?」

降谷「どうしたんだヒロ。いきなりそんなこと言うなんて、」

諸伏「なんだか気になっちゃって…」





 諸伏が幼い頃に両親を殺害した犯人を少し前に松田たちは捕まえていた。諸伏は顔を青ざめ顰めている。犯人の娘のことを思い出したのだろうか。





萩原「じゃあみんなも来る?」

松田「萩」

萩原「じんぺーちゃん、理世ちゃんなら大丈夫だよ。」





 なんたって、警察官を目指している俺たちの友人なんだからと自信満々に笑った。萩原と松田の友達で、しかも警察官になりたくて警察学校に在籍しているなら、理世は大丈夫だろうか。いつか降谷たちを会わせようと思っていたし、良い機会なのかもしれない。





 降谷と伊達は顔を見合わせると、行かせてもらうよと笑った。







***



降谷「それで松田はどこ行ったんだ?」

萩原「理世ちゃんを迎えに行ったよ。もう来ると思うけど…」





 約束の日になった。

 諸伏景光は、降谷零、伊達航、萩原研二、松田陣平とレストランに来ていた。松田たちがいう"理世ちゃん"は母親に車で送ってもらったらしく、松田が近くまで迎えに行っている。





松田「わりぃ、待たせたな。」

萩原「理世ちゃーん





 松田に抱っこされてその子は現れた。松田の首筋に顔を埋めていて顔は見えないが、栗色の長い髪が揺れている。萩原は、松田たちの姿を見ると走り出した。萩原の声に少女は顔をあげる。目がくりくりとしていてキラキラ輝いていた。可愛らしい顔をしていて、この顔なら確かに不審者に遭うかもしれないと思ってしまった。しかし、なんだか見覚えがある。

 少女は萩原を見ると会えたことが嬉しかったようで、笑顔で手を伸ばした。萩原はそのまま少女を松田の腕から抱き上げ、くるりと一回転して抱き締める。少女は諸伏たちに気づくとまた萩原の首筋に顔を埋めた。





松田「悪りぃな。人見知りなんだ。」

降谷「いいや、気にしないでくれ。こんなに大きい成人男性が一気に現れたら怖いよな…特に班長はね。」

伊達「悪かったな。イカつい男で…」

萩原「大丈夫だよ理世ちゃん。みんな優しい奴だから





 「挨拶できる?」との萩原の声に、『工藤理世、10歳だ。』とかわいい声で言った。



 その瞬間、諸伏の頭の中で数年前の記憶が呼び起こされる。





降谷「工藤理世…?」

諸伏「たしか、何年か前に…」

『ヒロにいだあ!』

松田「お前ら知り合いだったのか!?」









 萩原が予約してくれていたのはイタリアンレストランだった。チェーン店だが雰囲気と美味しさでとても人気なお店だ。イタリアンテイストの内装はとてもおしゃれで、落ち着く雰囲気が出ている。好きな席に座って良いということで、理世ちゃんは窓際の席を選んだ。レジカウンターにあったポスターを理世ちゃんは見つめいていたが、すぐに席に向かって歩き出した。理世ちゃんを真ん中にして松田と萩原が座り、向かい側に諸伏と降谷、伊達の順で座る。





松田「それで、理世とヒロの旦那はどこで会ったんだ?」





 松田は肘をつきじとりと睨んでくる。あれ、なんで睨まれるんだ?諸伏は訳がわからなかったが、数年前の記憶を辿るようにしてぽつりぽつりと反し始めた。



 諸伏が高校生のときだった。親友である降谷零とショッピングモールに買い物に来ていた。なかなか大きなショッピングモールで2時間に一度は迷子を探すアナウンスが鳴るくらいだ。歩いていたら少女がキョロキョロと辺りを見回していた。迷子かなとゼロと話していると、少女の後ろを変な男がついて歩いていることに気がついた。不審に思っていると、その男が少女の手を掴み連れ去ろうとするではないか。ゼロがすぐさま走っていき、その男をぶん殴った。諸伏は少女を保護し、すぐに警察を呼んだのだ。ゼロは警察に誘拐犯の引き渡しと事情を説明していたため、理世ちゃんと直接話をしていなかった。





萩原「それで、一緒にいた諸伏ちゃんの名前を理世ちゃんは知っていたのに、降谷ちゃんのことを知らなかったのか。」

降谷「そういえば名乗っていなかったな。改めまして降谷零です。」

『あのときはありがとうございました。おかげで今も生きています。工藤理世です。』

伊達「…本当に10歳か?伊達航だ。よろしくな。」

松田「電話で話しただろ?こいつがはんちょーだ。」

『なるほど、いつもじんぺーさんとけんじさんがお世話になっています。』

伊達「おい!この子本当に10歳か!?」

萩原「俺もたまに同い年と喋ってるかって思うときがあるよ





 ぽりぽりと頬をかく萩原。確かに大人びた子だ。諸伏は理世を見つめる。確か、あの時も「腕掴まれて怖かったよな、もう大丈夫だよ。」と声をかけたら『よくあるし、慣れてるから大丈夫だ。』と言われた。駆けつけた警察とも知り合いだったようだし、事件に巻き込まれすぎて警察と顔馴染みになったのだろうか。彼女の大人びた性格も、事件に巻き込まれてのことだったら…。諸伏の人一倍でかい正義感と良心が揺さぶられる。グッと胸を抑えると、ゼロに心配された。



 メニューを広げて食事を選ぶ。松田と萩原は理世ちゃんが食べたいものがわかるようで、指を差していた。どうやらその料理にするようだ。



 注文し終わると、カランカランと店のドアが開く音がする。理世の目が細まる。その視線の先を見るために振り向くと一人の男がキョロキョロと周りを見回していた。レジカウンターを見ると体をびくつかせている。何かに驚いたのか?男は店員に話しかけられると座る席を探し始めた。ばちりと目が合う。男は急いで視線を逸らし、諸伏たちの向かい側の入り口近くに座った。



 諸伏は視線を戻すと、理世はなんだか謎が解けたように口角を上げ、自信満々な顔をした。





『警察に電話しろ。』

伊達「え?」





 尊大かつ老成した男性のような口調は、まるで等身大の人形のような外見と全くあってはいなかった。伊達が反射的に声を出した。少し声が大きかったようで、理世は『しっ、』と人差し指を口に当てる。すぐに松田が「どうした?」と反応する。5人の視線は理世に集中した。





『あまり気取られるな。あいつが逃げるだろ。』





 その言葉に沈黙が流れる。

 諸伏は目をぱちくりさせた。隣の降谷も伊達も同じ様子だったが、萩原と松田はすぐに理解したようだった。萩原はすぐに携帯電話を取り出し、警察に電話し始めた。





降谷「待ってくれ、どういうことだ?」

『彼は、指名手配されている人間だ。』

諸伏「え?」

松田「まて理世、なんでわかったんだ。」



『彼は高橋芳彦、42歳。女児誘拐事件の指名手配犯だ。顔は整形しているが、耳の形までは変えていなかったようだな。耳の形は耳紋と言って、指紋と同じく誰一人として同じ形をした人間はいない。彼がヒロにいと目があい、逸らした時に耳が見えたんだよ。』





 理世は諸伏たちが唖然とするのを物ともせず、口を止めない。





『それに、辺りを警戒しながら店に入り、レジカウンターに貼ってあるポスターを見て反応した。2分おきに辺りを見回すのは彼が追われている身だからと考えるのが妥当だろう。ポスターを見て反応したのは、自分が載っている指名手配のポスターだったからだ。』

諸伏「それであんなに驚いてたのか。」

降谷「それで萩原、警察は?」





−−−ガタッ





松田「逃げるぞ!!」





 警察という降谷の声に、男は逃走しようと席を立った。男の行動を見ていた松田が声をあらげ走り出す。それを追い、椅子を飛び越え降谷と伊達が走り出す。松田のボクシングで鍛えたパンチを喰らい男は倒れた。









諸伏「君は一体何者なんだ…」





 自分より12歳も年下の少女が一人の指名手配犯を特定した。観察力、推理力、そして知識がどれも小学4年生だとは思えなかった。松田たちが男を捕まえるところを見守っていた理世。思わず聞いてしまった諸伏に、理世は得意げに笑った。







『ただの小学生だよ。』







 その言葉に諸伏は何度か瞬きをすると、思わず笑ってしまった。







***



 警察学校で同じ班になり仲良くなった萩原研二と松田陣平が毎日電話している相手である少女と会うため、降谷は諸伏景光と伊達航を入れた5人で食事に行くことになった。松田に抱っこされて現れた少女は、降谷が高校生のときに諸伏と一緒に助けた少女だった。少女は諸伏のことを覚えてはいなかった。まあ、あの時降谷は不審者を捕まえていたために話すことができなかったのだが…。



 少女は萩原と松田の間にちょこんと座っている。とても仲がいいとすぐにわかった。萩原が人当たりがいいのは知っていたため子供とも持ち前のコミュ力で仲良くなれそうだなとは思っていたが、傍若無人で入校初日に殴りかかってきた松田が少女の前であんな優しい表情をするのには驚いた。ぶっきらぼうな口調はなりを潜めている。



 なんだか12歳も歳が離れているとは思えなかった。

 礼儀正しいのはあるが、言動は大人のようだった。お礼をいうときの所作や、言葉遣いは10歳が使う言葉ではない。そんな違和感を諸伏と伊達も感じていたようで、いつもより少し調子が狂っているようだ。




 少女は、降谷たちが料理を注文し終わってから入ってきた男が何分か観察すると自信有り気に笑った。まるで謎が解けたようにすっきりとした顔だった。



 警察を呼べという言葉に、少し狼狽えた。萩原と松田は違うようで、萩原はすぐに携帯電話を取り出した。松田は少女に耳を傾けていた。その姿に強い信頼関係が見えた気がした。



 降谷の警察という言葉を聞かれてしまい、男が逃走しようとしていた。松田に続いてレストランの椅子を飛び越える。松田のパンチが男にもろに入る。入校してすぐに松田と殴り合いの喧嘩をしたが、あいつのパンチの威力は凄かった。父親がボクサーで幼い頃からボクシングジムに通っていただけはある。伸びている男に客や店員が驚いていたので、伊達が事情を説明する。萩原の通報により、すぐに警察が到着し男は逮捕された。



 ドリンクバーに飲み物を取りに行こうとする松田に続き、席を離れる。席に座ったままの少女をちらりと見て、松田に視線をやった。





降谷「あの子は何者なんだ?とてもじゃないが小学生とは思えない。」

松田「あー、あいつの親父から聞いたんだがギフテッドっつーやつらしい。」





 ギフテッド。一般的な人間と比較して先天的に顕著に高い知能生、精神性、共感的理解、洞察力、独創性、優れた記憶力を持つ人間を指す。アメリカ教育省は1993年に、「同世代の子供と比較して、突出した知性と精神性を兼ね備えた子供である。」と定義している。日本の文部科学省はギフテッドとは言わず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」と定義している。そのギフテッドは、目立つことを避けようと故意乃至無意識的に怠け者、優秀でない者、天然な性格を演じることで社会に溶け込もうとする傾向があるとわかっている。





松田「双子の兄も子供にしては頭が良いんだけどな。理世は異質なんだと。日本は異質を嫌う人間性だから、海外で教育を受けようって話も出たらしいんだが、あいつ頑なに日本に住むって首を縦に振らないって愚痴られたぜ。」





