最愛の殺人犯さんへ/ベンジャミン


僕は結構昔、姉さんが観たいという映画を一緒に観に行ったことがある。
それはとんでもなく甘い純愛ものの映画で、愛し合う二人が苦難を乗り越えて、勿論ハッピーエンドさ。
姉さんは二人が抱き合う感動のシーンで目にハンカチを当てていた。
どこが泣けたのかな、とんだ茶番劇、幸せそうだね。なんて思ったけど、姉さんが感動したと思うのならば、きっとそうなんだろうさ。

「ベン、とっても素敵だったわね」
「うん、そうだね。姉さん」

そうか。名前をまだ呼んでくれるのか、姉さん。
僕のこと、誰だか分かってるんだね。

ああそりゃあ、酷いなあ。

「姉さん、そろそろ待ち合わせの時間じゃない?そこまで送るよ」
「あっ大変、ーーさんもう着いてるかしら?」

さあね、トラックにでも跳ねられてんじゃない?なんて言えなかったけど。
見てよこの幸せそうな顔!ああ素敵で最悪。
口角は自然と上がるけれど、とても吐き気がする。
そうさ、僕は姉さんの事が好きだ、愛しているよ。
もう僕とは同じ姓じゃない。よくわからないフルネーム。だっさくて、全然似合ってないよ姉さん。
それでも姉さんが、その方がうんと幸せだっていうその笑顔だけで僕を殺した。

姉さんが幸せなら、いいさ。それが僕の幸せ。

なんて、僕はそんな事を考えられる程出来た人間じゃない。
楽しかった仕事も、なんだこれ、全然意味もないものに感じる。今までは姉さんが喜んでくれていたはずの昇級、全然嬉しくない。

「いやになっちゃうな」
「どうかしたの?」
「…ああ、雨が降りそうだからさ」
「そうなの?ベンジャミンはなんでも分かって凄いね」

そうさ、僕は。姉さんのことならなんでも分かってる。誰よりもね。そう、姉さんよりも。
だからって、僕のひとじゃない。
仕方ないさ。
その一言ばっかり言い聞かせて生きてきた、今もこれからもずっとずっとそうするつもり。

「本当に、私の自慢の弟だわ」

ありがとう姉さん。僕はずっと貴女の弟。
他の存在にはなれなかった。




「……似合ってるよ、姉さん」

おねがいだよ、

「結婚おめでとう」

僕を置いてしあわせになんてならないで。


__________
side-Benjamin.
20130506
以前の 世界で一番幸せな君へとそんなに変わりはないですが、キャラを掴みたくて再度書きました
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄








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