俺は人間が好きだ、愛してると言っても良い。但しそれは特定の人物を指す訳ではなく、人間という存在そのものを言う。醜くて愚かで愛おしくて堪らない!尤も、俺自身もそんな人間の内の一人だから、例外というのもある。シズちゃんがその最たる例だけど、あれは人間というより最早化け物といった方が相応しい部類だから除外しよう。じゃあどういう奴が例外かって?そうだなぁ、例えば…俺のゲームの邪魔をする存在。それまでは盤上の外側に居て、ましてやゲームの鑑賞をして居た訳でも無いような奴が、計画のあと一歩という所で突然現れて全てを滅茶苦茶にしていく。見方によっては大盤狂わせのダークホースとも取れるけど、そういうのは本人が無自覚の内にやってしまうからこそ面白いんであって、最初から俺の、この折原臨也の用意した舞台を潰すという目的の為だけに動く奴は別だよ。俺からすれば、楽しい楽しい遊びを邪魔された訳だ。気分が良い筈ないだろう?一度や二度なら目を瞑るさ、俺はそこまで心の狭い人間じゃないからね。でも、それが何度も続くとなると…流石に我慢の限界かな。
 
「ねぇ、どういうつもり?俺の邪魔をし続けたら、いずれこうなる事は予想出来てたんじゃない?俺がどういう人間か知ってるだろ、散々楽しみを潰してくれた君ならさ」
 
結局、ゲームを見て居た訳でも無いのに彼女がどうやって俺の情報を掴んでくるのか解らなかった、というのは、情報屋を名乗る身としては納得のいかない結果ではあるんだけど、相手が同業者ともなればそれも仕方がない。悉く俺のシナリオを台無しにしてくれただけあって、彼女の腕が確かなのは理解して居るつもりだしね。こうして罠に掛ってくれただけ良しとして置く事にしようじゃないか。
 
「君の事を調べさせて貰ったけど、別に今まで俺が君に対して何かをした訳でも無ければ、君の家族や友人、恋人に手を出した…なんて記録も無いんだよね。それなのにどうして、俺の邪魔ばっかりするのかな?悪趣味な行為が許せない正義の味方気取りって訳でも無いんだろう?それなら俺一人を相手にするより、もっと効率の良い方法があるしね。……ねぇ、理由を聞かせてくれないかな、ミョウジナマエさん」
 
廃ビルの一室、コンクリート剥き出しの柱に縛り付けられた彼女は、それまでずっと項垂れていた頭をようやく上げてこちらへと目を向けた。疲労が色濃く表れている表情の中に、然しその瞳だけは確かな意思を湛えている。柄にも無く、背筋に悪寒が走った。彼女の赤い唇が弧を描く。
 
「…さぁて、何ででしょうね。お得意の方法で見事調べ上げてみたらどうかしら?情報屋の折原臨也さん。尤も、私も情報を扱う者として、そう簡単に答えを曝け出すつもりなんて無いけどね。少なくとも私の事をそこまで調べ上げた事は褒めてあげる、一つだけヒントを上げるなら、これは誰の為でも無い、私の為にやってる事よ」
 
その言葉を言い終わるが早かったか、彼女を拘束していた筈の縄が一瞬にして解かれるのが早かったかは解らないが、次の瞬間には彼女は既に廃ビルの窓へと駆け出していた。予想外の展開に一瞬の遅れを取ってしまう。
 
「パルクールを習得してる情報屋が自分だけだと思わない方が良いわね、肉体労働もある程度は自分でこなす業者も居るのよ」
 
じゃあね、といって女は躊躇無く三階の窓から飛び降りた。すぐさま窓に駆け寄り下を覗くと、それは華麗なまでに壁などを利用して地上へと降り立ち、こちらを振り向いて手すら振る彼女の姿が見えた。程無くして、もう二度と振り向く事の無いままビルの谷間にその背が消えて行く。
 
「…っは!これは、見事にやられたなぁ」
 
こちらが仕掛けた罠に嵌ったのも、集めて置いた手勢に抵抗する気力が無くなるまで暴行を受けたのも、疲労困憊しこちらの問い掛けにも反応出来ない状態だったのも、全てが演技だったという事らしい。いや、演技どころか、それらがすべて実際に俺の指示通りに行われていたかも今となっては定かではない。彼女を掌で転がすつもりが、気付けば逆にこちらの方が彼女の掌の上に居たという訳だ。
 
「はは、あははははは!面白い、良いねぇ、とても面白いよ!この俺がここまで踊らされる何てね、最高に滑稽じゃないか!……そっちがそのつもりなら、こちらも相応の手段でお返しをさせて貰おうじゃないか。楽しみにしてなよ、ナマエさん」
 
これが二人の出会いのお話。
 
 
認めたくない恋のお話
 

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