 多民族で構成され、さまざま価値観と触れ合う欧米諸国と違い、ほぼ単一の民族で構成され、比較的同質的な集団の中で育っていく日本では、思考や価値観が似たものとなり、そこから外れた異質な存在を排除する傾向にあるとされる。降谷も幼少期に容姿から虐められ、喧嘩による生傷が絶えなかった。彼女は日本人であるに関わらず、その頭脳により排除されることを両親は危惧したのだろう。



 それにしてもなぜ、少女は日本に住みたかったんだ。アメリカだったら飛び級の精度もあるし、実力主義だから彼女にとっては生きやすい国だったのではないだろうか。







 男が捕まり、事情聴取はまた後日となった。駆けつけた警察は少女の知り合いだったようで、「今日は指名手配犯か…」とボヤかれていた。警察官とも知り合いができるほど事件に巻き込まれているのか。萩原たちが言っていたのは本当だったようだ。





諸伏「お手柄だったね、理世ちゃん。」

『いや、捕まえたのはじんぺーさんたちだし、あなたたちがいなかったら、未だに付き纏われていただろうし…。』

降谷「え…じゃあ、電話で言っていたストーカーって」

『ああ、あの男だろうな。』





 そう断定する理世に降谷と諸伏は空いた口が塞がらなかった。理世は一枚の写真を取り出した。その写真にはドアや窓に耳の跡が写っており、知り合いの警察官に鑑識を頼み、証拠を現像してもらったらしい。

 彼女はストーカーがここまでついてくることを見越していたのだろうか。入店してきた男が指名手配犯で、しかもそれが自分の家に残した耳紋を証拠にストーカーをしていた男だと解ったからあの時笑っていたのだろう。ひとつの問題を解けたようにすっきりした顔をして。





『あの男が入店したとき、どこかで見た気はしたがまさか指名手配犯だとはな。今度皮膚や血液データから誰だか突き止めることができるプログラムでも作ってみようかな…』

諸伏「え?」

降谷「まさか、君はその歳でプログラミングしてるのか!?」

『父に習ったんだ。今はどんなウイルスでも有能なハッカーでも弾き出すプログラムを作ってるんだ。まだ取り組んだばかりだから、完成までもう少しまでかかりそうなんだが…』





 ぶつぶつと『やっぱり自動走行の監視カメラ欲しいな』とかこうした方がいいかも知れないと思考を巡らす姿に諸伏は感嘆の声を漏らす。





諸伏「本当にすごいんだな、君は。」

『え?』

諸伏「10歳でそんな研究までしているなんて、俺が君の歳ぐらいはゼロと外で遊び回っていたよ。」





 両親が亡くなり、東都に住んでいる親戚の家に引き取られた諸伏。事件のショックで失声症になり、転校しても馴染めなかった、降谷との出会いで失声症も治り、事件のトラウマはありつつも楽しい幼少期を送った。





『こんな子供でも素直に認められるヒロにいの優しさも素直さもすごいと思うけどね。』

諸伏「え」

『私はただの趣味だよ。』





 そう笑うと、理世は萩原と松田のところへ駆けていった。萩原が理世を抱き上げる。楽しそうに笑う3人を見つめる。食事が終わり店を出た、降谷たちはまた警察学校に戻らなきゃいけない。また暫く会えないのを惜しむかのように笑い合っていた。





降谷「もしかしたら、理世ちゃんが日本に残ったのは…」

諸伏「え?」







萩原「おーい、降谷ちゃん、諸伏ちゃん!写真撮ろうぜ〜!」





 降谷の言葉は萩原によって続くことはなかった。警察学校に入校してから、首に縄が絡まり宙吊りになった教官を拳銃を使って助けたり、コンビニ強盗を捕まえたり、バンパーが引っかかった車を引き摺りながら暴走するトラックを止めたり、諸伏の両親を殺害した犯人を捕まえたりしたが、まさか指名手配犯まで捕まえることになるとは思わなかった。





 楽しそうに笑い合う5人に、この時間がいつまでも続くことを願わずにはいられなかった。





 まさかこの少女が諸伏の協力者になるとは降谷は夢にも思っていなかった。



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