デイパス/新城馨+新城葵




なんだかなあ、と、薬を大量に服薬してぐーすか眠っている新城さんを横目で見ながらぼんやり思う。

「新城さん、新城さん」「…あは、」

ていうか普通さあ、あ、ここでいう普通は馨の世界での"普通"なんだけれど。でも、普通、仮にも弟とはいえ信頼のおけない人間の前で、何が入ってるかもわからない味の濃いコーヒーなんか飲む? という問題なのである。いつもの司令の片腕気取って澄ました顔をした新城さんを思い出してそこはかとない高揚感。くすくす笑うと笑い声と新城さんの寝息だけが無駄に静かで広いだけの部屋に霧散した。
思えば新城さんは、残念な人なのだ。
何が残念ってもうそれは生い立ちに遡るもので、まず母さんに愛されてない時点でどうして生まれてきたの? 状態だし、その上母さんの愛を拒み始めたところで馨は新城さんを理解しようとすることをやめた。まあ最初から理解する気なんかさらさらなかったけど。最後には新城さんのことおもちゃみたいにして母さんと馨は仲良く遊んだっけ。あのぐだぐだに汚れた汚い顔は今でも忘れられないくらい愉快。どんまい、新城さん!で、今に至ってもなおその勘違いと慢心と枯れきった偶像崇拝は行き場をなくしてこんな狭い軍という個体のなかでぐるぐるぐるぐるぐるぐる。最後には実の弟に睡眠薬盛られて床に転がされて床と仲良し。というわけなのである。
おかしなおかしな兄の半生。


「かわいそうだねえ。」


いつも目深にかぶってる帽子をそっと取ったら黒い髪がさらりと揺れた。母さんと馨を裏切る黒。馨が好きな色は馨の髪と同じ真っ白であってこんな黒は好きじゃない。別に好きになる理由もなくて、目覚める気配すらみせずにこんこんと眠り続ける彼を眺める。無意味に似た顔にゆるい吐き気。


「新城さん、新城さん」

いっそ眠ったままならしあわせなんじゃないの?顔だけは母さんと馨に似てまあ綺麗な方に分類される。目蓋を閉じてりゃ嫌味ったらしく光る瞳も見えやしない。うん、残念。昔も今も、それこそおもちゃみたいだなあと思って一人で笑ったらやっぱりそれは乾いた音を立てて彼のとなりに転がった。

「あいしていますよ、」

あなたも母さんも、過去も後悔も罪も甘いキャンディも全部全部。


「なんて、ね」


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20130510










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