白い箱庭/ヴァン×瀬莉





やわらかく月の灯りが降る夜だ。夜は嫌いじゃない。全てを、傷を隠して尚やさしい。誘われるようにして洗って伏せてあったビーカーに適当に酒を注いで窓際に座った。そろそろやってくる頃だろう。ぺたぺたと廊下を歩く音さえ聞こえてくるようだ。

「…やぁ、また来たの?」
「…別に。暇なだけだ」

ところが片方の世界にだけ足をつっこんでどうにもこうにも抜け出せないこの子はそうとは思わないらしい。一緒にどう?甘ったるい液体を勧めるも得られるのはいつもどおりのぶっきらぼうな答えだけ。それを腹立たしいと形容すればそれは嘘だ。それは液体のように甘くこの体を這う。形容するとすればそれは、ーー焦れったい、彼の言葉も嘘も態度も全て焦れったくて、ボクは噛み付くように彼の眼帯をむしり取って固くて白いコンクリートの床に押し倒した。彼が発する恐怖が床に散乱する。恐怖?ああいけません恐怖というものは恐怖というものは恐怖というものはボクを甘く溶かしてしまう月の光が奇麗だ月のようにやわらかく薄く輝く彼の右目が細められてああ恐怖がばら撒かれて

「…ねぇ瀬莉くん」
「…バ、ン」
「瀬莉くん、誰が君のことを生かしてるんだと思う?ねぇ、ねえ瀬莉くん、」

やわらかく窓から降る月明かりが彼の喉の白さを助長するように輝いた。恐怖を拡散させたまま逃れようとする彼のそれは白く、思わずそれを手で塞ぐ。びくり、彼が硬直するのが掌から伝わってますますおもしろくなった。

「…息、できないね」

にこり微笑むと信じられないといった表情で彼が強ばる。酸欠に陥りかける思考は未だにぼんやりながらも活動を続けているようで、とても邪魔だと思った。指に力を込める。外頸動脈を、やさしくころす。

「ねぇ?殺してあげるよ?このままちゃんと眠らせてあげるよ?」


ボクの言葉はこの白い箱にしんしんと積もった。緩やかに彼が抵抗する音が耳の外側でした。何一つ現実味のないこの箱庭にそれだけが。薬で楽になんて殺してあげない。この手で優しく酸素を絞りだして殺してあげる。ねぇ?ーーー…ボクの体の下で彼が静かにパニック状態に陥っていくのが視神経の外側で見えた。喘息持ちのこの子は酸素が取り込めないことに怯えているらしい。まったくかわいらしい、この子は静かに落ちた。



眠っているのかいないのか、彼の首から手を離してほほえみかける。月明かりが彼の黒くて奇麗な髪に落ちていた。夜は嫌いじゃない。汚れを隠して尚やさしい。

ある小さな白い箱庭に1人の哀しい殺人鬼と1人のやさしい心層の殺人犯がいたはなし(或いは境界線、鬼とヒトのゆるやかでやわらかい朝が2人という虚空に無慈悲に幕を引く)





やぁ、おはよう、瀬莉くん、穏やかな朝です。冷たい床が心地いいのはわかるけどいつまでも寝ていたら風邪を引くんじゃないかなぁ。ねぇ。
(彼は美しい。だけどそれは彼が彼の弟だからという理由からだけではない。)




彼が小さく呻く。


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20090802







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