脳融解/デイライト→瀬莉


この円の外にね、出ちゃだめだよ、瀬莉。人も銃も食ってしまう、怖い熊がいるからね。


虚ろな目をして今日も今日とて呟いた。声の発信源は俺じゃない。

「…デイライト、」
「なあに、」
「…俺、仕事」
「じゃあこの円を動かさなきゃね」

答えはもう分かってる。

「だめだ、無理みたい。だってほら、熊が狙ってるんだよ、瀬莉。出ちゃだめだよ、殺されるよ」

そういってもうひとつ積み上げた。青はさ、黄色を殺すただひとつの色なんだよ、瀬莉。そう歌うように呟きながらまっさおなブロックひとつ。(おめでとう)


「瀬莉、瀬莉」
「…」


どこにいるの?くすくす笑う声はどこまでも愉しげだ。黙って煙草の煙を吐き出すと、うず高く(と、言っても彼の背の届く高さだが)積み上げられた塀にそれは反射して霧散した。ブロックがかたり、鳴る。



デイライトがおかしくなってから、ゆうに1ヶ月が過ぎようとしていた。あの日、目が覚めたデイライトは枕元にまず俺を呼んだ。
――ああよかった 、まだ青色のままだね。  そう云ってにこりと微笑まれた。気がする。そしてそのままなし崩しだ。天井の高い部屋に、なにかから隠れるようにして壁を作った。円のつもりの、醜く歪んだ正方形。デイライトが欲するブロックは毎日、誰かしら暇なやつが持ってきた。赤、青、黄色、白。どのはなみてもきれいだな、とはよく言ったものだ。薄暗い部屋にそれらは美しく映えた。

「青はさ、黄色を殺せる色なんだよ」
「………」
「だからさ、瀬莉が青いのはきっと、」
「…………」
「きっとブロックの熊が黄色で瀬莉、お腹空いたらこの円の外に黄色、」


えへらえへらと虚ろな目の笑顔に嫌気がさして立ち上がった。そっと、色とりどりの、彼は青一色だと思い込んでいる壁に手をつく。

「狙った青は円で瀬莉、熊の青で壁に殺す、」
「……………」
「瀬莉、せり、せり」


組み立てもしない、ただ積み上げただけの壁はいとも簡単に崩れる。その音に驚いたデイライトの内側が、背後の壁にぺたりと座り込んだまま壁と一緒に崩れていくのが分かった。がらがらがらと、それは熊の咆哮に聞こえる。


「みえないくせに」



死んだように倒れた彼を振りかえってひとつ呟いた。デイライトの目はあの日から閉ざされたままだ。
熊はきっと彼自身だったのだ。






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20110819







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