世界で一番幸せな君へ/ベンジャミン




「ベン、見て」

ふわふわ真っ白いドレス
その時、間違いなく姉さんは世界で一番綺麗で幸せな花嫁だった。

「綺麗だよ、姉さん」

でもそれは僕が触れることの許されない、ガラスケースの中の、世界で一番綺麗で幸せな花嫁だった。

***

姉さんは普通だ、どうやらおかしいのは僕で。
幼少から理想の女性像は姉さんだ。というか、姉さんそのものだった。

僕は物心つく頃から姉さんを幸せにしたいと思っていて、ずっとずっとうまくやってきたはずだった。それなのに。

(うん、姉さんの幸せの邪魔をする権利は僕にはない。そんなことは知っている)

姉さんが、ええ幸せよって笑うならそれでいいはずなのに、僕はやっぱり自分勝手で。


「姉さん、式の日取りは決まった?」
「来月に式を挙げるつもりよ、無理して仕事休まなくていいんだからね?」
「なに言ってるのさ、そんなめでたい日に見に行かない馬鹿はいないよ」
(そう、馬鹿は僕なんだけど)

「知り合いの花屋に、うんと沢山花を用意する様に頼んでおくよ」
「ふふ、ベンが祝ってくれるなんて、私は最高に幸せ者ね」
「……世界で一番幸せになってね」

なんて幸せそうな顔してるんだ
嫌になっちゃうよ

幼少の僕の人生計画では、この最高の笑顔のモトは僕である予定だった。
でも薄々気付いていた。いや薄々なんかじゃない。はっきりと。
お互いに背も心も大きくなる程に、姉さんとは別の人生を歩むのだと。

それでも僕は姉さんを守れる強い人間になりたくて、出来もしない勉強を頑張って、努力で何人も蹴落として、必死の思いで軍人になった。
僕はそれからも変わらず必死に仕事をした。この歳で少将にまでなった。
やっと姉さんに顔向け出来る男になった、

そうでしょう 姉さん、

姉さん僕また昇進したよ

ねえ、僕は、すごいねかっこいいねっていつもの姉さんの言葉を電話口でドキドキしながら待ってたんだよ

知ってたかい?


『ベンに 会ってほしい人がいるの』


あんまりだよ姉さん


『大切な人なの』


「……え?ごめん外がうるさくて聴こえないや、はは…」
(そんなの嘘だよね、そうだよね?)


『結婚、しようと思うの』


あんまりだよ。

「……そう、なんだ。
姉さんを大切に思ってくれる人なら、いいんじゃないかな」

僕の声は震えていただろうか。
でもここで言える言葉は一つしか用意されていなかった。


「おめでとう、姉さん」


あくまで、僕の姉さんは僕の姉さんだったと、ここで思い知らされてしまった。
僕のお嫁さんでは、ない。

分かっていたつもりだった。
でもそれは、どうやら分かっているフリだったらしくて。
僕は電話を切った瞬間、どれくらい振りか分からない程久しぶりに、子どもみたいにわんわん泣いた。


それから僕が昇進する事はなかった。
でもこれからは姉さん「達」の幸せを守らないと。
僕は姉さんの幸せを守る為にここまでやってきたはずなんだから。

「姉さん、おかしいな。姓が、違うよ……僕と、違ってるよ…どうして」

写真立ての中の、2人の幸せな結婚式はぐしゃぐしゃと歪んでぼろぼろと零れる。

「……どうして、僕達は兄弟だったの…姉さん……僕は、」

姉さんのことを誰よりも、誰よりも誰よりも近くで見てきたのに。


「もう、幸せになってなんて 言えないよ……!!」


誰よりも、愛しているのに。
(僕の姉さんは世界で一番幸せな花嫁なんだ)


.
20121024

ベンジャミンの姉が婚約するのは本編以前の出来事です









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -