致死量以内の猛毒/瀬莉+シオン





灼けるような痛みを右目に感じて、思わずうずくまりたくなる衝動と一緒に右目を押さえた。月の無い生温い夜は、まるで血に浸かっているようで傷が疼く。思い出せないことを、大切なことを思い出せないことを嘲笑うかのように頭も痛む。なぜか。

「…瀬莉」
「………」
「瀬莉?」
「………」

シオンが不審そうに何か言っている。応え、なければ。足を引っ張る前に、早く。

「……っあ、」

耐えきれずに膝をついた、見上げたシオンは返り血か否か、その電灯に映し出される白い頬が赤い血に濡れていて、


「………あ、が」
「…瀬莉、」

差し出された手も、濡れていて、













おれがついていながらというどこかでかかえたことのあるかんじょうをおもいだす
(いつ)(誰に)(どうして、そんな)



(この感情は俺のものか)
俺は、どうして覚えていなくて、










(ああああ奇妙にフラッシュバックする光景赤赤赤赤赤赤赤肉片と声と暗闇と赤赤赤赤赤赤赤鉄の匂いと両眼とコンクリートとそれからそれからそれからそれからそれから、)


風の無い、月の無い、何も無い、俺の右目も、
(在るのか無いのか)(無いのか有るのか)



「……瀬、」


彼女が俺の名前を呼ぶ瞬間、意識が遠のくのが分かった。
心のもっともっと奥のほう、肋骨の一番したが熱くなって迫り上がってくる。
シオンがインカムに向かって何やら早口で、(しかし声には恐ろしい程熱がない)喋っているのが聞こえた。


「…瀬莉、しっかりして下さい」
「………っ、」
「……」
「あ、 が、はっ」
「……瀬莉」


迫り上がった熱っぽい液体を飲み下せるはずも無くて、冷たいコンクリートに消化しきれなかった昼飯や昼飯や珈琲なんかが広がっていってああ汚い、広がっていくこの液体は俺と同じでああなんて無力だ、と、思わず異臭のする液体に顔を思い切りしかめる。
任務はちゃんと終わったのに、と言う意識が頭を掠めて、そして綺麗にフェードアウトするのと同時に俺の意識もぱちんと落ちた。




「……本当に、世話の焼ける」







そしてまた夢を見る
(今は未だ夢で終わらせて)
(そしていつか、いつか)


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20090326







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