降り注ぐ日差しに投げ出された細い足首は、ともすれば触れただけでぽきりと容易く折れてしまうのではないだろうか。気遣わしく向け続けている視線の先で黒く浮かび上がった人形のような脚と、抱きかかえたひどく軽い体はそうした懸念をふくらませるには充分すぎたために、宗茂は急ぎ進めていた歩みを遅らせて慎重さをいや増した。武骨な歩き方では、要らぬ振動を与えてしまうやもしれぬ。しかし彼の境涯など露知らぬといった様子で途端にばたばたと忙しなく暴れ出した腕の中の主は、こら宗茂もっと早く歩きなさい!と甲高く叫んでは兜飾りをぐいぐいと引っ張った。体勢が崩れる。慌てて顔色を窺えば、やはり拗ねたような高慢な眼差しが注がれていた。硝子玉のような青い瞳と淡い色の髪が視界の真ん中できらきらと光り、それが宗茂の焦りを増長させる。 「申し訳ございません、しかしさきの戦いで足を挫かれたというのに、そのように動かれては……!」 あまりの軽さにこのままでは落としてしまいそうだと肝を冷やし、宥めながら宗茂は主を抱える腕に力を込めた。こういう場合はある程度重みがあったほうがよいのだと思い知る。我が主がこれほどまでに華奢な子どもであることを、ここ最近失念していたのかもしれない。常ならば触れることさえ許されぬ身であるのだから当然と言えば当然であったが、いつでも高らかに降りそそぐ声色によって、主の存在というのは宗茂の中で随分と威圧感を増していたようだった。「むねしげ! こらむねしげっ!」ひっきりなしに上がる声は、その体躯にたがわずまるきり幼さの抜けぬものである。すっかり気分を害してしまったらしく、思考をめぐらすことすら許さないといった風に髭を引いてきた白い指先に、申し訳ございませんと繰り返しながら眉を下げる。一度癇癪を起したらしばらく止まないことは承知しているだけに、どう宥めたらいいのか宗茂には分かりかねた。いつもならばお前はどこかへ行ってしまいなさいと一蹴されて終わりだが、今はそういうわけにはいかない。本来ならば一刻も早く怪我の手当てをしてさしあげなければならないというのに、手前はなんと情けないのだろうか、無骨な面立ちの裏でそんな悔恨をめぐらす。 「いたっ……」 「そ、宗麟様!」 「うう……これも宗茂のせいですっ、お前がちゃんと僕を守らないからですっ!」 「はっ……誠に手前が不甲斐ないばかりに…」 「うるさいですよ!ばかっ!早く城に連れていきなさいっ…思い出号も壊れてしまっったんですからね……すぐに作り直すんですからねっ」 「はい、承知いたしております宗麟様……しかし」 「うーるーさーいー!」 またしても暴れ出しそうな予感に、慌てて口を噤んで宗茂は足を進めた。遠巻きに見ているザビー教信者達は皆心配そうな目を向けてはくるものの、誰も近づいて声をかけようという者は居ないようであった。普段あれほど声高にあれこれと臆面なく騒いでいる癖に、この変わりようは何なのか。虫の居所を悪くした君主に関わりたくないとありありと顔に書いてあるのが見えるようで、口をひき結んで宗茂は歩調をやや強めた。 (やはりその程度のものなのだ…宗麟様は手前が守らなければ) 幼くして当主に祀り上げられた何も知らない少年が、例え見知らぬ宗教に身を染めようとも、西の立花とは端からそう生きることしか出来なかった。そう生きることこそが誉であると、宗茂は固く信じていた。抱き上げた体がこんなにも軽く、細く、力ないことを実感してしまった今では尚更のこと。その儚さががらんどう故であったとて、沿い続け、立たせる花はひとつのみ。 「宗茂っ! もっと僕を心配しなさい!」 幾度目か分からない呼びかけ、注がれる眼差しにかすかに笑んで応えると、頬を膨らませた主が首に腕を絡ませてきた。細い腕だ。この華奢さがいつか手折られてしまう恐怖に比べれば、あらゆる不遇などどうということはない。慈しみを込めて名を呼べば、痛みからかあるいは悔しさからか涙を浮かべた双眸がじっと宗茂を見つめ、つぎにまけたらゆるしません、と再び抱きつきながら小さくささやいた。 |