かくしごと/瀬莉+デイライト


本編沿い
瀬莉とデイライト視点の話


***




時々思うんだ。あの夢は本当にあった出来事なんじゃないかって。
毎晩毎晩同じ夢。景色。声。そして同じ誰か。
まるで出来の悪い映画でも見ているような、同じチャプターを繰り返し繰り返し。
その夢にうなされているのは確かでも誰かに相談する気も特にない。

その日常の非日常なシーンが、そう本当に存在した出来事なんじゃないかと。
(思ってはみるんだけど、それだけだ。)
それだけというのも、そんな記憶は俺には存在しないからだ。ない物をあると言ったらそれは俺が妄想癖があるおかしい人間だということになる。
夢だと解釈した上で気になるのは俺の目の前で頭が弾けた女と、俺の銃は何故その女を撃ったのか、だ。
前にじっと考えていたら煙草を4箱消費してしまっていたので今回は深く考えないでおこうと思う。

「なあ、覚えてるか」
「なにを?」

唐突に中身のない質問をされたデイライトは間の抜けた声を出して読んでいた日本語の絵本を閉じた。

「俺が目ぇ怪我した時の事、」
「あ、ああうんあの時ね」
「俺が目ぇ覚ました時に面白え顔してたろ、お前」
「ええーどんな?」
「殺される前みたいな」
「…瀬莉が心配だっただけだよ」

ふうんと適当に返すとデイライトは笑いながら俺が入れたジュースを飲みほした。
俺はもう一つ気になっていたことをついでに訊いてみることを心中で決定し、珈琲を一口飲んだ。

「あの日の朝方によ、お前全治1ヶ月の怪我してたのに大掃除っつーか模様替えしてたよな、自分の部屋。」
「ああ、あれ?ずっと寝てるのも勿体無いなーと思って」
「お前がまさかピンクの歯ブラシ使ってたなんてさ、笑っちまったぜ」
「…一時期可愛いものにこっててさ。あーあバレちゃったよ」

俺は昔話を終わらせて、手元を煙草に切り替えた。それと同時にデイライトは仕事の時間だと笑いながら俺の部屋を出て行った。

「アイツ最近、笑うの下手になったな」


***


瀬莉が目を覚ますまでは心配していた。
瀬莉のこと以上に自分の身を。ああオレはなんて最低な奴だろう。
もっと最低なのは、瀬莉があの子に関する記憶を喪っていたことに最高に安堵したこと。

そして一番に最低なこと。
オレはあんなことをしたのに、一番心配していたのは瀬莉に嫌われるんじゃないかってこと。
(殺されるのなら、まだいいんだ。)

でもいつか、いつか思い出したら、オレはきっと嫌われてしまうんだろう。これは絶対だ。
あの子の歯ブラシも存在も、ゴミ袋に詰めたってオレは逃げられないんだ。これも絶対だ。
瀬莉のきれいな右目で見られる時は、いつも怖くて。怖くて動けなくなる。笑顔だけは得意だからちゃんと貼り付けておくけれど。

「デイライトさん?」
「え。ああ!ごめんぼんやりしてた!」
「班長さんのお話聴いてました?」
「はは…白イルカの話だっけ」
「貴様良い度胸だな」
「作戦の話ですよ。デイライトさんには私から話しておきますからどうか叱らないであげて下さい」
「うむ、良かろう。任せたぞ」
「リジーありがとう、助かったよ」

こうやっていつも笑っていればいいんだ。なんにもバレないんだ。でもこれは絶対じゃない。
オレはしあわせな毎日を過ごしてる。大好きで大切な友達がいて、親友がいて、家族がいて。
いつかそれが嘘だって自分が気付いてしまったら、オレはまたデイライトじゃいられない。これは絶対。
いつかニコライがしたように、また繰り返し繰り返し。

時々思うんだ。あの夢は本当にあった出来事なんじゃないかって。
毎晩毎晩同じ夢。景色。声。そして同じ誰かのおとうさんとおかあさん。
まるで出来の悪い映画でも見ているような、同じチャプターを繰り返し繰り返し。

あれは出来の悪い映画なんかじゃなくて、出来の悪い本当にあった出来事だったってこと。オレだけは夢にしておかなくちゃ。
(オレは今しあわせなはずなんだから、)


みんなみんな、かくしごとなんだ。


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20100817







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