ブラウニーみたいな毎日/ディミトリ+ジェフリー+瀬莉




「彼はなんて?」
「喋るか糞野郎!だってさ」
「なかなか口が堅い…いや、堅かったんですね」
「ああ、自白剤でも喋りそうになかったからね」

空笑いをしてジェフは注文した紅茶を一口。僕は持参のペットボトルのミネラルウォーターを一口。おっといけない、持ち込みは禁止だ。

「もしエモニエが捕まったらどうする?喋るかい?」
「何をです?」
「そうだな、機密事項とか」
「喋る喋る、全然喋りますよ。それで命が助かるのなら」

喋るくらいなら舌噛んで死んでやる、なんて台詞はきっと来世でも言う予定はないだろう、と思う。
上司には雇ってもらっているという恩しかないし、命をかけろと言うなら即刻辞表を書かせて頂きたい。
テロが悪い事だと言うのはその辺の路地裏で寝ている子どもだって知っているし、ここの社員の大半は加えて恨みの感情も持っているだろう。
でも僕はそれを持っていない。その辺の子どもと同じくらいの認識でしかない。ああ、悪いことだ。人を殺すのも、些細なうそを吐くのも。
テロリストがバスを吹き飛ばすのも、軍が正義だという殺しも、この会社が悪い人間を殺すのも、悪い事だ。

「何回殺してもこの恐怖にも似た罪悪感が薄れたりはしないな、エモニエもそうだろう?」
「僕はまだ人を殺したことは無いですよ」
「…言われてみればそうだね。はは、すまない」
「いずれ殺すこともあるかもしれません、構いませんよ」

そうだ、処理を誤れば自分もろとも住宅や地下鉄が吹き飛ぶことは確実だ。だから僕はいつでも処理に関しては本気だ。
だって死にたくないじゃない、しかも自分のせいなんかで。
今まで、時間ぎりぎりであれ予測を外した事は無い。無線連絡する人間がちょっと鈍間なだけで。僕のせいで死んでしまった人間は知っている範囲ではいないはずだ。

「温厚そうなのに、殺しなんてするかもしれないのかい?」
「まだ読みたい本も沢山あるので軍のお馬鹿さん達には捕まりたくないですし、僕もいざとなればドライバーを脳天目掛けて投げてしまうかもしれません」

温厚そうだなんて、彼も彼で面白い。見た目で判断しているのか、普段のマイペースさで判断しているのか。
僕は他人にペースを持っていかれるのが好きじゃない。嫌いじゃなくて好きじゃない。ここ重要。空気は読まないと世の中やっていけない。反吐が出る程面白くなくても笑ってあげないとね。

「お。拷問の王子」
「神月!な、なんだいそのネーミング!勘弁しておくれよ」

レストランに、瀬莉君がパソコンを提げて現れた。これで周りから「根暗トリオ」と呼ばれる3人が揃ってしまった。
毒で拷問するジェフリーと、ハッカーの瀬莉と、そして本が恋人の爆弾処理の僕、ディミトリ。23歳独身。
正直、本と甘いデザートがあれば満足だ。でもこうやって3人で話すのも結構嫌いじゃない。嫌いじゃない。嫌いじゃない。うん、改めて便利な言葉だ。

「神月そのあだ名は君が付けたのかい?」
「ん?総務の女子が言ってたんだ。因みに俺は青二才。俺は童貞じゃない」
「そういう意味で言ったんじゃないと思うよ…」
「ディミトリは確か…」
「いいです、どうせ酷いあだ名なんでしょう」
「ボルシチ」
「酷い」
「明らかにビーツをそのまま入れたやつの、色のみの印象だね」
「若しくは袋綴じ」
「何故です」
「1、内容がピンク。2、袋綴じをにやにやしながら見てそう。3、開けたらガッカリ。という総務女子の印象だ」
「神月、君結構女子と仲良いんだね」
「僕人間不信になりそうです」

他人がどう思おうがどうでもいいって言う奴はどうかしていると思う。僕は人にどう思われているか常に分かっておきたい。でも全部は知りたくない。
そう、瀬莉君が持ってきたこの話の様な事は。ただ面白くないだけだ。

「それはさておき、さっき喋らなかった奴のパソコンから少し情報を頂いたんだが…まあ、甘いもんでも食いながら話そう。俺ここのスロイカまだ食ってないんだ」
「じゃあ僕はブリヌイで」
「僕はムラングでいいです」
「おいここロシアだぞ。あ、そういえばディミトリは今日誕生日だよな」
「…………そうですね」

前言撤回、24歳独身。だ。
すっかり忘れていた。そうか。

「ではパリブレストを追加で」
「だからここロシアだって」
「誕生日だなんて知らなかったよ、おめでとう。神月はよく知ってたね」
「ハッカーなめんな」

いつでも傍観者でいたいけれど、今日はこれでもいいんじゃないかと思ってしまった僕はまだちょっと人間らしい。
まだここでこうしてくだらない話をだらだらしていてもいいのかもしれない。そうつまり、こういうのは嫌いじゃない。



.

20110627

にことディミトリおめでとうおめでとう。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -