極彩色の夢を吐く/デイライト+瀬莉
がたん、と車内が揺れて気が付いた。
バス停がみえる。
おとうさんとおかあさんが手を振っているのがみえる。結末はいつも一緒だ。あと8秒後、このバスは馬鹿げた自爆テロによって爆発をおこす。(丁度あの日とおなじように)
ぼくはなにもかも全て諦めたように降りもせずそこに立ち尽くした。
―――夢の中とはいえ、おとうさんとおかあさんにあんな思いをさせるのは辛いなぁ。
そう、これは夢だ。
視界が赤と黒とオレンジで染まる。
さよなら、ぼく。おとうさん。おかあさん。
暗転。以下暗闇。
ぱちり。
「…イト、デイライト!!」
「はっ!!!」
「『はっ!!』じゃねえよ何回起こしたと思ってんだ」
「うお、ごめん瀬莉」
窓から差し込む狂暴な光に朝だという信号が脳髄を滑り落ちて身体に染み渡る。瀬莉のマグカップから香る珈琲豆が鼻腔を擽った。朝。何もかもが昨日からリセットされて、朝。
「デイライト?」
窓の外をシーツにくるまったままぽかんと眺めていたら、瀬莉が怪訝そうな顔でオレを見下ろしていた。いつの間にか近くに来ていたことに驚いていると瀬莉の冷たい手が額にあてられる。
「…なんとかは風邪ひかねぇと思ったんだけどな」
「瀬莉さん瀬莉さん、悪いけどオレ通常運転ですから」
「いつもより更におかしいと思ったんだよ」
瀬莉の手が離れていったことをいいことに、オレはもぞもぞとベッド上に起き上がった。朝。オレ。瀬莉。うん、何もかもが清浄で正常に回っている。大丈夫。オレはデイライトだし、瀬莉のあの右目はきちんと眼帯に覆われている。きちんとオレはここにいるし、あのこはちゃんと夢の中にいる。大丈夫、…大丈夫。
「瀬莉、」
「あ?つーかてめぇさっさと着替え…「オレ、きちんとここにいるよな?」
「…?デイライト?」
「ごめん、何でもない」
(…あぁ、)ゆるりと不安げに瀬莉の瞳が揺れた。彼の吐き出す紫煙も彼の感情を反映するように揺れる。(またやってしまった、)
ごめん、もう一度呟いたらまるで早くなった息を落ち着けるみたいな動きで気だるげに瀬莉がため息を吐いた。朝の光にそれはやわらかく金色にゆらいだ。ぼんやりとした頭でただ綺麗だと思った。
「瀬莉、」
「…んだよ」
「ごめんな、ありがとう」
苛立った口調に反するようにくしゃりと顔を歪めて瀬莉が俯く。デイライト、と、小さく紡がれたオレの名前にもう一度だけここが夢ではないことを確認する。大丈夫、オレも瀬莉も、ちゃんと、
「瀬莉、」
ここにいるオレの存在を夢じゃないこっちに証明してくれてありがとう。なんて。
「…馬鹿」
「はは、ひど!!」
極彩色の夢を吐く
BGM:keep me keep me keep me
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20100802