カミングアウトは突然に 1

僕は今日、ようやく待ちに待った18歳になった。
この日をどんなに待ち侘びたことか。
これで堂々と借りに行ける。

「よしっ」

覚悟を決めて自転車に乗る。
口から吐き出す吐息は白く、今日が今年一番の冷え込みだということを実感させてくれた。


本当のことを言うと、借りに行こうと決めるにも相当の覚悟がいった。
レンタルするにしても、店員さんに顔を見られるのが堪らなく恥ずかしいからだ。

だからと言って、家に宅配される形式のネットレンタルや通販は利用出来そうにない。
中身は何かと母さんやお兄ちゃんに聞かれたら、ごまかし切れる自信が僕にはないからだ。
だから、直接、店に行くことにしたのだ。


近所のレンタルショップを通りすぎ、一路、隣町まで自転車を走らせる。
隣町でも同級生に出くわす危険性があるけど、町内にあるレンタルショップよりは幾分かマシだ。

僕が借りようとしてるもの。
それは18歳以上じゃなくちゃ借りられなくて、しかも、かなりマニアックというか、特殊な嗜好の持ち主向けのものだ。

「はあっ…やっと着いた」

頭に積もった降り出した雪を掃い、自転車を駐車場脇の駐輪スペースに置いた。



ドキドキうるさい胸を抑えつつ、目的のコーナーを探す。
いつも利用してる近所の店と同じ系列だけど、やっぱり陳列場所はいつもの店とは違っていた。

「こっちかな…」

なんとか年齢制限のあるコーナーは見つけた。
その中でも、少々特殊な性癖を持つ人向けのDVDビデオ作品を探す。

「わあ…」

初めて足を踏み入れたそこは、思ったよりも多くの作品が陳列されていた。



さっきよりうるさい胸の鼓動。
初めてはどれにしようか迷う。
これを借りるには写真付きで年齢がわかるものが必要だから、僕は18歳になるまで待った。

「どれにしようかな……」

ネットも律儀に年齢制限を守ってたから、どんな作品があるのか全く知らない。

「やっぱ年齢差があるのがいいかな」

僕は、主人公が高校生の設定で先生と絡むものを選んで、ドキドキしながらレジに向かった。


「えっと…岩佐知春くん?」

幸い、レジにいた店員さんは男の人だった。
幸い、でもないのかな。
僕が借りた一枚は、普通の男の人には理解出来ない世界のものだから。

恥ずかしすぎて顔を上げられない。
俯いたまま、処理が終わるのを待つ。

「その、ごめんね?18歳以上でも高校生には貸し出し出来ない決まりになってるんだ」

そう言われて、僕は真っ赤になりながら、差し出した生徒手帳を奪って店を出た。


Bkm
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