母の日/デイライト
「社長、休みを下さい」
「えー困るなあ、デイライト君はよく仕事が出来るから」
「実家に帰省したいんです」
「ああ、そっちは11月が母の日なのかい?休みは何日ほしい?」
「久々に両親と少しゆっくり過ごしたいから、出来れば3日ほど」
「分かった、なんとかシフトを組んでみるよ」
「ありがとうございます!」
(休みを取りにくるのは知っていた、毎年この時期だ。だから既にきっちり3日空けていた。
しかし、仕事が大好きな彼が休みを取りたいというのは気味が悪い、)
「社長にもお土産買って来ますよ!」
(それ以上に気味が悪いのは、そう、それが母の日だという事で。)
「期待しているよ」
(だってそうだろう?)
***
「ふいー鉄道疲れた…」
デイライトは実家のあるウラジオストクに今年も帰省した。
家までの通りでカーネーションとケーキ、家族でよく食べたシュークリーム、ジュース、ウォッカ、最後に暖かい色の手袋を買う。
母親はこのケーキ屋のイチゴショートが好きで、父親はこの銘柄のウォッカが好きだ。よく嬉しそうに買っていた。
手袋は、以前から母親が新しいのがほしいなあとぼやいていたのを覚えていたので母親の好きな色を選ぶ。
サプライズを準備する子どもの様にデイライトは楽しく買い物を済ませた。
プレゼントがすぐ見つかっては面白くないので玄関から死角になる場所に置いて、ゆっくり鍵を開ける。一息吸い込んでドアを開けた。
「母の日おめでとう!!」
あ、おめでとうってなんかおかしいな、と思いながらも家に入るが返事は無い。
『出かけてるのかな…?』
どうやら両親は外出している様で、部屋もきれいに片付いている。
仕方ないので気を取り直し、ケーキやシュークリームを冷蔵庫に入れてテーブルの椅子に腰を下ろす。
デイライトは絵本を読んだりテレビを見たりベッドでごろごろしたりして時間を潰していたが、ついに夕方になって部屋が暗くなり始めた。
「遅いし、心配だなあ」
思わず本音が漏れる。その心配をよそに雨が降り始めてしまった。
「…迎えに言った方がいいよね」
傘を差し、両親の分の傘2本と、こうなれば直接と思いカーネーションを持って、両親がいつも買い物や通勤で使っているバスが止まるバス停まで向かった。
2本ほどバスを見送ったが両親は帰って来ない。デイライトはますます心配になって、腕時計と時刻表を忙しく見る。
そこに通りかかった中年の女性がデイライトに声をかけた。
「あら久しぶりねえ****ちゃん、大きくなって。花なんか持って、両親のお墓参り?」
「――――ごめんなさい、何の話ですか?」
(彼は、誰に会いに帰るんだ?)
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20120513
完全にネタバレです。母の日おめでとうございます。